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2話

前回の話は思いのほか長くなってすみません。

次からはもう少し短くしていこうと思います。

俺が在籍する正化学園はこの辺りではそこそこ有名な中高一貫校だ。部活は主に個人種目が強く、進学実績も一定の結果を出している。たぶんそれは一学年の人数が少なく、生徒一人当たりに対しての学校の保護が手厚いことも起因しているのだろう。


そして今、その正化学園では四限目のチャイムが鳴り昼休みに突入していた。クラスの半数以上が学食に行くか他クラスに行くかでいなくなる。もちろん、俺らのクラスにも他のところから集まっては来るが。


俺は自分の弁当を持ってきているので、いつも自分のクラスで食べている。もちろんぼっち飯というわけではない。


俺の右前の席には高級そうなヒノキの弁当箱を取り出している紫之宮(むらさきのみや)(はや)()がいる。

隼太は背も高く、勉強も運動もできるという完璧超人だ。さらに紫之宮財閥の御曹司でもある。そんな神から二物も三物も与えられ、女子からモテまくる隼太だが一回も女子からの告白をオーケーしたことはない。この間は去年正化学園のミスコンで一番をとった三年の先輩からも告白されたが、これも断っている。理由は単純、隼太にはすでに婚約者がいる。俺は実際にあったことはないが、なんでも親同士が決めた結婚らしい。もちろんそんな勝手な婚約は無効にしてもいいんじゃないかという人もいる。でも、俺は隼太がその婚約者をとても大切にしていることを知っているし、本人たちもそれを了承しているのなら別に口をはさむことではないと思う。


そして、俺の左前に座るのはコンビニの焼きそばパンをおいしそうに頬張る夏川(なつかわ)海音(うみね)だ。

海音はこのクラスの学級委員長だが、よくラノベとかで見るようなメガネをかけて、いかにも優等生って感じの学級委員長ではない。決断力や行動力に秀でていて、自然とみんなが海音の後をついていってしまうカリスマ性を持っている。また、容姿も非常に整っているので告白されることがあるが、なにも好意を持つのは男子だけではない。海音のさばさばした性格と誰に対しても親身になって支えてくれる態度には女子にも人気だ。


