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25話

しばらくして綾女も泣き止み、今俺たちは遊歩道にあったベンチに腰を下ろしている。


たくさん泣いたからか綾女の目の下は真っ赤になっていた。


「昴君、今日はごめんね。突然、家出なんかしたりして」

綾女は赤くはれた目元を拭いながら言う。

綾女も家出に関してちょっと強引すぎたと思っているのだろう。


「大丈夫。泉さんから全部聞いた」

俺はそんな綾女の罪悪感を少しでも和らげてあげようと今までのことをありのまま話すことにした。

だが、これはこれで綾女に別の思いを抱かせることになったらしい。


「えっ、じゃあ私が昴君のことを好きってことも聞いたの?」

「あっ、ごめん。それも聞いた」


「っっ⁈」

綾女の顔は恥ずかしさで真っ赤になる。


そして綾女はその赤くなった顔を俯かせながら、

「す、昴君はそれを聞いたから私に告白したの?」

声を震わせ尋ねてくる。


「ううん、違う。綾女のことが好きになったのは初めて綾女に会った時だ。だけど、今までは綾女が兄としての俺を必要としていると思っていたからその気持ちを押さえつけてた。綾女が大切にしている家族という関係を壊したくなくて。でもそれが今日違うってわかって、隼太たちにも気づかされて、俺は自分の気持ちに正直になろうって決めたんだ」


「……」


綾女は依然顔を赤くしたまま黙ってうつむいていた。


俺も言っててなんだか恥ずかしくなってくる。

でもまあいいか。こうして綾女を取り戻すことができたんだから。


少しして、今度は綾女が口を開いた。

「その、麗華さんが言ったことなんだけどね。それ、半分は当たっているんだけどもう半分は間違ってるの」


「えっ?」


俺は思わず声を上げる。


「昴君は私の両親が何で離婚したのか知ってる?」

「いや、わからない」


「実は、私のお父さん、お母さん以外の女の人を好きになって出ていっちゃたの。私がいつものようにお父さんにいってらっしゃいと言ったきり二度と戻ってこなかった。その次の日、お母さんから離婚のことを聞かされた。私はその日、学校にも行かず一日中泣いちゃった。すごく悲しくて、すごく寂しくて。だからね、麗華さんから昴君との同居をやめるよう言われたとき、また家族と引き裂かれるように感じてとても嫌だったの。あ、もちろん昴君のことが好きだったということもあるんだけど」


「そうか、それで」


「私、どうしたらいいかわからなくなって。いつの間にか家を飛び出してた。だめだよね。そんなことしても、周りに迷惑をかけるだけなのに」

てへへ、と綾女が舌を出して笑う。


「でもさ、綾女が家出をしたおかげで俺は綾女のことが好きだって認めることができた。綾女はかけがえのない存在なんだった改めて思い知ることができたんだ。だから、俺は迷惑だなんて思わないよ」


「ありがとう」


そうこうしていると、すでに日は沈みあたりには夜のとばりが落ち始めた。

随分と長い時間ここにいたようだ。

俺はベンチから立ち上がり、綾女に手を差し伸べた。


「じゃあ、もう帰ろうか」

だが、綾女は頭を横に振る。


「ごめん昴君、私、あの家に戻らないことにする」


「っっ⁈」


「勝手なのはわかってるんだけど、私、高校生の間は女優業に専念することにした。だって女優は私の昔からの夢だから。たぶん、昴君といると私はずっと昴君のことを考えてしまう。それに昴君のことばかりで周りが見えなくなってしまう。そんなんだと私が目指す女優にはなれない。私は一番輝いてる自分を昴君に見てもらいたい」


綾女は俺をじっと見据える。

いつもと違い、目には確固とした意志を映して。

たぶん綾女は家出を決めたときからこのことを決意していたんだ。


「……わかった。それなら俺は気長に待ってるよ。だから綾女は自分の夢を追いかけてよ。そして、それがかなった時、もう一度ここで再開しよう。この初めて俺たちが会った大切な場所で。良かったら父さんたちもつれてきてさ」

「うん、ありがとう」


そうして俺は行きと同じく一人で電車に乗った。

綾女はというと、後日泉さんが彼女のマンションに連れ帰った。


                ◆◆◆


「えー、綾女ちゃん連れ戻さなかったの⁈」

翌日、俺の話を聞いた海音は大声を上げて驚く。


「仕方ないだろ。綾女が自分の夢を追いたいっていうんだから」

「で、でもなにも昴から離れなくても」

「まあまあ海音っちゃん、綾女っちゃんにも考えがあるんだって。それに、昴っちも賛成しているんだから。そうなんだろ?」

「ああ、まあ二人で決めたことだから。それに離れるって言っても毎日電話はしようって約束はしたし」

そんな俺を見て海音も納得してくれたらしい。


「うっ、初めて彼女ができたからっていきなりのろけやがって」

「い、いや、俺はのろけているわけじゃ……」

海音の言葉に俺は照れて冷静さを失う。


「でも昴っち、綾女っちゃんが高校を卒業するまでだっけ?よくそんなに長い間も遠恋する気になったね」

「うん。綾女が俺には女優として一番輝いている自分を見ていてほしいって言われちゃったからな。それなら気長に待つよ。それに今の俺だと綾女と釣り合ってないし、この間にもっと綾女にふさわしい男にならないと」

「けっ。またのろけか、リア充めっ」

「だから違うって」

海音はまたもや俺をにらみつける。


どうやら今は絶賛不機嫌中らしい。

やがて俺から視線を逸らすと、


「はあーあ、私、昴だけはいつまでも彼女ができないと思ってたんだけどなあ」

大きくため息をつく。

「それも結構ひどいな」

親友ながらひどい言われようだ。


「まあまあ昴っち。海音っちゃんは俺らの中で一人だけ独身になったから昴っちのことをひがんでいるんだよ」

その瞬間、


ギロッ


海音の恐ろしい視線が隼太を襲う。


「ど、どうしたの?う、海音っちゃん……」

蛇に睨まれた蛙のように隼太の声がこれでもかというほど震えている。


「隼太、今、なんて言った?」


「えーっと、何も言ってないよ……」


「ああ、隼太ならさっき海音は一人だけ独身になったから機嫌が悪いって言ってたぞ」


「昴っち、まさかの裏切り⁈」

直後、海音は隼太に襲いかかった。


俺は海音が隼太を攻撃している間、窓の外をふと眺める。

―――今、綾女、頑張っているかな?


                 ◆◆◆


その後、綾女たち主演の連ドラは史上稀にみる大成功を収めたのだった。



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