表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/64

15:またすぐ会えますよね?

 


 え、嘘なんで!?

 そこにいたのは、思い出のままのヴィル様だ。

 この世界で会ったヴィルお兄様ではなく、ゲームの中で見たヴィル様そのもの。

 そんな! 急に来られても、何の準備もできていないのに!


「……ッ! ヴィ…………んで」


「君はまさか、本当にッ!」


 ハッ! と気づくも、時すでに遅しだ。

 初対面であるはずの私、ましてやこんな食堂の町娘が、彼の名前を知る可能性は低い。

 もし生きてるとわかったら、無理やりにでも連れ出されちゃうかも。

 ……嬉しい! けど魔力が暴走して死にたくない!

 どうしよう、何か考えないと!


 私が硬直しているのもお構いなしで、ヴィル様のほうはマジマジとこちらを見てくる。

 恥ずかしい。思わず顔を逸らしてしまった。


「おいおい、どうしたフレアちゃん。まさか一目惚れか?」


「おっ、若いねー。祝いにエールを追加してやろう。それとも、嬢ちゃん的にはビール・・・と言ったほうがいいか?」


「おいこっちにも早くビール・・・持ってこい」


 外野の催促する声がうるさい。

 もうっ! こっちはそれどころじゃないのに!


「あ、あの。私は……」


「あ、いや。仕事の邪魔をして悪かったね」


「え?」


「君はフレアと言うのだね。すまない、僕の知り合いに似ていたから……そんなことありえないのに。ビール・・・だっけ? 早く運んで・・あげて」


 それだけ言い残し、ヴィル様は静かにカウンター席へと歩いて行った。

 その足はクーちゃんを見て一瞬止まったけど、すぐに何事もなかったかのように着席した。

 勝手に納得してくれたのはいいけど……あの、放置された私はどうしたら?


「今日はどうしてやろうかねぇ……」


 ポン。と頭に何かを載せられた。

 この感触、お皿……ってことは。


「し、師匠!」


「このアタシに運ばせるたぁ、わかってんだろうね?」


「今すぐ運びます!」


 その日は、ヴィル様がチラチラ視界に入るためミスが多かったけど。

 彼は静かに食事を終え「また来るよ」とだけ言って去っていった。

 ……やっぱりカッコいいなぁ。




 あれから私は一日中うわの空だった。

 もうすぐ店じまいというのに、まだヴィル様が使ったお皿を片付けることはできない。


 客もまばらになってきたし、そろそろお掃除でも始めようかしら?

 そう思っていたら、横からツンツンとつつかれた。


「見ぃーちゃった♪」


「あっ」


 そこには、フラれたばかりのお姉さ……よくしてもらっているお姉さんがいた。

 あんな話をした後ですものね。そりゃあ気になりますよね。


「さっきの彼が、フレアちゃんの想い人?」


「えっと。そうであって、そうでもないような……」


 兄だと言うと、クレアと同一人物だということがバレてしまう。

 かといって、想い人というのも否定したくない!

 ここは常連さんに言われたようにアレでいこう。


「この前、街で見かけたときに一目惚れして。あれから全く会えなかったので動揺しちゃいました」


「あらそうなの。まだ若そうだけど、どこかの貴族様かしら。こんなところに一人で来るなんて珍しいわね」


 魔法学園は入寮制なので、学生たちが外出する機会は少ない。

 学園の近くや、休みを利用して自宅に帰る生徒もいるけど、ここは同じ中央でも国境寄りだ。

 移動だけでも半日以上かかるのに、ヴィル様はどうしてこんな場所に一人だったのだろう?


「でもよかったわね。また来るよって言ってもらえて」


 そう!

 今まで会いたくても会えなかったけど、また来てくれるって!

 これなら明日からの仕事も頑張れちゃうかも!


「うふふ。これからは私も、お姉さんに酒の肴を提供できそうで……あれ?」


 いつの間にかお姉さんの姿がない。

 もう帰っちゃったのかな?

 何も言わずに去るなんてお姉さんらしくも――。


「ゴキゲンだねぇ。その酒の肴とやら、アタシにも提供してくれないかい?」


 いたのは般若が一人。

 いつもは閉店ギリギリまで粘るお客の姿も消えており、お店の中には私と師匠しかいない。

 にげ……。


「えっと、本日は閉店なので、また後日でお願いします?」


「ハハハ、二日連続で罰を受けたいたぁ、いい心がけだ」


「あっ、アイアンクローやめて! ういてる! 浮いてるからぁ!」


「このまま部屋まで運んでやるよ。静かにしな、暴れるごとに一日追加だよ」


「うぐっ……いだいげど、がまんじまずぅ……」


 その後、三日間は療養した。




 魔法陣に載せられ、何もない空間に一日。

 火あぶりの刑を痛覚ナシで一日体験。

 全身からスーっと血を抜かれつつ、並行して魔法薬の精製を師匠と共に一日。


 最後の一日は失敗イコール命の危機だから、私もヒヤヒヤした。

 師匠がミスするわけないって思うけど、あの人ならわざと「やっちまったよ」とか言いそうで。

 もうこんな経験はしたくない。

 次にヴィル様が来たときは、動揺しないように気をつけないと!




「そういやアンタ、明日から出てくるのはいいが、一昨日そのヴィル? て奴が来てたようだよ」


 は?

 せっかく復帰したのに、何ですかそれ。

 考えてみれば、学園の休みは二日連続。

 来る機会は限られるので、おそらく学園に戻る前に一度寄ってくれたと思うけど……思うけど!


 言葉が出ないほど混乱する私に、師匠はそりゃあもう深く、ふかーくため息をついた。


「アンタの顔を見るに、やっぱりありゃ親族かい。わかってるだろうが」


「うぅ……そうですよ。クレア・ラグドーレという人物はすでに亡くなっていますからね。ダイジョウブ、ダイジョウブデスネ」


「全然大丈夫じゃなさそうだね。やれやれ」


 結局、追加でもう一日休んだ。

 この日に限って言えば、クーちゃんも一日中店から離れなかった。

 ああ、私の癒やしが……。


 けどまた学園が休みの日、今度こそヴィル様と会えるはず!



 ◇◇◇



 待ちに待った学園の休日。

 移動に半日以上かかるとみても、もう来てもおかしくない頃合いだ。

 さあ、いつでもヴィル様を迎える準備はできているんだから!!


「いらっしゃいませー! お一人様ですか? お好きな席へ――」


「ここか? ヴィルの奴が拘るので期待したが、普通どころか無駄に気持ちの悪い店だな。そこのお前、早く案内しろ」


 は? あんた誰よ。

 呼んでないから、さっさとヴィル様連れてきなさい。




ブックマークありがとうございます!

1週間ほど家に帰れないので、次は金・月で予約更新します。

書き溜めはいい奴だったよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