いきなり大ピンチ!
あたしは目を見開いた。
目の前に広がる光景に言葉を失って口をぽかんと開けてしまう。
『お姉ちゃん』
「なーに?」
『ぼっくの気のせいじゃなければ、すごく危険な状況じゃない?』
「大丈夫だよドラグ君。気のせいじゃないよ」
そりゃあ気のせいであってほしいよ。悪夢なら覚めてほしいよ。けどさ、これ現実なのよね。
今のあたしたちの状況を説明すると、怪しい奴らだと思われて捕まっちゃってます。てへっ。
綺麗な天使の像が目立つ噴水広場の真ん前に人が集まってるよ。あたしたちは見世物じゃないよ。
「なんという屈辱。この私が見世物にされるとはあり得てはならん」
「旦那。見世物にされてるだけならマシだと思うねぇ。どうも殺気を向けられてるようだ」
「呑気に話をしてる場合ですか。早くこの状況を打破するのです」
「できるものならしてるのだ。言い出したきさっまが動いたらどうだ。ゴブオ」
「僕は認めてませんからね、何がゴブオですか、まったく。いいのですか? 僕が動くということは、ただでは済まないということなんですよ。お嬢さん」
「余計なことをしてみろ。わたっしの剣できさっまを切り捨てるのだ」
「望むところですよ。この僕が剣にやられるわけがありませんけどね。それはあなたが一番身に染みているはずでしょう」
「ぐぬぬ。それを言われては言葉が出ないのだ」
ゴブオさんとエルファさんがお互いを刺激しあってるよ。なんて余裕なんだろう。あたしには真似できない。
「さっさとしないかパチーザ。こういうときに役立たなければ意味がないではないか。その強さは飾りかね」
「あなた、口だけは達者のようで。そういうところがムカつくんですよ。だいたい、パチーザという名前も認めてないですよ」
とか何とか言いつつ立ち上がるゴブオさん。
手足を縛っていた縄を力で引き千切ると、余裕たっぷりに口元を緩めてみせる。
あたしたちを捕まえたのは、威圧感たっぷりな雰囲気を醸し出す五人の男。服の上からでもわかる筋肉モリモリマッチョマンだよ。
「お前たちは不審者以外の何者でもない。我らの手で始末する!」
「「「「始末する!」」」」
声量半端ないよ! この声量だけで戦えるんじゃないかな。あたし、腰が引けちゃった。
「馬鹿が五人もいますね。大勢の人に見られてる状況に引くに引けなくなりましたか。それはすみません。僕を捕まえたことを後悔させてあげましょう」
ゴブオさんが手を後ろに組んで首を回す。完全に相手を挑発しちゃってるよ。馬鹿にしちゃってるよ。
「そっちは馬鹿が六人。馬鹿の多さでいい気にならないことだ。我ら五天王に敵うはずがない」
五天王? 四天王じゃなくて? 四人じゃないからって単純な理由なのかな。どうでもいいか。どうせゴブオさんが倒しちゃうんだからね。
「数の多さで勝てるのなら苦労しません。あなたたちなんて僕だけで十分です。一番偉そうなあなたを最初に片づけてしまえば終わりでしょう」
「ずいぶん余裕だな。我らを舐めてるようだな。痛い目に遭わないとわからないか。ならば喰らうがいい! 五天王奥義――正義の鉄槌」
「……何かしました? 僕はご覧の通り無傷です。意味ありげに左手を向けて馬鹿らしい。何が正義の鉄槌ですか。これだから人間は――!?」
どうしたのゴブオさん!? 急にお腹を押さえちゃって。演技するくらいなら倒しちゃってよ。
「この奥義の効果はランダムなんだ。わかってるのは、相手に苦痛を与えるということ。お前は腹痛に襲われたか」
「ぐおおおお!! こ、この僕が腹痛な、なんかにいいいい!!」
どどどどうしよう!?
ゴブオさん、目が充血しちゃってる。明らかに演技じゃないよ。こうなったらドラグ君の出番だね。
「ドラグ君。ゴブオさんを助けて」
『無理だよ、お姉ちゃん』
「ケチなこと言わないでさ。お願いだよ」
『そういうことじゃないんだ。右手とお姉ちゃんはわからないかもだけど、ぼっくたちはピンチなんだよ』
「そんなことないよ。ゴブオさんだけじゃなくドラグ君、チートさん、エルファさんもいるんだよ」
『そんなことあるんだよ。ぼっくたちの強さの大半を占めるのは魔法と魔術だけど、それを封じられちゃあ厳しいんだ』
「封じられてって?」
『この新しい異世界には魔素がないんだ。ぼっくたちは魔素を魔力に変えることで魔法や魔術を使える』
「ええええっ! 魔素がない!?」
『ドラゴン化できない以上、ぼっくは戦力外だ。ごめんね』
それって大ピンチじゃん!
ドラグ君の魔力は、異世界を作ることに使っちゃってないし、ゴブオさんとチートさんもさっきの戦いで魔力を消費しちゃってる。エルファさんに至っては魔法も魔術も苦手だよ。
「今すぐ苦痛から解放してやる。安らかに眠れ」
「「「「安らかに眠れ」」」」
五天王は宝飾が施された剣をどこからともなく取り出すと、一切の躊躇なくゴブオさんに振り下ろす。見てられないよ、ぎゃああああ!!




