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記憶が戻ったらナルシストさん改めチートさんのイケメン度が上がったよ

 父さん、母さん、元気ですか? あたしは元気にやってるよ。今も星狭しと駆けてるんだ。えへへ、すごいでしょ! 布一枚を卒業して今はジャージを着てるから快適だし、食べ物にも困ってないから安心してね。


「私に戦いは向いてない。モブ役ですら務まらん」

「そうやって逃げようとしないでよ。せっかくジャージを新調してあげたんだから」

「黒のスーツを所望したはずなのだがな」

「あたしの想像力を舐めてもらっちゃ困るんだよ」

「威張るな馬鹿者。その想像力が招いた事態だぞ」


 岩陰に隠れたり川や沼に落ちたり大変。さらに空から落ちてくるし。なんなのあの光は。アニメとかで見るエネルギー弾は!


「わたっしの鎧が簡単に壊された攻撃だ。剣での攻撃も通用しないだろう」

「ラーニャ、なんでもいいから作れ。火元を倒さん限り終わらんぞ」

「そんなこと言われても困るよ。あたしの想像力じゃ、いいとこ水鉄砲だよ」

「ええい! 使えん妹め」

「使えないとはなんだよ! 傷付くよ!」

「簡単に傷付くほど繊細とは知らなんだ」

「期待に応えられずごめんね、兄さん。あたしの代わりにドラグ君が戦うよ」

『ぼっくを頼ってくれるのは嬉しいけど、相手が相手だからどうかな』


 ドラグ君が戦えばなんとかなるって思いたい。でも厳しいよね。それはわかるけどお願いだよ。ドラゴンの強さを示してちょーだい。


「ドラグくーん! ファーイト!」

『お姉ちゃんに応援されたら戦うしかないや。逃げるも隠れるも終わりだ。はあ!』


 ドラグ君のドラゴン化キター!

 これで勝つる! 誰が相手でも絶対勝つる!


「ほう、やたらと大きなのが現れましたね。諦めて隠居したのかと思いましたのに」


 なんて勝ち誇った言い方。悔しいよぉ!

 見た目はイケメンだからって! 白いゴブリンなのに細マッチョでイケメンだからって!


『お姉ちゃん。ぼっくに伝わってきてるんだけど』

「えっ!? それはそれ、これはこれだよ」

『倒しちゃってもいいんだよね?』

「どーぞどーぞ」


 もう、ドラグ君たら妬いちゃって。そんなとこも可愛いよ。


「まさか勝つ気で? だとしたら笑えますね。この二日間、逃げてばかりではありませんか」

『なんだと!』

「そう熱くならないで。僕の方が強いと言ってるのですよ。あなたよりもね」

『ずいぶんと自信満々じゃないか。痛い目に遭っても知らないからな』

「ええ遭わせてください。できるものならね」

『ゴブリンの分際が』


 翼を羽ばたかせたドラグ君。イケメンゴブリンと空中で見合う姿もカッコいい。いっけー! ドカドカのズタズタにしちゃえー!


「やかましい人たちですね。僕、こういう空気嫌いなんですよ。先に消してあげましょう。はあ!」

「こ、こっち!?」


 イケメンなら何してもいいわけじゃないんだから! 許すまじイケメン。


『お姉ちゃん!』


 きゃーっ! さっすがドラグ君。あたしを庇ってエネルギー弾を受けてくれるなんて。


「なんなんでしょうね、見てるだけで胸焼けします。僕とは合わないようですね」

『ゴブリンと合ってたまるか。ゴブリンの攻撃なんざ効かないよ』

「さっきからゴブリンゴブリンとうるさいですね。ゴブリンがなんなのか知りませんが、下等な存在と同一視しているのであれば許し難い」

『ゴブリンを知らないのか、だったら教えてやる。弱い奴らばかりを寄ってたかって襲う野蛮な存在だ。欲望を満たすために女を襲うような――』

「おいドラグ。それに関しては君も言えないぞ」

『ぐぬぬ。話を折るなよ右手』

「すまんな。なんだか手こずっているようだから、つい」


 兄さんの馬鹿! 兄さんのせいで押せ押せムードが途切れちゃったじゃん。それでなくてもエネルギー弾がドッカンバッタン大変なのに。


「戦いの最中に会話とは余裕ですね。それだけ僕のことを舐めてるというわけですか。それならば味わせてあげましょう、恐怖を」


 イケメンゴブリンの右人差し指の先に集まるエネルギー。よくバトル物で見るような光景が起きちゃってるよ。攻撃するなら今だよ。


『悪いけどぼっくは待たないからな。そんなお約束を守るほど優しくない』


 ドラグ君の咆哮がイケメンゴブリンに放たれた。そしてクリーンヒット! いいよいいよ!


