10.5話
すみません。
10話と11話の間のストーリーが飛んでいたので、10.5話という形で差し込みたいと思います
これで10話から11話へと話がきれいにつながるのでぜひ読んでみてください
フリーパスを二人分買い、俺たちはセントラルパークのゲートをくぐる。
「ふー、思ったよりも待ち時間長かったな」
「うん、入る前からちょっと疲れちゃったね」
長い行列を抜けた俺たちはまず、ほっと息をついた。
「さて、まずは何から乗ろうかなぁ」
俺は先ほど受付の人からもらった園内図を見る。
西のエリアにはジェットコースターや観覧車といった乗り物系。東のエリアはここのマスコットキャラクターが多くいる劇場系か。おっ、北のエリアにはゲームセンターもある・・・
思いのほかアトラクションが充実していることに俺が驚いていると、綾女が俺の服をクイッと引っ張った。
「ん、どうしたの?」
「えーっと、昴君、今日は私がリードしてもいい?」
えっ、こういうのって男がリードするべきじゃないの?
この前隼太にアドバイスもらった時のそう言っていたし。
と、俺は疑問を抱いたのだが、綾女は自分のカバンの中から可愛くデコレーションされた手帳を取り出す。
そしてパラパラとめくり、今日の日付の欄を俺に見せた。
「実はね、今度の連ドラでも遊園地に行く回があって今日はその疑似体験をしてみたいの。なんでもレナが好きな人と初めてデートするところなんだって」
ああ、なるほどそういうことか。それならば綾女が行きたいところを回る方が勉強になる。
「わかった。今日は綾女の行きたいところを回ろうか。えーっと、まず始めは……」
俺は綾女の手帳を覗き込む。それによると俺たちは最初にジェットコースターに乗ることになっていた。
だが、
……やばいっ
俺はジェットコースターという文字を見た瞬間、背中に冷や汗をかき始める。
そう、何を隠そう俺はジェットコースターが苦手なのだ。理由は単純、乗り物酔いがすごいから。
どうしよ……
だが、ジェットコースターのパンフレットを嬉しそうに眺める綾女に今さらダメとか言えるはずもない。
どうか、優しいジェットコースターでありますように……
俺は心の中で一心に祈った。
やがて、俺たちは目的のジェットコースター乗り場へと到着する。
そして問題のジェットコースターは……
――――――――――――――――――全然優しくなかった
高低差が60メートルもあるところもあれば、ぐるんと一回転するところもある。
あ、俺、終わった……
ジェットコースターをあたかも人生の終着点のように見つめる俺。
一方で綾女は、
「わああぁぁぁぁぁぁぁ! 楽しそうだね、昴君」
と、感嘆の声を上げ、目を輝かせていた。
「アア、ウン、タノシソウダネ」
俺は壊れたロボットのように片言の日本語を話す。
だがテンションマックスの綾女はそれに気がつかない。
「よーしっ、めいいっぱい楽しむぞー」
「ウン、タノシモウネ……」
◆◆◆
三十分後、ジェットコースターの近くのベンチではダウンして横になった俺がいた。
隣の子どもが「お母さん、あれ何―?」をして、その子のお母さんが「見ちゃいけません」としているが、そんなのことを気に掛けるほど俺の余裕はない。
そこへ、ジュースを買いに行っていた綾女が帰ってくる。
「昴君、ほんとに大丈夫?」
綾女は俺の頭のそばに座るとプシュッと音をたててプルタブを開けた。
「た、たぶん……」
俺は何とか声を振り絞って答える。
やっぱりジェットコースターはだめだ
やばい、気持ち悪い……
だがそばに綾女もいるので決して嘔吐することはできない。
綾女はしばらくそんな俺を心配そうに見つめていたが、やがて、
「たぶんって……。んー、もう、仕方ないな」
その瞬間、俺の頭がフッと持ち上げられる。
「えっ」
そして次に頭が下ろされたとき、頭にはもちっと柔らかい感触が伝わった。さらには俺の視線の先には綾女の端正な顔がある。
もしかしてこれって……
そこで俺は今の状況を理解しようと努める。
頭に伝わる柔らかい感触。目の前にある綾女の顔。綾女のいつも使う石鹸の香り。
これは間違いなく綾女の膝枕だ。
