17話
撮影を終え、マネージャーの車へと向かう途中綾女は終始ご機嫌だった。
―――まさか、私が本当に恋愛できるなんて。おかげで今日はうまくいったし、明日からもこの調子でいける気がする。あとでお兄ちゃんにお礼を言わないと。今日まで、お兄ちゃんは私のために恋人のフリを精一杯やってくれたしね。やっぱり、私のお兄ちゃん。でも、恋って自分ではなかなか気づかないものなんだね。ふふ、私はお兄ちゃんのことが好き……ん⁈
そこで綾女の足がピタッと止まる。
「ん、綾女ちゃん、どうしたの……?」
隣を歩いていた鏡花が綾女を気に掛ける。しかし、綾女は今頭がいっぱいだ。
―――ま、待ってよ。私がお兄ちゃんに恋⁈ お兄ちゃんは私の家族であるわけだし、兄妹なのに恋愛? いや、でも義理だから結婚はできるのか……って、そういう問題でもなくて……。ああ、どうしよ。訳が分からなくなってきちゃった
「綾女ちゃん、綾女ちゃん……」
そこで綾女は鏡花が何度も自分を呼んでいることに気がつく。
「あっ、ご、ごめん鏡花ちゃん」
「どうしたんですか?」
鏡花は綾女の顔を覗き込む。綾女も何か話そうとするがうまく言葉は出てこない。すると、鏡花は綾女の様子から何かを悟ったらしい。
「もしかして綾女ちゃん、自分が本当に人を好きになってしまったことに動揺しているんですか?」
「……うん」
綾女は力なく頷く。
「どうしよ、このままじゃ私、昴君と顔を合わせられないかも」
実際、今朝もなかなか昴とは顔を合わせることができていない。というか拒絶みたいなこともしてしまっている。ただでさえそんな状態なのに、昴のことが好きだと自覚してしまった今、昴とこれまで通り接するなんて土台無理な話だ。
ふーんと鏡花は考え始める。しばらくして鏡花はある提案をした。
「じゃあ、昴君に昨日の看病のお礼をするっていうのはどうですか?」
「お礼?」
「はい、お礼です。具体的には手料理をふるまうのなんてどうでしょう。それなら綾女ちゃんの女子力も昴君にアピールできて一石二鳥です」
「いいね、それ」
だがここで綾女は重大なことに気づく。
「あっ、でも私、料理なんてしたことなかった」
「ふふ、こんな時こそ私の出番ですね」
鏡花はにっこりとほほ笑む。
「私が綾女ちゃんの料理のお手伝いをしますよ」
「いいの⁈」
「はい、もちろんです」
綾女は鏡花の手を握り、ぴょんぴょんはねながら喜ぶ。
「も、もう、綾女ちゃんは大袈裟ですね」
「だ、だって、鏡花ちゃんが手伝ってくれるんだもん」
「ありがとうございます。では次の日曜日でいいですか?」
「うん、ありがとう」
ここで二人はマネージャーの車が停まっている場所に着く。
「じゃあ、鏡花ちゃんまた明日ね」
綾女は嬉しそうに手を振る。
「はい、綾女ちゃんもまた明日」
そうして、綾女と鏡花はそれぞれ自分の家に帰っていった。