11話
「こ、こわかったああぁぁぁぁ」
ベンチにうなだれる綾女。
俺たちはつい今しがた、お化け屋敷を攻略してきた。
どうだったか、と感想を言いたいところだが実はあまり覚えていない。ずっとおぶさっていた綾女に夢中だったからな。主に俺の理性を保つために。お化けが出るたびに綾女は俺にしがみつくし、それで背中にはやわらかい二つの感触がもろに伝わってくるし。自分で褒めるのも何だがよく耐えたと思う。
すると、
「ご、ごめんね」
両手を合わせて綾女が謝る。
「ん、なにが?」
「さっき、ずっと私をおんぶしてくれていたでしょ。大変だったかなあって」
「綾女はそんなに重くないし平気だよ。それに怖かったんだろ?」
「う、うん……。私、お化け屋敷があんなに怖いものだなんて思ってなかった」
「あはは、すごい悲鳴だったもんな」
「むっ、それは言わないでよ~」
怒った綾女が俺の胸をポカポカと叩く。でも、なぜか不思議と痛くない。
綾女にポカポカと胸を叩かれながら俺は目の前にあった時計塔を見た。
「あっ、もうこんな時間だ。綾女、ご飯を食べに行かないか?」
「えっ、そうなの?」
綾女もカバンからスマホを取り出すと時刻を確認する。
「ほんとだ」
「ちなみに、昼ご飯を食べるところも決まっているのか?」
「うん。ここから近いフードコートだよ」
「わかった。ならさっさと行こうか」
そう言って俺が立ち上がると、
「ま、待って……」
綾女が俺の服をつかむ。
「ん、どうした?」
「手……つないでもいい?」
「えっ」
突然のことに戸惑う俺。
「ほ、ほら、デートといったら恋人同士が手をつなぐのが定番かなと思って。だから……」
綾女は顔を赤くして俯いている。
うっ、そんなんされたら本当に綾女が恋人に見えてきてしまうから……
だ、だめだ。今、俺は綾女の恋人役。
あくまでフリだ。
そうフリ……
それに綾女は俺の妹だ。だから、これは綾女の演技なんだ。別に俺に気があるというわけではない。
そう言って自分に言い聞かす。
そして、伸ばされていた綾女の手をさっとつかんだ。
「……」
「じゃ、じゃあ、行こうか……」
「……うん」
恥ずかしくて俺は綾女の方を向くことはできない。たぶん綾女も同じなのだろう。この後俺たちは一言も発さぬままフードコートへと行くことになった。