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11:前も後ろもモッフモフ

 


 私が師匠に助けを求めた隙に、黒猫ちゃんは脱走を試みたらしい。

 師匠を連れてバスケットの中を見るも、そこはもぬけの殻だった。

 でもすぐに見つかったけどね。

 だってここの扉、ノブ回さないと開かないし。

 いくらカリカリしても、扉は開きませんよ?


「まあまあ、落ち着いて」


「フシャー!!」


「こりゃ話にならないね。どうやらよほど人の好意が信じられないみたいだよ」


 師匠はのんびりとしているけど、黒猫ちゃんを抑えようとしているのは私だ。

 しゃがんで手を差し伸べても、さっきと同様に怯えて威嚇されるだけで埒が明かない。

 あの、傷がどんどん増えていくので、そろそろやめてくださる?


「ほらアンタ、何て言ったっけ名前。それを言ってやりゃちょっとは落ち着くんじゃないかい?」


「シャーァ!!」


「えーっと、クロウド・・・・様?」


 口にした途端、ビクン! と面白いくらい飛び上がった。

 それこそ、しゃがんていた私の頭を越えて、そのまま肩に着地するくらいに。

 ……これ、確定でいいのよね?


 首を横に向けると、クロウド様と私の鼻先が触れた。

 一瞬ビクッとしたものの、慌てて床に飛び退いたクロウド様。

 まだ怯えているようだけど、今度はこちらが何者か警戒しているのかしら?

 でもこれに関しては、私の一存で明かせない。


「師匠?」


「……しょうがないね。これじゃ話はできないし、ちょいと裏に連れてきな。

 お前さんもついてくるんだよ、いいね?」


 師匠は後ろを見もせずに住居のほうへと引っ込んでいく。

 私もそれを追って、黒猫ちゃんもゆっくりと歩いてくるのを確認しつつ奥へと向かう。

 そして向かったのは併設されている小さな工房。

 そこには、ちょこんと黒猫が……待ち構えていた。

 目をゴシゴシこする。見間違いじゃない。

 ということは。


「し、師匠ぉ! こんな可愛らしい姿になって!!」


『やめんか! アンタのためじゃないことはわかってるだろ!』


 思わず抱きつくとベチン! と猫パンチを何発かもらう。

 けど痛くもないし、逆にプニプニの肉球ありがとうございます!


「ほらほら、師匠お気に入りのマッサージ、どうですかー? してほしくないですかー?」


『ぐっ……今日は夜の仕込みがあるから、そのうち頼もうかね。とにかく、今はお前さんが先だ』


 そういえばクロウド様が居たんだっけ。

 師匠を抱いたまま、後ろを振り返る。

 またまた金色に輝く瞳を大きくした黒猫ちゃんが一匹。

 手の中には黒猫。後ろにも黒猫。

 ここが、モフモフ天国か……!


『さっさと離しな。さもないと今日は悪夢二割増だよ』


「あっ、ハイ」


 天国から地獄に落とされた気分だ。

 私が解放すると、師匠はシュタ! と音がしそうなほど見事な着地を見せてくれた。

 師匠、猫に慣れていらっしゃる!


『お前さん。アタシの言葉がわかるかい?』


「ニャ、にゃあぁ……なーお、なーなな」


『ほう、そりゃ大変だったね。けど残念ながら……』


「なー……な。ニャ、ニ゛ャ!」


『あ? そりゃお前さん。選択肢は……』


 うん、全くわからん。

 師匠の言葉はわかるけど、クロウド様は猫だ。

 もうそのまんまなので、私も猫にならないとわからない。


 猫に変化する魔法は高等技術らしく、ただの魔女見習いにできるレベルではないらしい。

 特定の動物以外には変身できないし、東の魔女であるヒロインみたいに変身ができない魔女もいる。

 ちなみに師匠は、フクロウにも変身できるってさ。

 あのとき頭を叩いたこと、忘れませんからね?


 二人のお話はまだ終わらない。

 にゃーにゃー言い合っているのを見ているのも楽しいけど、やっぱり意思疎通はしたいわね。

 師匠に用意しろって言われたし、文字の一覧でも探してこよっと。



 ◇◇◇



 ガラクタの詰め込んである倉庫から戻ったときには、既に話がついた後だったみたい。

 工房には、クロウド様が丸くなっているだけだった。


「あれ、師匠は?」


「ん」


 首だけで食堂のほうを差す猫ちゃん。

 かわいい! けど、触ったらまた機嫌を損ねそう。

 とりあえず文字盤だけその辺に置き、まずは師匠に確認するべしだ。


「ししょー、どうなりました?」


 厨房に入ると、師匠は何時も通りの動きをしている。

 さっきまで黒猫になっていたのが信じられないくらいだ。

 ああ、あの猫パンチしてきたお姿は何処へ……。


「どうもこうもないさ。アンタの予想通りだったよ」


「本当にクロウド様だったんですね。南まで連れて行きます?」


「たしかにあの野郎が原因だったみたいさ。けどね、アタシもアンタも動けない。そう説明したら、しばらくはここにいるとさ」


「飼っていいんですね!!」


「飼うって、動物じゃな……いや、動物か」


 これでいつでも黒猫をモフり放題!

 言葉も通じるし、この環境はクロウド様も大満足ではないでしょうか!


「あ、アンタの目が怖いからあまり近づくなとさ。

 それと魔女と魔女見習いについては伝えたが、ヒロイン? というやつは説明してないからね。それと数分だけ元に……」


「わかりました! 適度に近づきますね!」


「聞いちゃいないか」


 とにかく、合法的(?)にモフれる存在がうちにきてくれた。

 今でもヴィル様一番だけど、クロウド様は黒猫状態に限って同等に扱っちゃう!

 だってこれからいつでもモフり放題だし、言葉も通じるモフモフって最強なんだから!

 早速、許可をいただいてその毛並みに顔を……。


「あ」


「へっ?」


 工房に居たのは黒いモフモフ……ではなく。

 全裸の男性、でした。

 ――――大きく、おおきーく、息を吸い込んでっと。


「わかった、深呼吸だな。まずは落ち着け」


 ふぅぅぅぅ……。

 え、なんでわかったの? この人こわい。




背もたれにクッション追加したら、背骨がものすごく楽に。

異世界人もびっくりですよ。

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