これが俺のいつも絡む連中だ。

え、でもそんな完璧な人たちの中に君一人だけ浮いてない?みたいな考えは抱かないでね。自分でも自覚はあるし、言われると悲しくなるから。

でもこのメンバーは幼いころからいつも一緒で、俺は二人を親友といっても過言ではないと思う。


「あ、そういえば今月発売の雑誌見た?」

焼きそばパンを食べ終えた海音がバッグから一つの雑誌を取り出した。

「あーそういやあ、まだ見てないや。海音っちゃん、何が載っていたの?」

雑誌を覗き込む隼太に海音は一つの記事を指差す。俺は昨日のことでまだ頭がいっぱいだったので、記事には興味がない。


「これこれ、ほら、吉良綾女のインタビュー記事」


「ブッッッ」


突然、考えていた名前が出てきて思わず噴き出した。

「わっ、きったねえ」

「昴、どうしたの?」

海音と隼太が一様に驚く。


「あ、ごめん。ちょっと驚いちゃって」

「いや、驚いたのは俺たちの方だろ」

「そうそう、昴、突然どうしたの?」

「いいや、何でもないよ」

「そうか?まあいいや、とりあえずその雑誌は食べ終えてからにしようぜ」

「そうしよっか」


また各自が自分の弁当を食べ始めた。海音と隼太は昨日のお笑い番組のことで話題が持ちきりだ。

俺はその中でも昨日のことを考えながら黙々と弁当を食べていた。


そんな俺の様子に海音はふと何か違和感を感じた。

「ねえ、昴、今日はなんかおかしくない?」

「んっ、えっ、そ、そうかな」

自分で言うのも何だが完全に挙動不審だ。

「うん、いつもなら私たちの会話に入ってくるのに今日は完全に上の空」

「さっきもいきなり噴き出したしな」

「いや、さっきはちょっと驚いただけで……」

「もしかして、昨日初めて会った連れ子のことか?」


ビクッ⁈


隼太のやつ、なかなかするどい


「あーそう言えばそんなこと言ってたねー。ねえ、実際会ってみてどんな子だったの?」

「う、うん、えっと……」

でも吉良綾女のことは言わなくてもいいよな。芸能人だし、スキャンダルになったりでもしたら大変だし。といっても海音と隼太がこのことを広めるとは思わないけど。


結局俺は吉良綾女のことはぼかして、昨日のことを大まかに話すことにした。


「ふーん、これから家族になる子が女の子だったとはねえ」

「しかもその子、昴っちが言うにはとてもかわいいんだろ。はあ、とてもうらやましい話じゃねえか」

「隼太には婚約者がいるけど、そんなこと言ったら怒られるんじゃないか?」

「あ、そうだな。じゃあこの話は三人だけの秘密ってことで」

隼太は人差し指を唇に当て軽くウインクをした。

イケメンの隼太がこの仕草をするとなかなか様になる。

しかしそれを聞いた海音が悪魔のごとくニタァと笑った。

「それなら、口止め料として帰りに隼太が私たちにアイスをおごるってのはどう?」

「海音っちゃん、それはないぜ~」

「あはは、自業自得~」


一瞬先ほどの真面目な雰囲気が崩れてしまったが、海音は急にまた真剣な表情になると、

「話は戻るけど、じゃあ昴はその子のことをずっと考えていたってこと?」


「えっ」


「図星だな」

「山川さんの話をしているときの昴からは妙に熱いものを感じたしねえ。これは昴のドストライクの子だったんだなって」

「う、うん。まあそうなんだけど」

「で、昴は昨日山川さんとどんな話をしたの?」


「……」


「えっ、まさか話してないとか……」


「そ、その通りです」


直後、海音たちは呆れた顔をした。

うわあっ、昴のヘタレーって感じで。

自分でもわかってはいるが、親友からそんな顔で見られるのはなかなかにきついものがあるのだが。


「いや、でも考えてみたら昴っちなら当然か」

「うぅっ……」

「あ、そうか、昴って昔から女の子とまともに話すことができなかったね」

「うん、例えばあれは昴っちが中学一年の時……」

「って、隼太それは……」


俺は隼太の口を封じようとしたが、隼太はお構いなしに話し始めた。

「昴っちが隣の席の女の子に恋をしたんだよね、たしか。それも初恋。でも、昴っちはその子に声すら声をかけることさえできず一年間片思いを続けていると、いつの間にかその子に彼氏ができていた」

思い出したくない過去がフラッシュバックしてくる。隼太の話を拒絶するように俺は耳をふさいだ。

「あ~、そんなこともあったねえ」

海音もふんふんと頷く。

「それに昴、その片思いの子にその後延々とノロケ話までされて……」

「あれはなかなかに悲惨だったな」

「隼太、海音……もうお願いだから……やめてください……」

海音と隼太に心の傷を掘り起こされ、俺のメンタルは瀕死状態になっていた。


                  ◆◆◆


学校の帰り道、俺たちは隼太が口止め料としておごらされる羽目になったアイスを食べながら歩いていた。季節は初夏でとても暑いというわけではないが、それでもこのアイスはおいしく感じる。

すると、一番前を歩いていた海音が口を開く。


「でもさ、考えてみたらどれも昴の自業自得だよね~」

「うっ、で、でも仕方ないじゃん。顔赤いと俺が相手のことを意識してるってバレバレだし」

「言っとくけど、そのままじゃ一生彼女はできないよ」

海音が俺に辛辣な言葉を贈る。


もちろん俺もそのことは分かっている。自分が変わらないといけないということぐらい。しかし、いざ女の子を目の前にすると顔が赤くなり、それを悟られまいと顔を無意識にそらしてしまう。

すると、今まで黙っていた隼太が話し始めた。


「ま、でもそんなに深く考えなくてもいいんじゃね」

「えっ」

俺は隼太の方を向く。


「昴っちは自分を変えたいと思っているだろうけど、自分を変えるのって簡単にはできないことだしな。それじゃあ、自分から無理に変わろうとするんじゃなく、他の人に変えてもらう、それも自分を変える一つの方法だと俺は思うぜ」

他の人に自分を変えてもらう……

そんなことってあるのかなぁ。


やがて俺たちは一つの大きな交差点に来た。ここで、隼太たちとはお別れだ。

隼太と海音に手を振り、俺はしばらくして自分の家に帰ってきた。


「ただいま~」

玄関の扉を開け、家の中に入る。もちろん返事はない。父さんは夜の七時までは仕事だから通常、この時刻には家に誰もいないのだ。靴を脱ぎ、俺は真っすぐにリビングに向かった。


