14話
そのとんでもない事態は翌日の教室で起こった。
いつものように隼太や海音と話していると突然、俺のスマホに見たことない番号から電話がかかってくる。不思議に思いつつも俺は電話に出た。
『はいもしもし』
『もしもし。君、桂昴君かしら?』
『あ、はい。そうですけど、あなたは……?』
『私は吉良綾女のマネージャー、泉麗華よ。あなたのことは綾女から聞いているわ。ところで昴君、綾女のこと知らない?今日はまだテレビ局に来ていなくて』
泉さんは焦っていたのか電話口から聞こえてくるのはやや早い口調だった。
『えっ、本当ですか⁈ 綾女、今日は8時半に集合だから俺が家を出た後に行くって言ってたんですけど』
『とにかくこっちにはまだ来てないわ。昨日もなんだかしんどそうだったし』
そこで俺は昨日の妙な違和感にハッと気づく。
もしかして、綾女……
『すみません泉さん、俺、ちょっと綾女の様子を見てきます』
『そう、ならお願いするわ』
『失礼します』
俺はそう言って電話を切る。
俺のただならない様子を感じ取ったのか海音たちが心配する表情を浮かべていた。
「わるい、隼太。今から家に戻るから、先生には適当にごまかしておいてくれ」
そこで、隼太は何となく状況を察してくれる。
「ああ、わかった。早く綾女っちゃんのとこに行ってやれ」
「ありがとう」
俺はすぐさま教室を飛び出した。
途中、廊下を全力疾走する俺を何事かと見る生徒が何人もいたが頭の中は綾女のことでいっぱいで気にする余裕はなかった。
◆◆◆
「綾女っ」
俺は玄関をバンっと開けると綾女の名前を叫ぶ。だが返事はない。
俺は靴を脱ぎ、リビングへと向かった。
リビングの扉を開けると、俺は目の前の光景に驚愕する。そこにはフローリングの床に倒れていた綾女の姿があった。
「綾女⁈」
俺はすぐさま綾女のもとへと駆け寄る。すると、綾女はゆっくり閉じていた目を開いた。
「お、お兄ちゃん・・・?」
とても目はうつろだ。俺はとっさに綾女のおでこに手をやる。
「あつっ」
綾女のおでこを触った瞬間、高熱が出ていると分かった。
「お兄ちゃん、私、収録に行かないと・・・」
何とか起き上がろうとする綾女。
しかし、俺はそれを手で制する。
「なに言ってんだ。綾女、熱が出ているだろ。今日は静かに寝てろ」
「でも、私が行かないと、みんなが迷惑するし」
「とりあえず今日はだめだ。待ってろ、今部屋に運ぶから」
俺は綾女の腰に手を回し、お姫様抱っこをする。そしてそのまま、綾女の部屋へと階段を上がった。
扉を開け、綾女の部屋に入る。
綾女の部屋はいかにも女の子の部屋といった感じだった。部屋全体を明るく淡い色合いで統一し、ベッドにはぬいぐるみがいくつか並ぶ。勉強机はきれいに整頓されていた。
何気に俺、綾女の部屋に入ったの、初めてだよなあ
こんなに切迫した状況だがつい感慨にふけってしまう。
すると、
「あ、あんまりじろじろと見ないで……。部屋、片付けてないから……」
綾女が俺の腕の中で呟く。
「ごごご、ごめん」
そうだ、今は綾女の熱をどうにかしないと……
俺は綾女をベッドにおろし、布団をかけた。その途端、綾女はすぐさま眠ってしまう。
よっぽどしんどかったんだな
こんなになるまで頑張って
俺はすやすやと眠る綾女を見つめる。
「さて、俺もやることやるか」
そして、俺は綾女の部屋を出てスマホに手をかけた。