頭の中がこんがらがってきたよ
なんだろう、この燃えきらない感じ。なんかいつの間にか終わってたよ。イケメンゴブリン敗れたりでめでたしめでたしなんだけど。
「揃いも揃ってお口ぽかんとはなんだい問題」
「どうやって倒したの?」
「俺の魔術で倒したのさ。時間を操ることができるんでね」
そうか時間を止めてたんだね。フリーズしたの、あたしの気のせいかと思ったよ。
「事前に言ってもらえたら助かったのだがね。記憶が飛んでしまったのかと気が気ではなかった」
「旦那が? そうは見えない味気ない」
「私も人間だ。恐怖心がない人間がいるものか」
「それはわからんぜい。世の中は広く深いもの。無鉄砲が売りな人がいるかもしれない慌てない」
「転移者である私が言えたことではないかもな。とにかく脅威は去った。さて、これからどうするべきか」
そう言って兄さんはあたしを見た。ちらりと。
きっと尻拭いをしろってことなんだろうけど何も浮かばないよ。
「チート。きさっまの魔術は、死の時間を戻すこともできるのか?」
「やり方次第だ。でも魔術を使うには魔力がいる。ドラグの坊主と同じで一定の魔力を溜めないと魔術の範囲も質も落ちる」
「一度に大勢は無理というわけなのだな」
「そう。だから、今の世界そのものの時間を巻き戻すだなんて芸当はさすがに無理ガッカリ」
「うーむ。聞いておいて悪いのだが、わたっしには難しいのだ」
「俺、説明が苦手奥手」
エルファさんがあたしに視線を向けて助けを求めてるよ。ごめんね、あたしもわからないよ。
「チート。君の魔術に弱点はあるか?」
「記憶が戻って一気に頭に叩き込まれてパニックだってのに聞くとは鬼だね旦那。強いて言えば魔力の消費が激しいこと。魔術の発動時間は五分が限界だ」
「万が一のことも聞いておこう。時間操作を誤った状態で五分経ったり、魔術が切れたらどうなるのかね?」
「どうもこうもない。リセマラでSSRキャラ引いて喜んだのもつかの間、獲得確定前にスマホのバッテリーが落ちたときの絶望感と同じだ」
「……なるほどな。では、時間操作発動中の数秒を記録しておき、自由に呼び出すことは可能かね?」
「冴えてるね旦那。三十秒までならできる」
「そうか、君の魔術は使えるようだ。少し態度を改めてやってもいいぞ」
「それは遠慮しとくぜ旦那。今さら仮面被るのは面倒だ」
「言われてみればそうか」
兄さんとチートさんの間にあった壁がなくなった気がする。あの兄さんと打ち解けたのなら、チートさんマジチートだよ。
『お姉ちゃん?』
「みんな死んじゃったのはあたしのせいなんだよね」
『そ、それは!?』
「いいよドラグ君、無理してフォローしなくても」
『ごめんお姉ちゃん。ぼっくが側にいながら防げなくて。でもチートのあれは度が過ぎてたよ』
そういえばあたし、どうしてもチートさんに聞きたいことがあったんだった。確かめないことにはスッキリしない。
「チートさん」
「どうしたんだい?」
「兄さんはどうやって生き返ったの? 夢とか言って誤魔化したってダメだよ」
「あれは死んでないんだ。一時的な仮死状態にしただけ」
「仮死状態!?」
「悪かったとは思ってる。さすがに度が過ぎてたと自覚してる。俺を殴るかい?」
「殴ったところで無意味だからいいよ。兄さんは生きてるんだから」
「まったく。君はいくつ魔術を持ってるのかね」
「おやおや、ひょっとして俺が強くて困ってる震えてる?」
「馬鹿を言え。私が震えるときは武者震いだ」
「そういうことにしとくよ。それよか旦那、やけに俺の魔術に興味津々みたいだけど」
「私が他人に関心を持つことは珍しい。君は堂々と胸を張って歩けるぞ」
「答えになってないねぇ、旦那」
「……さっきのゴブリンを戻せないかと思ってな」
「そ、そいつは冗談キツいってもんで。保険で三十秒記録してあるはあるけど」
「冗談ではない。戦力がほしいという本音で本気だ」
兄さんの口から出た言葉に耳を疑ったよ。あんなひどい目に遭ったのにね。
「きさっま、何を考えてるのだ?」
「単純な話だ。少しでも強いのがいれば安心できるだろう。制御はチートに任せればいい」
「えっ、俺が!?」
「他に誰がいる。もっとも安全安心ではないか」
「何が悲しくてゴブリンなんか!」
「偏見や差別はよしたまえ。どんな生まれや育ちでも能力を見るべきだ」
「旦那が言えた口かい」
「私が言わず誰が言うのかね。私以上に能力を見るに長けた人はいない。記憶が戻って忘れたのかね。私は神だ」
「人と言ったり神と言ったり忙しい旦那だ」
「事実を言っただけだ。早速だがゴブリンを戻してくれ」
兄さんの目は本気だ。一度決めたことは曲げない人だから困ったよ。頑固な兄って面倒くさい。兄妹とはいえ他人。何を考えてるのかわからないときはいっぱいある。
チートさんがあたしに助けを求めてる。どうやらあたしに許可を求めてるらしい。最悪の場合でもチートさんがどうにかしてくれるよね。あたしは首を縦に振った。




