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14:とある食堂での

 


 クロウド様が店に出るようになって、三か月ほど経った。

 いまではクーちゃんの指定席も見慣れたものだし、黒猫に怯える客も減ってきた。

 たまにクーちゃんを虐めようとする人もいるけど、そこは師匠や常連さんが対応してくれる。

 ……O・HA・NA・SHIする姿なんて見ていないんだから。


 馴染んできたのはいいけど。

 私も十五歳になったし、本来ならそろそろ……。


「ししょー、何かおかしいとは思いません?」


「何だい? ここの仕事にも慣れてきたみたいだし、ちゃんと小遣いは与えてるだろ」


「いや、そもそも魔法がですね」


 十五歳。

 魔法の適性がある者は魔法学園へ通い、親元を離れる年頃でもある。

 同年代の子は学園通いしてるというのに、私はまだ食堂にいた。


馴染んで・・・・いないだろ。もうちょい待ちな」


「それって、外に出られるようになったらいいってことですか?」


「さあね」


 それに反応するように、クーちゃんもふわぁーとあくびをする。

 そういえばクロウド様も同年代だったわね。

 ゲームでは学園で黒猫が目撃される頃だけど、彼はここにいたままでいいのかしら?


「クーちゃんは学園に行かな……未練はないので?」


「にゃ」


 うん、わからん。

 ここにいるってことは、肯定ってことで。

 でもこんなの……こんなのって。


「いつヴィル様に会えるかわからないじゃないですかーっ!」


「ふにゃ!?」


 いきなり大声を出したのでクーちゃんが飛び上がる。

 けど、今は師匠に詰め寄るのが先!


「うるさい! 全く、客がいなかったからいいものを」


「え、いつもこの時間は閑古鳥ないてますよね?」


「……やっぱりお仕置きが必要かね」


 私だって、魔女見習いになったからには魔法を使いたい。

 具体的には、クーちゃんとお話したい。

 けど、師匠が教えてくれるのは魔力操作のみ。

 それもお皿を魔力で支えるという、地味な使い方!


 おかげで4枚皿を運んだり、頭上にのっけて芸みたく運べるようになったけどさ。

 なんという魔力の無駄遣い。

 師匠は皿だけ浮かせ、飛ばすこともできるそうだけど、料理は手渡しすることが大事なんだとか。


「文句ばかり言っていないで、暇なら本でも読みな」


 ほれ。と渡されたのは、師匠愛用の鍋敷きだ。

 ……鍋敷きなのだ。


「いつも思うのですが、魔導書を鍋敷きにするのはちょっと冒涜的ではないでしょうか?」


「あ? アタシがどう使おうと勝手だがね。それにコイツは、保温効果もあるから合理的だろ?」


 あ、ハイ。

 目の前にあるのは、名状しがたい鍋敷きのようなものだ。

 けして〇〇の書とかいう、大層なモノではない。

 表紙に書かれている模様が、保温効果のある魔法陣になっているんだとか。


「うーん。理解はできるけど、実践ができないからモヤモヤするぅ……」


 この魔導書は十数回読んでいるけど、載っている魔法を試したことはない。

 前に隠れて使おうとしたときは「身体が爆散してもよいなら止めないよ。また後継者探しかねぇ」と師匠に脅された。

 ……せっかく生き延びたのに、そんなヘマはしたくない。


「どこか魔法を試せる場所ってないですかね?」


「ないさ。アンタのことだ、歯止めが利かなくなって暴走するだけさね」


「ならせめて、変身魔法だけでも!」


「一生戻れなくても良いなら教えてやるよ」


「師匠のいじわる」


 このやり取りも何回めだろう?

 結局、自分で魔女の血を支配できるまでは何もできないってことね。

 今はクーちゃんもいるし、仕事もそこそこ楽しいからいいけどさ!


