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24:side カミーユ

 


「おいヴィル。本当に寄らなくていいのか?」


「そうだね。僕の目的も果たせたし、ヘカテさん……の反応からして、確定かな」


 ヴィルの性格から、帰る前に食堂へ行くと言い出すかと思ったが予想が外れた。

 俺たちは学園へ帰るために馬車へ乗り込む。

 もちろん、殿下がいるため専用馬車だ。


 俺がヴィルと殿下を連れて視察に来たのは理由がある。

 発端はコイツの一言だった。


「とある食堂に、妹とよく似た人物がいる」


 同時期に入ったコイツが妹を忘れられないのは、もはや周知の事実だ。

 去年なんか、もう三年も経つのにどれだけ引きずっているんだというくらいの落ち込み具合だったしな。


 最初は気でも触れたのかと思ったのだが、外の景色を見てこい、と言った俺の責任もある。

 どうしても外せない用事があったコイツの代わりに寄ってみたのだが――。


 ……いや、あのことは忘れよう。

 今は情報共有が先だ。




「てことは何だ? お前の『妹』と、ヘカテのいう『クロウド』のソックリさんがいたということは……やっぱりあの店主、タダモンじゃねぇな。もしかしたら本当に魔――」


「それ以上は禁句だ。いくらカミーユでも許せない」


 強い力で腕を掴まれ、まるで視線だけで殺してみせると言うかのように睨まれた。

 チッ……こいつはそういう・・・・奴だったな。


「しかし、怪しいのは事実だろ? ヘカテはどう思った?」


 前に座るヘカテへと視線を向ければ、隣に殿下が座っていてもお構いなしに、夢見心地のようだった。

 そんなに『クロウド』様に会えたのが嬉しかったのかね?


「はふぁ……例えどのような事情があったとしても、生きていらしただけで十分……いえ、私も学園を辞め、フレアさんと一緒に働こうかしら?」


「おいやめろ、冗談に聞こえないぞ」


「うふふ。私は本気ですわ」


 なお悪いわ。

 全く、次期副会長候補で、学年上位に入るほどの実力者のくせに、どれだけクロウドのことが好きなんだか。

 ヴィルのやつもそうだ。

 俺よりも成績が良いクセに、いつまでも妹に固執しやがって。


 殿下は嘘か真かわからない発言に苦笑しながら、ヘカテとヴィルへ交互に視線を向ける。

 二人の意思を察したのだろう。

 やがて、まるでお手上げだというかのように両手をあげた。


「でも、ボクにはあの魔女と言われる人が悪人とは思えなかったね。店の雰囲気も悪くないし、あの二人には嫌々という意思が感じ……いいや、男性のほうには感じなかったね」


「それは本当ですか?」


「うん。ただ、別人という線も否定出来ないけど」


 ヘカテは「そんなことありません!」と殿下に詰め寄っているが、俺も殿下と同じ意見だ。

 あの粗末な女が、ヴィルの妹なわけがない。

 貴族の娘どころか、ただの町娘でももっと慎みがあるってモンだ。

 いくら妹の面影を残していると言われても、とうとうヴィルが壊れちまったようにしか思えない。


「で、お前はどう思うんだ? 主席さんよ」


 隣に座るヴィルは、目を瞑ってまるで寝ているかのようだったが、意外にもすぐに反応が返ってきた。


「妹とクロウドに共通するのは、二人とも魔女に殺されたということ。その二人は必然か偶然か『魔女の家』で働いている。僕にはその事が無関係には思えないね」


 俺も疑問には思っていた。

 この前振る舞われたフルコース・・・・・なんかは、常人では再現できないほどの魔法だった。

 少なくとも、学園の先生すら再現できないだろう。

 いくら説明しても、あの魔法の凄さは信じてもらえなかったが。


 となるとだ。

 二人は殺された後、魔女の手によって下僕にされた――なんて、恐ろしい考えも浮かんでくる。

 死人を操るって、もはや魔女というよりネクロマンサーだろ。


 ヘカテも同じ想像をしたようで「ああ……クロウド様が魔女のお人形に……」とかつぶやいている。

 あのババア、死体を弄んでおいてバレないとでも本気で思っているのか。


「もしかしたら記憶を消されているのかもしれない。だからフレアさんは、本能で僕を求めてきたのかもね。

 そうじゃないと、クロウドとやらがヘカテを覚えていないはずないし、妹は……。

 あのフレアさんが、本物のクレアだというなら――」


「クロウド様も、私を忘れるはずがありませんっ!」


 二人は既に魔女からの奪還計画を企てているようだった。

 もしあれが本物・・なら、死人は魔女の近く以外では生きられないことだろう。

 現に、あのクロってやつは店から出たことがないと、その辺の客が話していたしな。

 俺らは勝手にあの店主を魔女だと決めつけていたが、殿下は納得がいかないような顔だ。


「ま。この件は父さんたちに相談かな。ここ中央に魔女はいない・・・・・・けど、紛れ込んだのかも。ただ――」


 そこで言葉を切り、殿下はそれっきり喋らなくなる。

 ヘカテとヴィルは不思議に思っていたが、俺には小さな……小さな呟きが聞こえてしまった。


 それは、誰のことなのか。

「ただ……あの人がいるはずは、ない」

 思わず、あの店主のことか? と聞きたくなかったが、提案を却下された手前、意味のないことだ。


 多分、次の休日も二人はあの場所に行くだろう。

 それこそ、二人の大切な人を奪った魔女。その犯人を見極めるために。






「ところで、君は何でウェルダン君て呼ばれてたの? まさかカミーユのことだとは思わなかったけど」


「あ、それ私も気になっていました。フレアさんにも随分と嫌われていたようですが、何をやらかしたんです?」


「………………」


 おいヴィル、無言で睨むのはやめろ。

 アイツはお前の妹じゃないだろ。

 トン、と軽く肩を叩いたのは誰だったか。


「時間はたっぷりあるし、説明してね?」


 ……まだ、学園への道のりはかなり残っている。

 くそっ、二度と行くかあんな店!





25話時点。

殿下以外の考えを修正しました。

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