兄さん、覚醒
兄さんとチートさんと別れてから、かれこれ一ヶ月経った。全く音沙汰なし。
あたしたちは、隣の国の富豪のおじさんの用心棒をやってるんだ。どうしてかと聞かれても、成り行きとしか言えないんだよ。
「しっかり並びなさい。いい子にしてないとあげませんよ」
「はーい!」
「早く早く!」
「ゴブさん、はよ!」
「ゴブさんはやめてくださいと言ってるではありませんか」
すっかりお守りが板についてるゴブオさん。
おじさんには子どもがいなくて、その代わりに養子を迎えてるの。十人も! おじさんは忙しく家を留守にしがちで、雇っている三人のメイドだけじゃ追いつかない。そこに現れたのがあたしたちなわけ。
「食べたら運動ですよ。おじさんとの約束ですからね。しっかりやってもらいます」
どういうわけかゴブオさんは面倒見がいい。家事全般こなせて、勉強もできる。
あたしはダメダメ。家事も勉強も兄さんの分野だからね。
「ゴブオ様の料理には目を見張るものがあります。もっと教えてくださいな」
「それは構いませんよ。僕の料理スキルをどんどん奪いなさい。ここにいつまでいるかわかりませんから」
メイドも唸らせるゴブオさん、ぱない。
「いつか帰っちゃうの?」
「寂しい寂しい」
「ゴブさん、ずっと」
「わがままを言うんじゃありません。出会いがあれば別れがあります。今から慣れておくのもいいでしょう」
えーっと、ゴブオさんは先生なのかな。
「二人は食事ができているのだろうか」
ぽつりと呟くエルファさん。この一ヶ月で痩せちゃって美人が台無しなんだよ。気持ちはすんごくわかる。だから元気出してなんて言えない。
「大丈夫だよ。兄さんとチートさんが簡単にくたばるわけないもん。あたしたちよりも豪勢なものを食べてるかもよ」
「それはあるかもしれないのだ。やれやれ、ふと顔を浮かべてしまう」
「二人共、印象が強いからだよ」
「そうではない。たぶん、浮かべないと落ち着けないのだ。離れてようやく理解した。これが……恋……なのだな」
えっ、どっちを!? 聞いたら答えてくれるかな? ああでも言いづらいかぁ。
「こら、そこのお二人。僕の料理が豪勢ではないという、あらぬ誤解を招く発言は控えてください。子どもたちが食べなくなったらどうしてくれますか」
聞こえてたんだ。地獄耳なんだね。子どもたちの心配をするゴブオさん、グッジョブ!
食事を終えて子どもたちは運動へ。食後に走り回れるなんて羨ましいよ。あたしも十分若いはずなんだけどなぁ。
「ドラグ君は混ざらないの?」
『ぼっくが子どもと一緒に走るわけないよ。それより変なんだ。なんだか胸騒ぎがするんだよ』
「胸騒ぎ? もしかしてドラグ君も恋!? 相手は誰! お姉ちゃんに言えないような人!?」
『どうしてそうなるの!? 違う違う。うまく言えないんだけど、天変地異の前触れかも』
「天変地異? さすがに大袈裟だよドラグ君。世界を滅ぼしたり作ったりしたあたしが言うのもおかしいけどね」
『おかしい、か。おかしいといえば、ぼっく以外に魔術を使えるのがいるのもおかしい。今さらなんだけど』
「それってゴブオさんやチートさんのことだよね。どうして?」
『前に言った気がするんだけど、魔術っていうのはぼっくにしか使えないんだ』
言ってたっけ……? 忘れちゃった。
「でもそれがどうかしたの?」
『ぼっくの魔術に魔素は必要ない。けど、ゴブオやチートの魔術には魔素が必要。だからぼっく、この世界に魔素がないことで諦めちゃったんだよ』
「でも、あたしと世界を作るときには魔素を消費したよね」
『だってそれはお姉ちゃんの魔術だからさ。お姉ちゃんは魔素を集めることができないから、ぼっくの魔素を使ったんだよ』
へっ? あたしの魔術? 初耳なんですけど。
『ぼっくが思うに、転移者は魔素を消費することで魔術を使える。転移者は魔素を持ってるんだ』
「魔素を……持ってる?」
『とはいえチートはダメだ。彼の魔術の魔素の消費量は異常だ。無意識に魔素を取り込んでいたから使えてたもので、この世界じゃ使えない』
「そんな」
『――うっ!? また……だ!』
「どうしたの!?」
ドラグ君が胸を押さえて苦しんでるよ。いったいどうしちゃったの!?
『……何かに呼ばれてるみたいなんだ。こんな感覚、生まれてから……初めてのことだよ』
「ドラグ君!?」
『ゴブオとエルファを呼んで、ぼっくに触れて。きっとそれでわかる』
よくわからないけど、ドラグ君に言われちゃしょうがない。心苦しいけど、楽しく走ってるゴブオさんとエルファさんを呼んだよ。
「緊急事態なのか」
「まったく騒がしい。何も起きなければ許しませんよ」
あたしとエルファさんとゴブオさんがドラグ君に触れた瞬間、強烈な光りに包まれた。
そして目を開けると――。
「私が神だああ!!」
謁見の間で叫ぶ、上半身裸の兄さんがいた。
五天王はすでに死んでるし、王様は白目剥いてる。頭が追いつかないんだけども。




