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10:飼ってもいいですか?

 


 私が知っている『Magic☆Cats』における攻略対象。

 それは五人いる。

 ヴィル様以外にあまり興味がなかったのだけど、その中に隠し攻略キャラ一名。

 それがこの……黒猫ちゃんの可能性がある。

 というか間違いない。


 ある日、誰とも友好度が一定にしかならなかったヒロインは、夜の散歩中に不思議な男性と出会う。

 噴水の近くに一人座り込む男性。

 季節はまだ肌寒いのに、なぜかその男性は服を着ていなかった。

 ヒロインは寒そうにしている男性に、羽織っていたカーディガンを被せてあげる。

 その優しさに驚いた男性と、警戒しながらも男性を気遣っていたヒロインは、たどたどしくも会話を続ける。

 しかし、月明かりが隠れた後にその男性は忽然と消えてしまう。


 ……で、その後にヒロインの周囲で黒猫が目撃されるのだけど、その黒猫っていうのが裸の男性なのよね。

 西のエルダード公爵家長男、クロウド・エルダード。

 本来ならヒロインが通う魔法学園に行くはずが、南の魔女の怒りを買って黒猫に変えられた人物。

 それから行方不明ということになっていたけど、実際は黒猫のままあちこちを渡り歩いていたという。


 まずアレよね。

 裸の不審者に優しくするヒロインまじヒロイン。

 たしかにスチルでは上半身しか描かれてなかったよ?

 でもさ、普通近付こうとは思わないよ。


 それに男性が消えた後はカーディガンが残される。

 そして何食わぬ顔で拾い、身に纏うヒロイン。

 汚れてないかもしれないけどさ、お相手は初対面の男性よ?

 画面越しに「着るんかい!」とツッコミを入れてしまったくらいだ。

 ともかく。


「師匠、これ戻せません? 私正体知ってますよ」


「ほお。それも未来視ってやつかね? 参考までに教えてもらおうじゃないか」


「これ多分、エルダード家の長男です。さっき市でも話題になってましたよ? 西のオーヴェスで貴族が誘拐されたーって」


 最初に師匠を疑ったことは伏せておく。

 戦争の火種になるようなことも言っていたから、なるべく早く元に戻してあげたいところだけど。

 しかし、師匠の反応は鈍かった。


「仮にそうだとしても、アタシにゃどうしようもないよ」


「え?」


 師匠が言うには、この呪いは南の魔女以外は解呪できないらしい。

 そもそも北の魔女は、南の魔女と相性が最悪とのこと。

 だからこそ奴に目をつけられないよう、ひっそりと暮らしているらしいけど……ひっそり? 堂々の間違いじゃない?


「うちで面倒見るくらいはできるが、アタシの力不足だ。そいつには悪いがね」


「そう、ですか」


 ……これ、ヒロインは解呪してたって言っちゃダメな空気ね。

 ここで逃がして、いつか魔法学園で会うヒロインに押し付けることは簡単だ。


 しかし、南の国以外で迫害される存在、黒猫。

 オーヴェスにいるとき黒猫にされた彼は、ここ中央にたどり着くまでも様々な場所で忌み嫌われたに違いない。

 たしか南の国へ行く途中で魔法学園に紛れ込んだんだっけ。

 それで、優しくしてくれたヒロインに懐いて、何だかんだで人型に戻っていたような気がする。

 それも、物語の終盤で。

 ここで逃がすと、クロウド様はまた迫害される日々に戻る。


 ……よし!


「師匠、ここで飼いましょう」


「ハァ! アンタ正気かい!? こいつがタダの黒猫じゃないことはアンタが一番わかってるだろ!」


 わかっている。

 クロウド様がこのまま魔法学園に行くかもしれない。

 もしかすると、ヒロインと会えず人間に戻れない未来もあるかも。

 けど、それでも。

 この黒猫が虐げられる世界で、彼を見捨てることはしたくない。


「それなら師匠が南の国まで連れて行ってくださいよ。私外に出られないので」


「おいアンタ、アタシの立場も危ないんだよ。誰かに頼むにしても、黒猫なんて引き取ってくれる奴ァいなさそうだ」


 いるとしたらヒロインちゃんくらいかしら。

 もうすぐ魔法学園に来るってことはわかっているけど、こちらからどう接触したら良いのやら。


「とにかく、この子に決めてもらいましょう。面倒見ることはできるんですよね?」


「ぐっ……そうさね。ここ『魔女の家』にも、そろそろマスコットが欲しいと思っていたところだよ」


 魔女といえば黒猫。

 じゃあクロウド様さえよければ、しばらくここに居てもらえそうね!

 師匠は全然黒猫になってくれないし、モフモフに飢えているのよモフモフに!


「じゃあ師匠、この子文字はわかるはずなので、一覧表でも用意してください」


「アンタ、いつからそんな身分になったんだい?」


「じ、自分で用意します……」


 まだ昼下がりだけど、お客は黒猫騒動のせいで居ない。

 師匠は準備中の札をかけて厨房に戻っていった。

 今から夜の仕込みに入るらしいので、この件は「あとアンタがなんとかしな」ってことだろう。


「ふふーん。黒猫ちゃん、いい毛並みねー」


 浄化の魔法で綺麗にしたので、手触りの良いツヤツヤとした毛が心地良い。

 さすが貴族というべきか、黒猫になっても高貴な生まれを感じさせる佇まいね。寝顔だけど。

 私がそうやって黒猫ちゃんの身体を撫でていると、漆黒の身体に埋まった黄金の瞳がうっすらと開いた。


「あ、起きちゃったのかな?」


「…………ッ!」


 眠たげにゆっくり開いたまなこだったけど、至近距離にあった私の顔を見て、これでもかってくらいに大きく見開かれる。

 怖がらせちゃったかな?


「だ、だいじょーぶよー、何もしないよ?」


 そっと手を差し伸べる。


「ニ゛ャッ!!」


「いだっ!」


 差し出した手は、思いっきり爪で引っかかれました。

 ……ぐすん。




ヒロイン(オス猫)回なので、3話ほど続きます。

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