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9:迷子の迷子の黒猫ちゃん

 


 親子に変な目で見られてから数分。

 再び市場に来た私だけど、あれから変な目は向けられていない。

 さっきの店主だって「おっ、嬢ちゃん。買い忘れかい?」と声をかけてくれた。

 ある程度時間も空いているし、普通はそんな反応よね。

 やっぱりあの親子の反応がおかしかっただけなんだから!


 しばらく市場を回るも、銀貨ほどの価値がある品は少ない。

 買い出し袋にはいつも銅貨しか入っていなかったし。


「もしかして骨董品かしら?」


 市場以外にも店はあるけど、買い出しといえば市場。

 これは来たばかりの頃、師匠から叩き込まれた常識だ。

 市場以外で買い物した時には「こんな高いモノ買ってくるなんて! これからは無駄金を使うんじゃないよ!」と怒られたっけ。

 それ以降だ。

 この、買い出し布を持たされるようになったのは。


「まあ師匠はともかく、この買い出し布にミスがあることなんて――んん?」


 ふと、どこからか怒声のような声が聞こえてくる。

 立ち止まって耳をすませば、普段通らない道のほうからだ。

 向こうのほうは、何かジメジメするし暗いから出来れば近づきたくないのよね。

 それに部外者が首を突っ込んでいいことなんて「さっさと南のほうへ行きやがれ不吉野郎ォ!」ない……のだけど。


「……ッ!」


 ピキーン!

 その叫びを聞いた時、私の中の何かが身体中を駆け巡る。

 そこからは早かった。

 声のするほうへアタリをつけ、通ったことのない路地を曲がること二回。

 見事にその現場にたどり着きました。


 そこには、少年が寄ってたかって何かを囲っていた。

 そして、弱弱し気な「にゃぁ……」との鳴き声。

 間違いない。


「ちょっと貴方たち、何してるのっ!」


「げっ……て、誰かと思えば給仕の姉ちゃんかよ」


「お前ら知り合いかー?」


「さあ? でも服からしてどっかの使用人じゃね?」


 生意気そうな少年が何か言っているけど、今は囲われていた存在のほうが重要だ。

 この国……この世界では、南の国でしか見られない黒猫。

 それが、なぜかこんな街中にいるなんて。


「可哀そうじゃない! 動物虐待よ」


「は? 姉ちゃんコイツ黒猫だぞ? 正気か?」


「おれたちは正義の味方だから、コイツを退治してやってんだ!」


「それにコイツ、僕のおやつを盗んだんだよ!」


 注意してみると、確かに黒猫の足元には砕けたクッキーのようなものが散乱していた。

 猫って小麦粉大丈夫だったのかしら?

 お菓子うんぬんはいいとしても、なぜこんな場所に黒猫が?


「まあまあ。この猫ちゃんは私が大人に引き渡すから。僕たちはもう許して、ね?」


「でもクッキーの落とし前がまだついてねぇ!」


「そうだそうだ! 僕のお小遣いかえせ!」


「ちょ! やめなさいったら!!」


 どこでそんな言葉を覚えたのか知らないけど、少年たちはさらに黒猫をいじめようとする。

 あわてて止めに入ったけど、クッキーの恨みが無駄に深い。


「まあまあ。じゃ、僕たちはこれでクッキーでも買ってきなさいな。ね、余ったらお小遣いにしていいから」


 懐から銀貨を取り出し、空へかかげる。

 光を眩しくキラーン! と反射する銀貨に、少年たちも大喜びだ。


「す、すげぇ! ほんとにもらっていいのか?」


「おれ、銀貨なんて持ったことねぇよ……」


「これだけあればクッキーが一年分買える!」


 どんだけ安いのよ。

 クッキーなんて小銅貨で買えるくらいに安いのに、銀貨なんか一万円くらい……あ。

 確かに大金だ。


「ちょ、やっぱり待っ」


「今日は豪遊するぞー!!」


「「おおーっ!!」」


 リーダー格の少年が銀貨を奪い去るように取ったが最後、少年たちは我先にと大通りへ駆けて行った。

 ……うん、まあ良いんだけどね。

 使い道、これで合ってましたか? 師匠。

 残ったのは、傷だらけで死んでいるのかと錯覚するくらいに弱った黒猫が一匹。


「やっぱり、酷い惨状」


 近くに散乱したゴミを見るに、モノを何度もぶつけられたのだろう。

 弱弱しくあるが、幸いまだ息はある。

 服が汚れるのなんて構うものか。

 それに。


「この僅かに感じる魔力……ただの黒猫じゃないわ。はやく師匠に見せないと手遅れになっちゃう!」


 師匠が言うには、魔女は魔女を見抜く力があるらしい。

 いくら隠れていても、力を授かる地脈の繋がりや特有の魔力濃度などで判別できるらしい。

 なので、魔女の天敵は魔女そのものなんだとか。

 この黒猫には、師匠ではない別の魔女が関与しているはず。

 だって、師匠が化けた時・・・・のような違和感があるんだもの。


「師匠の知り合いかもしれないし、待っててね猫ちゃん。魔女見習いとして、貴方は死なせないわ!」


 まって……ここから大通りには、どうやったら出られるの?



 ◇◇◇



 多少道は間違えど、あの後すぐに店まで戻ることができた。

 焦りは禁物。

 黒猫を抱えた姿を大勢に見られていたので「もっと落ち着いて考えられなかったのかい!」とあとで師匠にも怒られた。

 しかしその甲斐もあってか、黒猫ちゃんは今、スヤスヤと小さいバスケットの中で横になっている。


「ま、これで一安心。といったところさね」


「ありがとうございます師匠!!」


 ちなみに店はガラガラだ。

 私が黒猫を運んできた途端、数少なかった客も逃げるように去っていった。

 あーあ、残った料理がもったいないなーもう。


「一応聞くが、こんなもんどこで見つけてきた?」


「近くの路地ですよ。子どもたちに虐められていたので、買い取ってきました。銀貨一枚」


「なっ!? ま、まあいいさ……アンタの給料から天引きだね」


「理不尽!」


 不正解だったみたいです。

 でも悪夢の刑は勘弁してくれるみたいだし、完全に間違えたというわけでもないらしい。


「で、この子って師匠の知り合いですか?」


「知らんさ。だが、この魔力は南の……アイツの仕業だろう。その子は魔女でも関係者でもない。タダの被害者だろうね」


 南の魔女。

 ん? そういえばゲームでも黒猫にされた人物がいたような。


「あの、どうしてそこまでわかるの?」


「だってそいつ、オスだよ」


 師匠は黒猫ちゃんの首根っこを掴んでぷらーんと持ち上げる。

 そのせいで私も直視してしまった。


「オゥ……」


 たしかにオスだった。

 そしてごめん。

 これさっき話題になってた公爵家の跡取りっぽい。




字下げやめてみます。

下げた後が読みづらい気がしまして……。 ※ 45話から戻しました。

ブクマ、評価ありがとうございます!

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