「さあって、とりあえず今日の晩飯でも作るか」

昔から晩飯は俺の担当だった。いや、家事全般俺がやっている。最初のころは父さんがすべてこなしていたが、忙しそうに仕事も家事もやる父さんの姿を見かねて小学校高学年の時、俺がやると言ったのだ。今ではどれもかなり板についている。特に料理は家事の中でも得意なジャンルで、いつも持っていく手作り弁当は海音たちにとても評判だ。


今日の献立はカレーとサラダだ。もちろん、市販のカレールーを使うが俺の場合それだけじゃない。俺は調味料入れの中から複数のスパイスを取り出し、それをさっと鍋に振りかける。

こうすると香りが一層引き立つし、味もより本格的になる。スパイスはいろいろと試したが今やった組み合わせが最も美味しかった。カレーを煮込みながらサラダの準備をする。

すると、


ピンポーン


インターホンがなった。

「こんな時間に誰だろ……」

俺は不思議に思いながらも鍋の火を止め、玄関に向かった。


「はい、どちら様ですか……って、え?」

来訪者を迎えようと玄関の扉を開ける。その瞬間、俺は時が止まったように感じた。


「こ、こんばんは~」

そこには制服姿の山川さんがいた。制服はこの近くにある有名女学校のものだ。山川さんはスーツケースを手にし、両肩にはリュックサックを背負っている。


「な、な、ななな」

俺はまだ事態の把握ができていない。

そんな俺を見かねて、


「え~と、昴君のお父さんから聞いてなかったの?」

山川さんが首をかしげて尋ねる。


「な、なにを?」


「えっと……、今日から私と昴君とで二人暮らしだって」


「え⁈」

ここで俺の思考は完全にフリーズした。


                 ◆◆◆


「ど、どういうことだよ、父さんっ」


俺は山川さんをリビングに案内するとすぐさま父さんの携帯に電話をかけた。もちろん、山川さんがここに泊まることについてだ。いや、山川さんがここに泊まることは何ら問題ない。だって、これから家族になるのだし。でも、さっき山川さんは言った。


―――俺と山川さんで二人暮らし――――と


父さんと菊枝さんは一緒に住むのではないのか?


「あー、昴にはまだ言ってなかったなあ」

「えっ」

「うーんと、俺と菊枝さん、今日からアメリカに出張することになったんだ。実は一週間前に会社から伝えられていたんだけど、どうやら昴には言いそびれていたらしい。で、菊枝さんと話した結果二人で渡米して、ついでに新婚旅行に行こうということになったんだ。でも、昴と綾女ちゃんは学校があるからな。俺は昴と綾女ちゃんを信用して、二人に日本(こっち)に残ってもらうことにした。ほら、昴は家事が一通りできるし、生活費はアメリカから送るからどうにかなるだろ。それに綾女ちゃんはこのことに了承しているから大丈夫だぞ」

「で、でも、年頃の男女が・・・・」

俺は父さんに食い下がろうとするが、

「話は終わりか?じゃあ俺はもう飛行機の時間だから電話を切るな」


プッ、ツー、ツー


「き、切れた・・・」


って、ちょっと待てよ。それなら本当に山川さんとこれから二人きり・・・


「す、昴君・・・」

その時、後ろから山川さんが俺に問いかける。

「な、なに・・・?」

俺は徐に振り返った。

「えーっと、私ここに泊まってもいいかな?」

山川さんは首をかしげて上目遣いで俺の方を見つめてくる。


うぅっ・・・そんな顔されたら・・・・


「う、うん、いいよ」

「よかった~」

その時、山川さんはとても嬉しそうな顔をした。

普段、テレビや雑誌とかではあまり見ることができない彼女の素の笑顔。

やばい、可愛い……


「あ、昴君、私の荷物ってここに置いていい?」

俺は山川さんのスーツケースに視線を移す。

「え、えっと、とりあえずはそこにおいててよ」

「わかった」

山川さんはスーツケースを壁際に置き、背中からリュックを下ろす。

すると、


ぐー


山川さんのお腹が可愛らしく鳴った。

「……っっ⁈」

山川さんは顔を真っ赤にし、鳴ったお腹をおさえる。


「ち、違うの、昴君。これは……」

恥ずかしさのあまりに慌てる山川さん。しかし、そのお腹は正直だった。


ぐー


山川さんの意思に反してまたもや可愛らしい音が鳴る。


「……」


「……」


「えーっと……、カレー食べる?」

「……うん」


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