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お姉ちゃんのデコピンは痛いんだよ

 ドラゴン化したドラグ君に乗って異世界飛行。

 空から見下ろしてはっきりわかったよ。想像以上の大惨劇だね、これ。なんていうか世紀末感がすごい。丸い大陸が寂しいよ。大皿にちょこんと盛られたパスタみたいだよ。

 兄さんは呑気に寝てる。肝が据わっているのか鈍感なのかわからない。せめて緊張感は持ってほしいんだけどね。


 そうこうしていると島に到着。エルファさんが大きく手を振ってくれてたよ。ついでに胸も揺れてたよ。ドラグ君の迫力に目は泳いでるよ。


「ただいまエルファさん」

「おかえりラーニャ。それよりも、その黒いのは?」

「ドラグ君だよ」

「ドラグ君? すまないが、そんなに馴れ馴れしく呼べるような風貌ではないと見受ける」

「ダメだよエルファさん。人を見かけで判断したら」

「人だと? わたっしには、伝説の存在であるドラゴンにしか見えないのだが」

「うん、ドラゴンだよ」

「では人ではない。ドラゴンなのだ」

「それは違うよエルファさん。ドラグ君はドラゴンだけど人なんだよ」

「それはどういうことなのだ」

「論より証拠って言うし、この場で見せた方が早いよね。ドラグ君、可愛くなって」

『わかったよお姉ちゃん。可愛いぼっくを見せてあげる』


 あたしのお願いを聞いたドラグ君が華麗にへーんしーん。厳つい姿のドラゴンから、可愛い姿の男の子に早変わり。やっぱりいいね。


「これはずいぶんと幼くなったのだ。それはきさっまの魔法か」

『魔術だよ。魔素は一切使わない。人間は使えないみたいだけどね』

「まあいい。きさっまが何者であれ敵意がないのならば」

「エルファさん、実はね」

「なんだラーニャ、遠慮なく話すのだ」


 あたしが話しやすいようエルファさんが誘導してくれた。それじゃあ遠慮なく。かくかくしかじか。

 みるみるうちにエルファさんやみんなの目の色が変わる。ドラグ君を鋭く睨んじゃってるよ。


「つまりは敵ではないか! 今すぐ首を落とそう」

「待ってよエルファさん! 気持ちはわかるけど」

「すまんが待てん。わたっしたち以外は殺されたのだ。ラーニャは騙されているだけなのだ」

「騙されてないよ。ちゃんとあたしが叱ったし、ドラグ君も反省してるよ」

「それが騙されているというのだ。わたっしの家族も殺されたということは、わたっしにとって敵なのだ」

「そ、そんな!?」


 困ったよ困っちゃったよ! あたしが話せばわかってくれると思っていたんだけどなぁ。どうにかしてエルファさんの怒りを鎮められないかな。


『血の気が多い奴だね。人間とエルフの混血種だからかな』

「きさっま! ハーフエルフを侮辱したな!」

『短気は損気だよ。死にたくなければ剣をしまうこと。ぼっくは強いよ』

「そんな安い脅しで引くわたっしではない! その首、もらった!」


 エルファさんが素早く動いて剣先をドラグ君に突きつけた。はわわわわ! ドラグ君の白い首筋から血がああああ!


『いい筋だね。でも弱い。そんなんじゃぼっくの首を落とすなんて無理』

「くっ!? なんて頑丈な首なのだ!」

『頑丈なのは首だけじゃないよ。見た目は非力な男の子だけど、その中身は屈強なドラゴンだ。人間が蟻を踏み殺すように、ぼっくは人間を踏み殺せる』


 負けじと力を込めるエルファさんだけど、最初に付けた傷より深くは切れない。勝敗は誰が見ても一目瞭然だった。

 ドラグ君は細い指で剣を挟むと簡単に折ってしまった。板チョコのように剣って折れちゃうもんなんだね。


「な……!?」

『その剣脆すぎ。そんな剣で傷付くなんて人間は情けない』

「わたっしの剣が……誇りが……」

『もう終わり? こんなに大勢集まって一人だけなんだ。つまらない』

「わたっしたちも殺すのか」

『ぼっくが人間を殺した理由は、我が物顔で世界を支配していたからだよ。自分たちが一番だと偉そうにしていたのが気に入らなかった。エルフやドワーフとかの純血がなくなったのは、人間によって迫害されたからだ。過去のことと言っても事実なことには変わらない』

