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18話

後日、綾女の家に鏡花が訪ねてきた。


「おはよう、綾女ちゃん」

「あっ、鏡花ちゃんおはよう」

「あれ、昴君はどうしたんですか?」

綾女以外に家にいないことに気がついた鏡花は綾女に尋ねる。


「えーっとね、今日は私の友達を呼ぶから正午まで外に行っててってお願いしたの」

「へー、そうなんですか。ではサプライズということで昴君をびっくりさせましょうか」

「うん」

綾女は鏡花をキッチンの方へ案内する。鏡花はキッチンに着くと自分の手提げカバンから今日持ってきた食材を取り出し始めた。


「さあって、今日、綾女が作るのはハンバーグですよ」

「む、難しそうだね……」

「料理は化学と似ているから、私が言ったとおりにやればきっとうまくいきますよ。それに、ハンバーグを嫌いな男の子は絶対いませんから」

「う、うん分かった。私、頑張ってみるね」

「その意気です。綾女ちゃん」

こうして綾女の初めてのハンバーグづくりが始まった。


                 ◆◆◆


十二時ちょっと過ぎ、綾女に言われた通り俺は家に帰ってきた。

鍵を開けて家の中に入る。すると、キッチンの方から何かいい匂いがしてきた。

俺は不思議に思いつつ、リビングへと向かう。


「す、昴君、お、おかえりなさい」

綾女の様子がやはりどこかよそよそしい。最近はなぜか綾女に距離を置かれている気がする。会話もめっぽう減ったし、俺が近づくと綾女は離れる。理由を聞きたかったがいつも綾女にはぐらかされていた。


「ああ、ただいま」

ガチャっとリビングの扉を開けると、俺は綾女の隣にいる人物に気がついた。


「あれっ、もしかしてその子……」

「はい、私は綾女ちゃんの友達の秋野鏡花です」

鏡花は俺に向かって丁寧にお辞儀をする。


って、ええええええぇぇぇぇぇぇぇ⁈

俺の家に有名女優が二人もいるっ⁈


この状況に俺は目を疑うしかなかった。

しかし鏡花は、


「今日は綾女ちゃんの手伝いをしに来ました。ですが、もう済みましたので帰りますね」

そう言ってリビングを後にしようとする。

だがそれを綾女が引き留めた。


「きょ、鏡花ちゃん、い、一緒にいてください。今、昴君と二人きりにされたら私……」

綾女は涙目になりながら鏡花に訴える。すると鏡花は綾女にそっと耳打ちをした。


「大丈夫ですよ。今まで通り昴君と接したら。それに、私がいたら二人の邪魔になってしまいますし」

「きょ、鏡花ちゃん……」

「それでは帰りますね」

そして今度こそ鏡花は自分の家に帰っていった。

鏡花を見送った後、俺たちはリビングに戻る。


「にしても、秋野さんがいたなんて驚いたな」

「う、うん、おどろかしてごめんね」

「ところでさっきから気になっていたんだけど、このにおいはなに?」

すると綾女は、


「ちょ、ちょっと待ってね」

そう言って、キッチンの方から何かを持ってきた。

やがて俺の前にその何かが置かれる。


「綾女、これって……」

俺がおもむろに尋ねると、


「うん、ハンバーグ。今日、鏡花ちゃんに教えてもらいながら作ってみたの」

綾女はもじもじしながら答えた。


「で、でもなんで俺のために……」

「ほ、ほら、この間は私の看病をしてくれたし。そ、その、あの時はありがとうってことで……。そ、それよりも食べてみて」

「あ、ああ。いただきます」

俺はナイフとフォークを手に取り、綾女の作ったハンバーグを見つめる。


形は非常にきれいで焦げ目もいい感じだ。そして、存分に食欲を刺激するこの匂い。

ゴクンッと唾をのみナイフをハンバーグに入れる。その瞬間、ハンバーグからはたくさんの肉汁があふれ出してきた。


―――うわあ、うまそう


食べる前からでもこれを見ると一目瞭然だ。実際にハンバーグを口にするのが待ち遠しい。そして俺はパクッとハンバーグを口の中に入れた。入れた途端に肉本来の味と丹精込めて作られたであろうソースが絶妙にマッチングしてその美味しさが口の中に広がる。


「うまい、すげーうまい」

無意識にその言葉は出ていた。


「ほ、本当?」

「ああ、ほんとうだよ。こんなにおいしいハンバーグ、初めて食べた。ほら、綾女も食べてみなって」

「う、うん。じゃあ私も……」

そうして、綾女も自分で作ったハンバーグを口の中に入れる。

すると、


「お、おいしい……」

「だろ?」

「うんっ‼」

この後俺たちはこのハンバーグのこととか、今撮影中のドラマのこととかを話しながら、今までのギスギスした仲が嘘のように楽しいひと時を満喫した。

やがて、美味しかったハンバーグも残りわずかとなる。


「昴君、今までごめん」

「えっ、なにが?」

突然の綾女の謝罪に戸惑う。


「私、ちょっとあることで動転していたみたいで昴君とここ最近距離を置いていたの。どうしたらよいか私もよくわからなかったし。でも今日、こうやっていっぱい話せて何か吹っ切れたみたい。これからはまた昴君の妹で彼女をやっていくから。またお願いね」

「ああそのことか。まあ、俺もどう綾女に接したらいいかわからなくなっていたし、今回は間をとってお互いさまということにしようか。それに、綾女の恋人役はちゃんと続けていくよ。妹が困っているのを助けるのは兄の役目だしな」

俺は少し恥ずかしがりながらもニコッと笑う。

すると綾女が、


「もう私は困ってないよ‥‥…。だって、昴君が恋を教えてくれたから……」

と、小さく呟いた。

だが、あまりにもその声が小さかったため俺にはよく聞こえない。


「えっ、綾女ごめん。今なんて?」

「ふふ、なんでもな~い」

そして綾女は俺が聞き返しても悪戯っぽく笑うだけだった。



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