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19話

ハンバーグの一件後、俺たちは前の関係を取り戻し、それと同時に綾女の超過密スケジュールもヒートアップした。


だけど、今の綾女は前と少し違う。あれほど忙しい生活をしているのに全く疲れている様子がない。まるで、一晩寝るだけで疲れが全快復しているようだ。

まだまだ綾女のことは心配だけど、今の綾女は心からお芝居を楽しんでいるようだし、何かを抱え込んでいるわけでもないようだから俺は陰ながら綾女を支えることにした。具体的には、朝食、弁当、そして特製ジュースだ。以前は外食やコンビニが多かった綾女だけど、俺が朝早くにそれらを準備することで少しでも綾女が体に良いものを食べてくれるようになったし、朝食は二人一緒に食べることができるようになった。

もちろん俺は朝食を食べた後、登校時間まで二度寝をするけど。


そんなこんなで忙しい月日はあっという間に過ぎていった。そして、残暑も完全におとなしくなった10月の某日、珍しく撮影を早く終えた綾女が晩ごはんの時にいちまいのチラシを取り出した。


「ねえ、昴君。私、これに行きたい」

そのチラシは近所である比較的大きな秋祭りのものだ。


「あっ、もうこんな時期か……」

「この日の撮影は休みだしどうかな?」

綾女は首をかしげる。

俺はすぐさま自分のスマホでその日の予定を確認する。するとその日は何も予定が入っていなかった。


「よし、せっかくだしお祭りに行こうか」

「うんっ‼」

こうして、俺たちの週末の秋祭り参加が決まった。


                ◆◆◆


祭りの参加が決まった後、綾女は自分の部屋に戻り電話をかけた。相手はもちろん鏡花だ。『もしもし、鏡花ちゃん』

『あっ、綾女ちゃんですか?』

『うん、こんな遅くにごめんね』

『全然いいですよ。それよりも、うまくいきましたか?』

『うん、昴君、一緒にお祭り行ってくれるって』

『それは良かったです。では当日、頑張ってくださいね』

『ありがとう、鏡花ちゃん』

じつは綾女は鏡花と以前からこのお祭りのことについて話し合っていた。


持ち掛けたのは鏡花だ。

鏡花はこのお祭りがおこなわれる神社には恋愛をつかさどる神様が祭られていて、さらには祭りのフィナーレで花火が打ち上げられると綾女に教えた。


まさに恋人たちにはうってつけの場所だと綾女は思った。

それと同時に綾女はある覚悟をした。

フィナーレの花火が上がるとき、昴に告白しようと。


たぶん、昴は義理とはいえ妹である自分を好きになることは決してない。ならば、自分から思いを伝えるしかない。

鏡花はそれを聞いたときさすがに驚いていたが、すぐに綾女を応援すると言ってくれた。


―――週末、うまくいくといいなあ


                 ◆◆◆  


週末、俺は参道の入り口にいた。日はすでに傾き、空は青から赤へと変わっている。待ち合わせの時間まではあと十数分。それまでの間、俺は綾女が来てからの日々を思い出していた。


初めて会ったのが五月。あの時はまさか吉良綾女が自分の妹になるとは信じられなかったし、まだ全然話すことができなかった。そして、海音や隼太たちも交じって遊んだ6月。このころになると少しずつだが綾女とも話すことができるようになっていた。七月。初めて綾女と旅行に行った。この時俺は普段は見ることのできない綾女の一面を見ることができた。八月には突然綾女の恋人役をやることになって度肝を抜かれたっけ。九月は綾女の撮影が忙しくなり、すれ違う時もあった。そして今、それを乗り越えてまたいつも通りに戻っている。


考えたら綾女と出会ってからいろいろなことが起こっていたんだなあ……

と、そこへ


「昴君」

綾女の俺を呼ぶ声がした。俺は声のした方に振り向く。


今日の綾女はお祭りらしく浴衣を着ていた。淡い桃色の生地にアジサイの花がところかしこにあしらわれている。今日は変装のメガネはしていないがシュシュで髪を一つにくくっていた。

その可愛さに俺はドキッとさせられてしまう。

綾女は裾が乱れないようゆっくりと俺に近づいた。


「ふふ、今日はお祭りだから浴衣を着てみたの。驚いた?」

「う、うん。でも良く似合ってるよ」

「やったね!」

「とりあえず、行こうか」

自然に俺は綾女の手を握る。なんだかんだ言っても恋人役をやってすでに二か月。これぐらいのことは慣れてきている。


「うん」

綾女も俺の後をついて歩き始めた。


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