ハザードの終わり
兄さんの様子は普通じゃない。あんな兄さんを初めて見るよ。
「チートさん、これはいったい!?」
「おっひさー。五天王の正義の鉄槌の効果で、旦那の魔術が覚醒したんだ。五天王は自滅したも同然だが、旦那が舞い上がっちゃって自制が効かない」
兄さんの馬鹿! 迷惑な馬鹿は、ただの馬鹿よりもどうしようもないの!
「何かと思えば、とんだお調子者がいたものです。新しい才能が目覚めて嬉しいのはわかりますが、その行いで評価を落としては目も開けられませんね」
「ゴブオ、いけるか」
「彼の魔術がなんであれ、単純な肉弾戦なら負ける気はありません。さっさと黙らせてあげましょう」
エルファさんとゴブオさんのタッグが兄さんを強襲した――と思ったら、二人共、派手に吹き飛ばされちゃったよ。
「どうしたの、二人共!」
「……近付けないのだ。なんだ、あのとてつもない魔力は!?」
「僕たちのそれとは……次元が違うようですね」
次元が違うって。兄さんてば、ここぞとばかりに暴れちゃおうって?
「お姉ちゃん。ぼっくがさっき言ったことを思い出して。世界を作るのも壊すのもお姉ちゃんの魔術なんだから、右手の暴走を止めることができるんじゃないかな」
世界をどうこうできるんだから、兄さんを止めるくらい簡単だって言いたいの? でも勝手が違うじゃない。
「やめて兄さん! もう終わったんだよ!」
「いや、まだだ。結局、どんなに世界を作ろうと根本的にクソなんだ。何が異世界だ、馬鹿馬鹿しい。私が望む異世界には程遠いではないか」
「だからってこんなのダメだよ!」
「私は神だ。神の邪魔をするのなら、妹といえど容赦はせん!」
「きゃああ!?」
ダメだ。兄さんがどんどん遠くに行っちゃう。
ただの二次元馬鹿なままの方がマシだったよ。あたしの大好きな兄さんに戻ってよ。
「それはないぜ旦那。というか気付いてないんで? そもそも、この世界は異世界なんかじゃない」
はい? いきなりの爆弾発言なんですとー!
「旦那やラーニャちゃんに簡単に言うと、えーと、三途川だ」
「うん? でも転移なんだよね」
「魂の、だけどね。体は現世に残ったまま」
「ええええ!!」
「ここまでのことは試練なんだ。親より先に死んだ子どもがする石積みの代わり。どうするかは神の次第」
「ふざけるな! 私が神だ!」
「寝言は寝て言ってくれ。神はここにいる」
チートさんは、誇らしく自身を指差して言った。
つまりチートさんは――神様!?
「みんなして魔法だ魔術だと盛り上がってたけど、それはただの可能性なんだ。生きていればの可能性」
「じゃあエルファさんとドラグ君も――」
「いや、二人はすでに死んでるんだ。騎士ちゃんは強情でね。とっくに転生が済んでるってのに居座っちゃって。現世で何か不安なことでもあるのかい」
「わたっしが……!?」
「ドラグも転生先が決まってる。早く行け」
『ちょっと待ってよ。ぼっくはドラゴンなんだぞ』
「それはただの暴走だ。今の旦那と同じだ。そのせいで他の魂を避難させる羽目になったんだから迷惑な話だ」
「エルファさんが言ってた、一年前にいなくなった転移者って誰なの?」
「それがドラグだよ。小島から出たときにドラゴン化したんだ。だから騎士ちゃんは気付かなかったんだよ」
まさかそんなことだったなんて……。
「今なら神様権限で旦那とラーニャちゃんを現世に戻せる。どうする? ちなみにゴブオは俺の補佐に決定!」
「勝手に決めないでください!」
「……それが正解なんだよね……。生きられる希望がある人間がいちゃいけないんだよね。ならそうするよ。チートさんに従うよ」
「――というわけなんで旦那、悪いがおさらばだ。精々達者に生きてくれ夕暮れ」
チートさんが指を鳴らす。すると、あたしの意識が遠くなっていく。すんごく気持ちいいなぁ。
* * *
あの出来事は夢だったのかな。
あたしと兄さんは、崖で気を失っていただけだったみたい。確かに落ちたはずなんだけどなぁ。
そんなこんなで日常に戻ってる。特別変わったことはないし、兄さんは二次元馬鹿のまま。
そういえば今日はクラスに一人増えるんだっけ。女子だということ以外わからない。可愛い子だと嬉しいなぁ。
――教室の扉を開ける音。
入ってきたのは、金髪赤眼の美少女。
「今日からお世話になる。わたっしの名前は――」
彼女はエルファと名乗ったよ。
あたしは思わず彼女を凝視しちゃう。すると、彼女はあたしにウインクをしてみせた。
「こんなことがあろうとは。面白いことなのだ」
「本当にエルファさんなんだよね!?」
「そっちこそ本当にラーニャなのか?」
「「ぷぶっ……ははっ!」」
顔を見合って可笑しくなってお互い噴き出しちゃった。理屈なんてどうでもいい。また一緒にいられるんだからね。
家に帰ると両親が座って待っていた。なんか改まった雰囲気出しちゃってどうしたの?
えっ、赤ちゃんの性別がわかった!? ななな! 男の子おお!! 弟だああああ!!
「これで繋がったなラーニャ。エルファのことを考えると、生まれてくるのは――」
「そこから先はダメ。楽しみにしていたいもん」
あたしの実弟として生まれてくる男の子。
彼とは違うだろうけど、あたしが与える愛情は変わらないよ。いや、もーっと濃い愛情になるに違いない。
「喜び舞うのもほどほどにしとけ。私はソシャゲに忙しい。用があるときはノックすることを忘れるなよ」
そう言って自分の部屋に入っていく兄さん。
しばらくすると、部屋から雄叫びが聞こえてきた。ソシャゲでSSRのキャラでも出たのかな。
ふふっ。たぶん違うね。兄さんも素直じゃないよ、まったく。
兄さん。三次元もまだまだ捨てたもんじゃないでしょ。




