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小さな心臓  作者: 雨世界
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 よく観察してみると、心は丸椅子に座っていた。あの、休憩室の丸椅子だ。なにもかもがあのときと同じ。真白は一瞬、自分が過去にタイムスリップでもしたのかと錯覚した。しかし、そんなことはありえない。なら、真白と心がここにいる理由は一つだけ。つまり心が自分の足で一階から階段を上がってこの場所まで戻ってきたということだ。その間、真白はずっと眠っていたのだろう。眠っていて、あの不思議な夢を見ていたのだろう。

「猫ちゃん。ごめんね。私、猫ちゃんがお眠だって気がつかなかった」

 心は真白にそう言って謝ったが、真白は別に怒ってはいなかった。真白自身、自分の眠気に気がついていなかったのだから、それは当然のことだった。

「今日は、もう帰ろうね」

 そう言って心が丸椅子から立ち上がったとき、ぎい……、ぎい……、という嫌な音が聞こえた。それは階段の上のほうから聞こえてきた。その音を聞いて、心はぴたっと動きを止めた。

 ぎい……、ぎい……。

 しばらくして闇の中に突然、小さな明るい光が出現した。それはおそらく手持ちライトの光だろう。光は上の階からやってきた。心はとっさに丸椅子の後ろに体を丸めてその姿を隠そうとした。しかし、隠れるにしては丸椅子は小さすぎた。光に照らされて仕舞えば、心の存在は一発でばれてしまうだろう。

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