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1:ここはそういうコンセプト?

 

 どこからか聞こえる小鳥の囀りに誘われ、薄っすらと目を開ける。

 フカフカのベッド、見慣れぬ天井、そしていくつかの調度品。


 ここはどこだろ?

 ホテルというより、どこかのお屋敷みたいな一室だ。


「私、どうしちゃったの?」


 声に反応してか、近くにあった置物が動いた。

 正確には、置物だと思っていたメイド服が動き出す。


「……ッ!」


 中に人が入っていたとは思わず、ほんの一瞬息が止まった。

 しかし、驚いたのは彼女もだったらしい。


「クレアお嬢様っ! す、すぐに旦那様を呼んでまいります!」


「は、はあ?」


 それだけ言って、メイドの女性は部屋を飛び出していったけど。

 お嬢様? 

 何? ここはそういうコンセプトなの?


 最後の記憶は、終電で駅から降りたところまで。

 誰かとすれ違ったのかもしれないけど、それ以降の記憶はあやふやであまり思い出せない。


 もしここがどこかのお店だとしても、私を連れ去ってどうするつもりなのだろう。


 見るからに高そうなお店だし、請求されてもお金ないよ?

 レディースもどこかに隠され、今はふんわりとしたネグリジェだし。




 状況を理解できぬまま悩んでいると、外からドタドタする音が近づいてくる。


 まさか料金の取り立て!?

 貴重品も持ってないのにッ!


 そして、バァン! と扉が開放される。


「クレア! 目を覚ましたか!」


「ごめんなさい! まずお財布を――え?」


 突入してきたのは、借金取りのような体格をした……しかし、顔はそこまで怖くない壮年の男性だった。

 周りを見渡してみるも、ここにいるのは扉をぶち破りそうだった男性と、さっきのメイド。

 それと私。


 えっと、クレアって誰の事?

 ここが貴族喫茶だったとしても、いきなり合わせろなんて無理よ?


「おおっ、クレア! 今回ばかりはもうダメかと思ったが」


「え? ちょっ……ち、近づかないで!」


 男性は腕を大きく広げ、そのままベッドにダイブしてきそうな勢いだったので両手で拒絶した。

 知らない男性に抱き着かれる趣味はないです!


「クレア?」


「やめてください! まず説明を!」


 意識がないうちに連れ去られ、初対面の男性にいきなり抱き着かれる。

 どんな悪夢よそれ。


 私の反応を受けてか、二人も困惑したように顔を見合わせている。


「クレア。お前はここ一週間は目を覚まさなかった。せめて、触れ合える時に愛情を表現したい」


「愛情? そんなのセクハラで訴えますよ」


「セク……何だい?」


 見た目はダンディなおじさんだけど、筋肉質な腕は私をすぐにどうにでも

 できそうな怖さがある。

 このお店の用心棒って言われても納得できるけど、メイドの言う旦那様って設定ならここの家主よね。


 けど、やっぱり説明ナシでなりきるのはムリ!


「まず、貴方は誰ですか? 私に求める役割があるなら最初に説明するのが筋でしょう?

 それに、勝手に着替えさせられた件はいいとしても、私の鞄とレディースを返してください」


 ここが貴族喫茶みたいな場所でも、後でちゃんと乗ってあげるから。

 しかし、私の要求は通らなかった。


「クレア? お前は本当にクレアなのか?」


「旦那様。これはまさか……」


 メイドが男性に耳打ちすると、男性はどこか力のない表情を浮かべて去っていく。

 そして、最初の勢いが嘘だったかのようにパタンと扉が閉められた。


 残されたのは、メイドと私。

 そしてメイドは、恐る恐るといった感じに私に近づいてくる。


 さっきは強めに言ったけど、私怖くないよ?


「ク、クレアお嬢様? 私が誰なのかわかります?」


「………………いいえ」


「っ!」


 その答えを聞いたメイドは、ハッと息をのんだ。

 それでもメイドは、感情を押しとどめるかのように言葉を続ける。


「貴方はクレアお嬢様、ですよね?」


「そういう設定なの? けどまずはこのお店のコンセプトから説明をしてくれないと――」


 それ以上、言葉を続けることはできなかった。

 だって私は、いま扉を開けた人物へと釘付けになってしまったから。


「クレア。目が覚めたのかい?」


 涼しげで透き通るような声が響く。

 その声の持ち主は、薄く青みがかかった髪を肩まで伸ばした男性だった。

 少しキツ目な目元と、それを隠すかのように伸ばされた前髪。


 しかし、そんな陰気なイメージを吹き飛ばすほどに爽やかな表情が、彼がただ物静かな人物だということを主張している。


 多少の先入観はあるだろうけど、だって彼は私の――。


「……ヴィル様が、どうしてここに?」


「おはよう、僕の眠り姫。いつもみたいに呼んでくれないのかい?

 ――お兄様、と」




 その時、私は思い出した。

 この間プレイした乙女ゲーム『Magic☆Cats』に、似たような間取りの部屋があったこと。

 私の推し、ヴィル・ラグドーレ様にクレアという妹がいたこと。


 そして――

 そのクレアが、ゲーム開始に亡くなっていたことを。


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