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ゴイサギがガソリンスタンドにやってきた

作者: 辻 ミモザ

本当なあった出来事です、不思議に思いお話にしました。

ガソリンスタンドの店長は、いつも朝早くに店を開けにきます。朝7時の開店に間にあうように、10分前に到着すると、そこにはもうお客さんが来ていました。


 もっともお客さんは、車でもバイクでもなく、灰色の鳥が計量機の前に立っていたのです。


 このガソリンスタンドは、大きな川と国道をはさんだ所にある山間の小さな店です。車もよく通りますが、山から猿が顔をのぞかせたり、ウグイスがやかましいほど歌を聞かせてくれたりと、自然豊かな立地条件です。灰色の鳥もよく川のほとりにいるのを店長は見ていました。


 鳥がなぜガソリンスタンドにいるんだろう、不思議に思いましたが、何しろ忙しい開店準備をしなくてはいけません、店長はあまり気にとめず仕事を初めました。


 工事現場に行くダンプのお兄さん、子供を駅まで送ったお母さん、役場勤めのお姉さん、いつものお客さんに給油をしながら、店長は灰色の鳥が気になります。車の出入りが激しくなっても鳥はいつまでもスタンドの中でいるのです。飛び立つことなく車が近付くと悠々と歩いて避けています。


「店長、この鳥飼ってるんですか。」

 お客さんか驚いて聞いてきます。どうにかしないといけないな、スタッフも出勤してきて、店も落ちついてきました、店長は考えました。


 まず、この鳥は何なんだ。車には詳しくフロントマスクを、見るだけで車種と年式が分かる店長も、鳥は全くわかりません。


「こいつはゴイサギというんですよ。」アルバイトのショウゴがスマホで検索してくれました。


 木の上に巣を作り、川原で魚をとる。夜にカラスのような声で鳴く。ゴイとは昔醍醐天皇がこの鳥をご覧になった時、大人しくしていたので、五位の位を賜わったことによる。色んな情報がスマホでわかりましたが、ガソリンスタンドを好むなんて出てきません。

「こいつ、俺がピカピカに洗車した車に大きなフンを落とした鳥じゃないかな。」灰色の羽に何か見覚えがあります。


とりあえず川原へ連れて行ってみよう。


 店長は大きく手を広げて、ゴイサギを追うように国道を渡って川原へ誘導しようとしました。車が途切れるのを見計らい、ゴイサギに迫るのですが、鳥は悠然と歩きなかなか川原に向かいません。結局車を止めて渋滞を作りやっと川原に連れていけました。渋滞した車の列に何度もおじぎをしながら、店長はほっとしました。

 ところが、やっと落ち着いて缶コーヒーでも飲もうとしたその時、灰色のゴイサギがゆっくりと国道をわたってスタンドめがけて歩いてくる姿が目に入りました。またしても国道は車の渋滞ができています。

スタンドに無事に着くと、ほっとしたのかゴイサギはそこに座り込みました。


「この鳥はここで何かしてほしいんですかね。」

 スタッフの年配の増本さんが言いました。なるほど、もしかしてゴイサギはここに用があるのかもしれない。


 車の調子が悪いと感じたら、ガソリンスタンドで見てもらおう。こういうお客さんはたくさんいます。店長はエンジン音を聞いたり、ボンネット内を点検して不調の原因を探します。同じ様に鳥にもしてみよう。鳥の灰色の羽や30センチほどの細い足に傷はないようです。ぎょろりとした目も頭も不自然なところはありません。鳴き声は、そういえば一度も鳴いていないな。大きなくちばしを見てみると、キラリと何か光ました。

 あ、これか。

 くちばしには透明な糸が巻き付いていたのです。魚釣り用のテグスでしょう。これでは口を開けられない、エサがとれない。糸をとってほしかったのか。

はさみで糸を切ってやると、ゴイサギはかわいくない声で「ギャー」と鳴きました。店長は今度はゴイサギをかかえて川原に運びました。野生動物にしてやれるのはここまでです。



 次の日、ゴイサギが元気になれたか心配していた店長は「ギャー」とカラスに似ただみ声を聞きました。

 灰色の大きな翼がガソリンスタンドの上を舞いました。


 鳥は空から人のやさしさを見ていたのかもしれません。



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