4話
綾女が俺の妹になってはやくも二か月が過ぎようとしていた。テレビの前にいるのは俺、綾女、そして海音と隼太の四人だ。
ん、なんで隼太と海音がいるのかだって?
それは一か月前、隼太と海音が俺の家に遊びに来た時のことだった。いつものように隼太が俺の家のインターホンを鳴らすと、俺が買い物に行っていたこともあり、綾女が出てしまったのだ。俺は帰宅後、海音たちの半ば拷問に近い尋問を受ける羽目になった。まあ、綾女が芸能人だということを考慮してすぐに納得はしてくれたけど。そんなこんなで俺たちは綾女を加えた四人で遊ぶ機会が増えた。
「はい、ジュースおまちどうさま」
俺はキッチンから四つのコップとオレンジジュースをリビングに運ぶ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「昴っち、サンキュー」
「さすが昴、ありがとう……って、あっ、ついでに差し入れのポテチ持ってきて~」
「そんぐらい、海音が取りに行けよ」
「ん~、な~に~、昴はお客様に働かせるの~?」
「くっ、わかったよ……」
そんな様子を見ていた隼太がハハッと笑う。
「ん、どうしたんだ?」
「いや、相変わらず海音には頭が上がってないなあと思ってさ」
「それはお互い様だろ」
「ま、そうだな」
「は~いそこっ、しゃべってないで早くする~」
海音がポテチを催促する。
「へいへい」
俺もすぐにポテチをお皿につぎ分け始めた。
「あ、お兄ちゃん、私も手伝うよ」
綾女が立ち上がろうとする。しかし、海音がそれを引き留めた。
「いいの、いいの、これは兄の役目なんだから」
「で、でも‥…」
「いいよ、綾女。綾女にやらしたら俺、海音にこっぴどく叱られそうだし。それに綾女は久しぶりの休日だからのんびりしてよ」
そう、綾女はドラマのオーディションが近いとかでここ最近、養成所に夜遅くまで通いっぱなしだ。だから今日ぐらいゆっくりしていてほしい。
「お、お兄ちゃんがそう言うなら……」
すると綾女はその場に座った。
「はい、ポテチ」
そこへ、俺はポテチを持っていく。
「お、きたきた。じゃ、映画を観ますか」
「そうだな」
そうして俺たちは綾女の出る映画を観始めた。
映画を観た感想としては、やはり吉良綾女はすごかった。
主役ではなかったが凛として、堂々と演技していた。なんというか、オーラがあった。
ああ、うちの妹は芸能人なんだなと痛感させられた。本人にこのことを言うと、自分がお兄ちゃんとは遠い存在みたいに聞こえるからいやだって言うから言わないけど。でも、うちの妹はやっぱりすごいと思うし、自慢の妹だと思う。
◆◆◆
映画の後、俺たちはゲームなどを少しして今日はお開きとなった。
今は二人で夜ご飯を食べている。今日の晩ごはんは綾女の好きなハンバーグだ。
なんで綾女の好物を知ることができたのかというと、この前綾女の誕生日があり、何が食べたいと聞いたら顔を赤くしながら「ハ、ハンバーグ」と答えたのだ。
俺はその時なんで顔を赤くしたのかわからなかったが、何でもハンバーグが好物だと子供っぽくて恥ずかしかったらしい。
「やっぱり、お兄ちゃんの作る料理はおいしいね」
綾女は至福のひと時といった感じにハンバーグを頬張っている。
「お兄ちゃん、もしかしたらお店出せるんじゃない」
「はは、それはいくら何でも言いすぎだと思うけど」
「ううん、そんなことないよ。今日のハンバーグなんて特に」
「まあ、今回はハンバーグのタレにこだわってみて……」
とそうこう話していると、
ピンポーンッ
玄関のインターホンが鳴った。
「ん、誰だろ?」
「あっ、私見てくるね」
そう言って玄関に行こうとする綾女。しかし、俺は綾女を引き留める。
「だめだめ、夜だし、不審者かもしれないだろ。ここは俺が出るから、晩ごはん食べててよ」
「わ、わかった。ありがとう」
そうして俺は玄関へ行く。
「はーい、今出まーす」
ガチャッ
「あっ、桂さんのお宅ですか?」
なんだ、郵便か。
「はい、うちは桂ですけど」
「桂大地さんからお届け物です。ここに印鑑をお願いできますか?」
「わ、わかりました」
父さんからの届け物―――
一体、何だろうか
不思議に思いながらも郵便配達員から荷物を受け取る。
それは小さな封筒だった。
俺は郵便配達員に礼を言った後リビングに戻ってくる。
「お兄ちゃん、結局何だったの?」
「ああ、父さんからの届け物らしい。この茶封筒なんだけど……」
俺は綾女に先ほど受け取った茶封筒を見せる。
「ふーん、じゃあ、早速開けてみようよ」
「そうだな」
中身を気にしながらビリビリと開ける。そしてそこから出てきたのは、一枚の手紙とペアの旅行券だった。
「えっ、なんで旅行券……?」
思いがけないお届け物に戸惑う俺たち。
そして、綾女が同封の手紙を読み上げる。
「えーっと、『昴と綾女ちゃんへ。あともう少しで夏休みになるんだからせっかくなら、旅行に行って家族の仲を深めてみてね。大地より』だって」
「うーん、旅行券ももらったし、せっかくだから夏休みに行こうか」
すると綾女は顔をぱっと輝かせて、
「うんっ。楽しみっ」