そうとわかると俺の顔は見る見るうちに赤くなっていく。
「あああ、綾女⁈」
もはや呂律も回っていない。
だが見ると綾女も頬を赤く染めていた。
「し、仕方ないでしょ。昴君、体調悪いみたいだし。そ、それにほら、こういう時は彼女の出番というか……」
やはりやる側も恥ずかしいのかそっぽを向く綾女。
すると、通りかかった人たちが、
「あーっ、あの子たち可愛いー。膝枕してるー」
「若いってのはいいねえ」
「リア充、爆発しろっ」
と俺たちを見て思ったことを口にしていく。
……やばいっ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「あ、綾女、も、もういいよっ」
俺は恥ずかしさに耐えられなくなり体を起こそうとする。しかし、綾女は俺のおでこを抑えてそれを阻止した。
「だめっ、まだ昴君の顔色悪いし……」
「でも、これはさすがに恥ずかしいっていうか……」
「私も恥ずかしいんだから我慢してっ」
かたくなに綾女は俺を起き上がらせようとはしない。
ダメだこれは……
綾女の強情さに負け、俺はしばらくこの状態でいることを余儀なくされたのだった。
◆◆◆
「えーっと、次はお化け屋敷か」
俺は園内図を見ながら歩いていく。
綾女は先ほどのことがまだ恥ずかしいのかずっと下を向きっぱなしだ。
やがて、目的地に着く。
「ついたよ、綾女」
「あっ」
そこで、綾女も立ち止まった。
ここも結構並んでるな……
そう思いながら俺たちも最後尾の後ろに並んだ。
だが、長い行列のおかげで綾女の恥ずかしさはだいぶ収まったようだ。
今は先ほどのジェットコースターの話題で盛り上がっている。
「昴君って絶叫マシンが苦手なんだね」
「いや、俺はただ単に乗り物酔いになりやすいだけ。綾女は強いんだな」
「ううん、私はああいうのに乗ったのは初めてだよ。でも、実際乗ってみると思ったよりもたいしたことなかった」
「あれがたいしたことないってどんなだよ……。じゃあ、絶叫系は得意みたいだな」
「うん、そうみたい。次も楽しみだね」
すると、スタッフの人が「次の方、どうぞ~」と言うのが聞こえた。
「おっ、やっと俺たちの出番みたいだな。じゃあ、行こうか」
そして俺たちはスタッフの簡単な指示を受け、お化け屋敷に入る。
まず入ると目の前のモニターが作動した。その後、一分程度のホラー映像が流れる。
どうやらここは廃病院で、俺たちは閉じ込められたという設定らしい。そして、俺たちは脱出するため、順路通り進めばいいというわけだ。
なるほど、お化け屋敷のよくあるパターンだな……
と、その時、
ピトッ
俺の腕に何かが張り付く。
えっ、もうお化けが……⁈
今さっきまで余裕に構えていたが突然のことに俺は不意にも恐怖を感じた。ゆっくりと自分の腕を見る。
そこには、
「……綾女?」
全身をぶるぶると震わしていた綾女がいた。
「だ、大丈夫か?」
どう見ても大丈夫っていう感じじゃないけどな。
すると綾女は今にも泣きだしそうな顔で、
「だだだ、大丈夫じゃない。か、帰りたい……」
目に涙を浮かべ、より一層俺の腕にしがみついた。
「……」
ダメだこれは。
普通なら可愛い女の子にしがみつかれて今にも踊りだしそうな気分になるのだが、これほどまでに震える綾女を見ると彼女を可哀想と思う気持ちの方が強い。
でもだからっといってどうしようか。
放っておいたら後から来る別のお客さんの迷惑になるだろう。
先には進まないといけない。
でも綾女はどんなに見てもひとりで歩ける状態ではない。
少しして俺はある決断を下した。
「しかたないな、はい」
俺は綾女の腕をほどき、彼女の前にしゃがむ。
「えっ」
綾女は俺が何をしているのかわからないといった顔をし、俺の方を見つめた。
「怖くて歩けないんだろ?俺がおぶってやるよ。これならずっとしがみついているから少しは怖くないだろ」
「う、うん……ありがと……」
すると、俺の背中に綾女の体重がかかってくる。
同時に綾女のやわらかい体が背中に伝わり、耳元には震える吐息もかかる。
自分から提案しといてなんだけど、これ、俺の理性を保つのが大変すぎる……
ま、でもこれなら俺の今の顔を綾女に見られずは済むか。