「ほう、いい攻撃ですね。しかしながら感心止まり。実力は認めますが驚きはありません」

『な、なんだと……!?』

「今一度確認しますよ。あなたたちがゴブリンと呼ぶ存在と僕、そんなに似てますか?」


 冷たい、あまりに冷たい。これが悪役の冷徹さか。

 指先には大きなエネルギーの塊。小さいのでも迷惑なのにムカつく。

 でもどうしよう……。ドラグ君の咆哮が全く効かないなんて信じられないよ。ちょっとした具現ならできるけど、あんなに大きなエネルギー弾を防ぐ方法なんて思い浮かばないよ。


『ちっ、訂正してやる。ゴブリンなんかと同じだなんて言って悪かった。けど、やっぱり認めてはやらない。お姉ちゃんを攻撃したんだからな』

「そんな力を持っていながら下等に従うとは情けない。宝の持ち腐れではありませんか」

『勝手に決めつけるな。人間は非力かもしれないけど、決して下等な存在じゃない』


 咆哮、咆哮、咆哮。イケメンゴブリンにドラグ君の本気が何度もぶつけられていく。普通なら即死でもおかしくないのに効いてない。

 あたしは情けない。イケメンゴブリンを生み出したのはあたしらしい。だけど消し方がわからない。必要なときに全く役に立たない想像力が恨めしいよ。


「さて、そろそろよろしいですか? いい加減飽きました。喰らいなさい」


 え、エネルギーがああ!!

 ドラグ君が懸命に咆哮で押し返そうとしてるけど焼け石に水だよ。目が眩しい!


『ぐわ……ああ……くぅぅ……んおおぉぉ!?』

「退屈しのぎにはなりましたね。二日間だけですが」


 これが世界の終わりなのだろうか。案外終わりって綺麗であっけないものなんだね。


「さらば異世界難解なんかい? 面白白旗まだ早い。終わりは新たな始まりの合図に過ぎんのさ」

「ナルシストさん、呑気に言ってる場合じゃないよ!」

「慌てなさんなお嬢さん。諦めは三文の損」

「なんだナルシスト、ずいぶんと余裕じゃないかね」

「旦那の目は節穴風穴。男には気を張らないといけないときがあるだけさ。あまりのバタバタで記憶が戻った」

「短い復活だったな。もう私たちは終わりだ」

「旦那も男なら気を張ろうぜ。まだまだ男気を枯らしたわけじゃあるまい」

「言うだけなら苦労せん。行動に移せなければ意味がない」

「ならば行動に移そうか。見せてやる、転移者の意地ってやつを」

「転移者だと!? どういうことだ? 記憶喪失」

「どういうも何もない。旦那と同じ日本人ということだよ。どうしてこっちにきたのかは知らないけどさ」


 記憶喪失なナルシストさんの記憶が戻って、あたしと兄さんと同じ日本人ということが判明したよ。普通なら驚き騒ぐんだけど状況が状況だからリアクションできない。とてもお祝いムードじゃないもん。


『うがああああ!!』

「くたばりなさい!」


 ドラグ君のドラゴン化が解けちゃった!

 父さん、母さん、ごめんね。今度こそ死んじゃうけど許してね。兄さんと一緒なら寂しくないよ。


「ご苦労坊主。俺が代わろう」

『な……何言って!?』

「豪華絢爛鏡乱浄化――相殺!」


 ドーン!! 大きなエネルギーがぶつかり合う。

 ビュン!! エネルギーの爆発の余波で突風が荒れ吹く。

 コツン!! あたしの頭に小石が当たって痛い。

 あれ? 痛いってことは生きてるってことだよね!! なんで!?


「い、いったい何をした!?」

「そう慌てなさんなゴブリンよ。まずは名乗ってしんぜよう。俺の名前は地位人。地位のある者になれと付けられた名前だ。でも漢字だと異世界じゃあれだしカタカナで覚えてくれ。では改めて――チートだ」


 自己紹介でチートと名乗るチートさん素敵だよ。しかもイケメン! 大事なことだからもう一度、イケメン! ドラグ君の視線が痛いけど、弱ってるドラグ君って尊いね。

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