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22話

俺は手紙を見るなり、綾女のスマホに電話をかけた。


プルル・・・、プルル・・・、プルル・・・、ピッ


『あっ、もしもし綾女』


『お客様がおかけになった番号は電源が入っていないか……』


ピッ


ダメだ。綾女につながらない。

俺は次に泉さんに電話をかけることにした。

綾女の様子がおかしくなったのはちょうど綾女と泉さんが二人きりで話し合った後だ。もしかしたら泉さんなら何かを知っているかもしれない。

数コールした後、泉さんの番号はすぐにつながった。


『あっ、もしもし泉さんっ』

『その声は昴君ね。どうしたのかしら、よっぽど慌てているようだけど?』

『綾女がいなくなりました』


『えっ⁈』


電話口の向こうで泉さんが言葉を失ったのがはっきりとわかった。


『そこで泉さんに聞きたいんですけど、昨日綾女と何を話したんですか?その後から綾女、急に様子がおかしくなって……』


『……』

泉さんの声が聞こえなくなる。

そしてしばしの沈黙の後、


『わかったわ。昨日綾女と二人で話したことをあなたにも伝える……』

俺はこの後、泉さんから昨日のことを聞いた。


『……』


すべてを聞き終えると、俺は衝撃のあまりスマホを手から落としそうになった。


『わかってくれたかしら昴君。そういうことだから綾女は私たちだけで探すわ。あなたが綾女を見つけても、綾女が余計苦しむだけだから。じゃあ、もう切るわね』


ピッ


泉さんとの電話が切られる。だが俺は今、何も考えることができなくなっていた。


                ◆◆◆


放心状態のまま、学校に行く。

すると、教室に入るなり隼太と海音が驚いた表情でこちらを見つめていた。そしてすぐに海音たちが駆け寄ってくる。


「昴っち、ちょっとこっちに来てくれ」

そのまま隼太は俺を屋上へと連れていった。

屋上に着くと、海音が真っ先に口を開く。


「昴、なんで学校に来ているわけ?綾女ちゃんがいなくなったんじゃないの?」

「なんでそれを海音が?」

「隼太の婚約者が綾女ちゃんと仲良かったからその子にも連絡が来たの。そしてそれを隼太が婚約者から聞いたってわけ。それよりもあんたはどうして綾女ちゃんを探しに行ってないの?」

海音は怒りの形相で俺に詰問する。隼太も俺に厳しいまなざしを向けていた。


「じ、実は……」

俺はもう隠すことはできないと観念し、ことの顛末を海音たちに話した。もちろん、今朝聞いた泉さんの話も交えて。

全てを聞き終えるとさすがの海音たちも驚きを隠せていなかった。


「まさか綾女ちゃんが本気で昴のことを好きになるなんて……」

「ああ、俺でもまだ完全には信じられない。でももし、それが本当なら俺は綾女を探しに行ったらダメな気がする。綾女を探し出しても余計にしんどい思いをさせるだけだろうから」

「そ、それはそうだけど……」

海音は納得がいかないといった表情でこぶしをぎゅっと握りしめた。

俺だって綾女のことは心配だし、今すぐにでも探しに行きたい。

でもそれが綾女のためになるのか。


もしかしたら綾女がもっとつらい思いをするだけではないのか。

連れ戻しても決して結ばれてはいけない二人。諦めないと分かっていながら、でもその好きな相手とこれからも一緒に暮らさないといけない。

そう考えると、俺は綾女を探しに行くという選択肢をとることができなかった。

すると今まで口を閉ざしていた隼太が、


「ちょっと話は変わるけど、昴っちは綾女っちゃんのことをどう思ってる?」

「えっ、なんで今そんなこと……?」

俺は隼太の意図するところが理解できず逆に質問する。


「いいから答えてっ」

だが、隼太はそんな俺の疑問に答えるつもりはないらしい。

俺は綾女のことを思い浮かべる。


テレビの中で堂々と演技をする綾女。

俺の弁当をとても喜んでくれた綾女。

お腹が鳴って恥ずかしそうにする綾女。

お化け屋敷で怖がる綾女。

俺のために頑張ってハンバーグを作ってくれた綾女。


次から次へと今までの綾女との思い出が頭の中に浮かんでくる

そして最後に、最も鮮明に思い起こされたのは初めて会った時の綾女だった。


そう、あの時からすでに俺は吉良綾女という存在に釘付けだった。綾女のことを好きになった。

だがその気持ちを今までは綾女が嫌がるだろうと思って無意識に心の奥に閉じ込めていた。綾女は妹なんだって自分に言い聞かせて。

でも今の綾女は兄としての自分ではなく、恋人としての自分が必要なのだ。

今まで自分の気持ちを縛り付けていたものはもうただの言い訳にしかならない。

ここはもう自分に正直になろう


「俺は綾女のことが好きだ」


じっと隼太たちを見つめる。

もう自分に嘘はついていないと分かるように。

隼太たちも俺をじっと見ていた。

そして、


「わかった。昴っちがそれを認めるなら俺たちも協力ができるよ」

ニコッと隼太が微笑む。

隣の海音は、


「まあしゃーない。いっちょ手伝ってやりますか」

フーっとため息をつく。


「えっ、協力ってどういうことだ?」

よく理解できず、俺は隼太に聞き返した。

すると隼太は「実はねえ」と言って胸ポケットから一枚の手紙を取り出す。


「はい。これ、大地さんから俺らにとどいた手紙。そん時にとどいた手紙は全部で二枚。最初の一枚はだいぶ前に言ったように昴っちと綾女ちゃんの共同生活を助けてきてほしいとのこと。そしてこっちはもし、昴っちと綾女ちゃんがお互いを好きになった時に開いてくれだって。もちろん二人の気持ちをきちんと確かめたうえでって念押しまでされて。そういうわけで俺はさっき、昴っちの気持ちを確かめたってわけ」

俺は隼太からその手紙を受け取った。さっそく中身を見てみる。


『隼太君、海音ちゃん。君たちがこの手紙を読んでいるということは、昴たちはお互いを好きになったということだよね。たぶん二人のことだから兄妹同士の恋愛に今、葛藤を抱いていると思うんだ。自分の素直な気持ちと社会の常識との板挟みにあって。俺たちは親だから自分たちの結婚で自分の子どもたちを苦しめたくはない。そこで一つ俺と菊枝さん秘密を教えるね。そして、悪いけど隼太君と海音ちゃんにはこの秘密を昴たちに伝えてほしいんだ。あとは二人が何とかすると思うから。俺たちの秘密は―――書斎にある机の右端の引き出しにある』

俺は手紙を読み終わるとそれを自分の胸ポケットにしまう。

そして隼太たちの方に向き直った。


「海音、隼太、悪いけど俺、家に戻る」

その瞬間、隼太たちは笑みを浮かべた。


「ああ、担任にはうまく言っとくよ」

「困ったときは電話をかけてきなよ」

「ありがとう」

そう言うと俺は一目散に家へと走り出した。


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