「純血はなくなってしまったが、エルフやドワーフの誇り、血はこうして引き継がれているのだ。人間がエルフやドワーフを迫害していたのは事実だが、愛していたのも事実なのだ」

『ああ言えばこう言う。小賢しい』

「小賢しくてけっこう。そしてわたっしはしつこい。きさっまを許してやるものか」

『好きにしてよ。ぼっくも好きにするからさ。知ってる? ドラゴンは欲深いんだ。せっかく若い人間の姿を手に入れたんだし、楽しむのも手だよね』


 ドラグ君がエルファさんを押し倒しちゃったよ!

 これってもしかしておねショタ!?


「わたっしを犯す気か」

『ドラゴンに犯されるんだ、光栄に思ってよ』


 ダメだよそんなこと! ドラグ君にはまだ早い! それに、いくら性欲を持て余してるからって犯すなんてお姉ちゃんが許しません! ほら、みんなも許さないって顔してるよ。


「野蛮なドラゴンめ。それに物好きな」

『ドラゴンは美的感覚も鋭いんだ。誇っていいよ』


 エルファさんが、冬に張った氷のように銀鎧を割られちゃって一糸纏わぬ姿になっちゃった。どどどどうしよう!?


「騎士の恥なのだ」

『恥じることないよ。いい体してる』

「そういう意味ではなっ……うぐっ!」

『へぇ。意外に敏感なんだ』


 ドラグ君がエルファさんの柔らかそうな二つの膨らみを触っちゃってる。そんなにエッチな子だとは知らなかったよ。


「さっさと済ませ……ひゃああっ!」

『やだよ、隅から隅まで味わうんだ。それにしても気が散る。周りには眠ってもらうよ』


 みんながバタバタと眠っちゃった。ドラグ君が眠らせたんだ。でもなんで兄さんとあたしを眠らせなかったんだろう?


『これでいい。右手とお姉ちゃんに効かなかったことは気になるけど、そんなことは後回しだ。さてと、そろそろだよね』


 ダメダメダメええええ! それ以上は絶対に許さないんだからね!


「ドラグ君!!」

『どうしたのお姉ちゃん。ぼっくが誰と何をしようと、お姉ちゃんには関係ないよ』

「大ありだよ。女の子にそんな乱暴しちゃダメったらダメ!」

『お姉ちゃんの倫理観をぼっくに押しつけないでよ。それとも一緒にしたい?』

「今のドラグ君としても幸せになれないからお断り。今すぐエルファさんから離れて。さもないとデコピンしちゃうよ」

『面白いことを言うね。デコピンが何かは知らないけど、ぼっくが脅されて大人しくなると思う?』

「ただ愛でるだけがお姉ちゃんじゃないんだよ。時に厳しくするのもお姉ちゃんなんだからね」


 ドラグ君にデコピンしたところで効き目はないだろうけど、やらないと気が済まないよ。

 エルファさんの目には涙が。強がってたけど無理してたんだよね。早く止めに入らなくてごめんね。


『いいよ。そこまで言うならどうぞ』


 よし、ドラグ君が動きを止めたよ。

 女の子を泣かすなんて許さないんだから! あたしのデコピンを味わえ。


「うぅっ! ドラグ君のおでこカチカチ」

『うわああああ!!』

「へっ?」

『痛いよおおおお!!』


 ドラグ君、すごく痛がってる。おでこ押さえて転がっちゃってるよ。そんなに強くしたかな。


「ラーニャのデコピンとやらは喰らいたくないのだ」

「いやいや、ドラグ君が大袈裟なだけだって」

「ドラグはラーニャと契約して人の姿を得た。契約者であるラーニャに対しては特別弱いのかもしれないな。それよりエルファ、布を巻きたまえ。そのままでも目の保養になるから私は構わないのだが、全員がそうとは限らん」


 兄さんがエルファさんに布を渡してくれたよ。なんだかんだ言って優しいんだよね。

 さて、ドラグ君は反省したのかな? 効果抜群とわかった以上、デコピンを使わない手はないよ。

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