 ああ、ヴィル様に会いたい。



 ◇◇◇



 ここ『魔女の家』は、夜はそれなりに繁盛する。

 おかげで私も大忙しだ。


「フレアちゃん、今度はこっちを頼む!」


「おーい、エール4つ追加で持ってこい!」


「あ、こっちは日替わりセットで」


 こんなに忙しいと、クーちゃんで癒されるヒマさえないじゃない!

 運ぶだけなら師匠も手伝ってくれたらいいものを「これも修行のうちさ」と言われ、私一人だ。

 ……あの、サボりたいだけでは?


「はいはーい! 順番で持っていくから!」


「はいよ。これも追加で持ってお行き」


「えっ、でも両手が……」


「ほれ」


 両腕に一枚ずつ、それとエールを2つずつ持っているというのに、頭の上にお皿を載せられる。

 これがクーちゃんだったら喜ぶのになぁ。

 ちなみにクーちゃん。いつものように寝てるだけだ。


「ハッハ! 出た、フレアちゃんの大道芸だぁ!」


「おう、今日は何回連続で出来るか賭けるか!」


「のった! 俺は三回だな。あ、エール2つ追加で」


「人で遊ばないでよ!」


 このやり取りもいつものことだ。

 注文が増えると、その分売り上げも増える。

 師匠としてはもっとやらせたいのだろうけど、運ぶ方としては気が気じゃない。


 だってもし落とすと「魔力全抜きの刑」だ。

 倒れるまで水晶玉に魔力を吸われ、ベッドから一日中起き上がれなくなる。

 もちろん、悪夢付きで。

 なら「やらせるな!」と言いたいけど、これも修行らしいので……。

 ひょっとして、なんでも修行で済ませようとしていないかしら?


 ちなみに、お客さんはただ面白がっているだけだ。

 師匠の命令じゃなきゃ断るのに!



 ◇◇◇



「はぁー……今日もつかれたー」


 常連たちの笑い声でクーちゃんが起き、頬擦りしたら逃げられた。

 そんな私を甘やかしてくれるのは、いつもお隣のお姉さんだけ。


「ねえししょー」


「ダメだ。アンタにはまだ早い」


 ぶぅ。

 わかっているけど、そろそろヴィル様に会いたいんだもの。

 ちなみに常連さんたちは、師匠が私を手放したくないから外へ出さないと認識しているらしい。

 噂では「魔女の生贄」として囚われた姫だとか。

 私が姫だなんて、もうっ! 上手いんだから!

 ……実際は、タダの労働力だけど。


「チッ、アンタのためでもあるんだ。わかってるだろ?」


「それは……ええ。でも、だってもう三年ですよ、さんねん!」


 本来なら魔女の血を制御できている頃なのに、全くその傾向が出ない。

 師匠にも「アタシの見立て違いだったかね? ま、見捨てやしないから安心しな」と言われる始末だ。

 あの、ちゃんと責任取ってくださいよ?


「はぁ。せめてあの人に会えたら日々に潤いが出るのに」


「え? フレアちゃん恋人でもいるの? お姉さんに話してみて?」


「そっ、そんなんじゃないですよ!」


 会いたいなぁ。

 この店は同じ中央にあるけど、魔法学園の生徒は未だにこない。

 制服じゃないだけで来たかもしれないけど、誰がそうなのかわからないしなー。

 ま、そろそろ師匠に怒られそうだし、休憩も終わりにしよっと。

 ちょうどお客さんも来たみたいだし。


「いらっしゃいませー! お好きな席、へ? どう…………して?」


 そこには、どこか見覚えのある男性がいた。

 かつて見た青い髪は短くなっており、前はキツ目な印象を与えた目元も隠されていない。

 けどその顔は酷くやつれており、どこか憂いを含んだ・・・・・・イメージを与えてくる。

 彼はこちらをみて、一言。


「……クレア?」


 聞き覚えのある声で、そう発言した。




誤字報告ありがとうございます。

人物名を間違えるとは……

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