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小さな心臓  作者: 雨世界
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 闇の中で見る心の顔は病室の中で見る心の顔よりも一段と白く見えて、そして闇の中で笑う心の顔はなぜかいつもよりも楽しそうな顔に見えた。……きっと、夜が、心の自由な時間のすべてだったのだろう。心は明らかに朝や昼よりも(とは言っても、真白の知っているこの世界はずっと夜のままなのだけど)、夜の中にいるほうが生き生きとしていた。

「どうしたの猫ちゃん。疲れちゃったの? まだお散歩は半分も終わってないよ」

 ずっと黙ってじっとしている真白を見て心はそんなことを言った。その心の言葉で真夜中のお散歩がまだ終わっていないことがわかった。真白は疲れていないことを心に伝えるために、いつもよりも随分と小さな声で「にゃー」と一度鳴き声をあげた。すると心は「うんうん。猫ちゃんは賢いね」と言って満足げに頷いた。

「猫ちゃん。ほら、あそこにね、階段が見えるでしょ?」心の指差す先には階段があった。さっき真白が確認した階段だ。下にも上にも続いている古い木製の階段がそこにはある。

「私ね、いつもは『上に行く』んだけど、今日は特別に猫ちゃんに選ばせてあげるね。猫ちゃんはどっちに行きたい?」

 心の問いを受けて、真白は下と上に続く階段を交互に見た。どちらに行きたいという希望があるわけではなかったのだけど、案外真白の答えはすぐに決まった。そしてそのことを心に知らせるために真白は一度「にゃー」と鳴いた。「決まったんだね」心は丸椅子から立ち上がって、階段に向かって移動した。

「猫ちゃん。どっち?」と心は言った。真白はその顔を『下の階段』に向けた。それが真白の答えだった。「わかった。じゃあ、今日は一階のお散歩だね。猫ちゃん」心はそう言うと、階段脇の壁に手をついて、しっかりと階段を確認しながら、一歩づつ、ゆっくりとした足取りで下の階へと下りていった。

 ……下に降りるにつれて、闇は、その深さを増していった。

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