表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/27

10話

ハア、ハア……

俺は走りながら自分の時計を見る。

ただ今の時刻、9時50分。待ち合わせの10時まであと少ししかない。


俺はもう一度前を見据え、ただひたすらに走る。

やがて、待ち合わせに指定した公園の噴水が見えてきた。

そしてそこには、私服でおしゃれをした綾女が待っている。もちろんメガネとこの間あげたシュシュをして変装は完璧だ。


「ま、待った?」

待ち合わせ場所に着いた俺は多少ぎこちないが綾女に声をかけた。

すると、


「ううん全然。私も今きたとこ」

綾女は笑って俺の方に振り向く。


「っっ⁈」

何回もこうやって綾女を見ているけどやっぱり思わず見とれてしまう。


「と、とりあえず行こうか」

俺は顔を赤くしながら、綾女に気づかれないようにそっぽを向いて言った。


「うん」

先に歩きだした俺に綾女もおいていかれまいとついてくる。


「えーっと、きょ、今日はセントラルパークでよかったっけ?」

目的地に向かう途中、俺は綾女に尋ねる。

ちなみにセントラルパークとは最近郊外にできた大型遊園地のことだ。最新技術を駆使したアトラクションが多くあり、なかなかに好評らしい。


「うん、私、あそこに一回行ってみたかったの。昴君は行ったことある?」

「い、いや、俺もないかな」

「じゃあ、二人とも初めてだね」

綾女がニコッと微笑む。

「そ、そうだな……」

自分でも今日はテンパっていると自覚している。だがそれも仕方ない。そもそも俺自体この状況に理解が追いついていない。


落ち着け俺……


まずは今の状況を整理しよう。


ことの発端は一昨日。俺が綾女の恋人役になった日だ。あの話し合いの後、まずはお互いの呼び方を変えることになった。綾女曰く、その方が恋人っぽいとのこと。


綾女は綾女のままでいいということになったが、俺の呼び方はお兄ちゃんから昴君へと変わった。

そして、今の状況につながるデートの話になった。

綾女が恋人ならやっぱりデートをするべきだと思うというので、それなら明後日、つまり今日セントラルパークに行こうということになったのだ。


また、待ち合わせ場所と待ち合わせ時間も決めた。同じ家なら一緒に行けばいいと俺は思ったのだが、少しでも恋人気分を味わいたいという綾女の要望に沿い、別々の時間に家を出た。以上だ。


うーん、なんとなく理解できたような、できないような……


だが一つ信じられないことがある。

俺はちらりと楽しそうに隣を歩く綾女を見る。


それは、俺が今あの吉良綾女とデートをしているということ。

はたから見れば先日の旅行と似たような感じかもしれないが、俺の心持は全く違う。

あの時の俺は一応綾女のことを妹として見ていた。それに比べて今回は綾女のことを一人の女の子として見なければならない。


普通の女の子とさえデートをしたことがない俺が日本トップレベルの美少女とデートをするなど、『太鼓の●人』を初心者がいきなり『鬼』で挑戦するようなものだ。


デートって言っても、一体何をすればいいのだろうか……

そんなわけで俺は今、頭がいっぱいいっぱいなのであった。


「……くん、す……くん、昴君っ」


「っっ⁈」


いつの間にか綾女が何回も俺のことを呼んでいた。


「な、なに?」

悶々とした悩みを強制的に頭の端っこに追いやり、俺は綾女の方を向く。

見ると綾女はムーっと頬を膨らませていた。


「もお、『なに?』じゃないでしょ。着いたよ」

「えっ」

見るとそこには大きく『セントラルパーク』と書かれた典型的なテーマパークの門があった。

夏休み最後の休日だからかゲートにはたくさんの人が列をなしている。


「昴君、さっきから何回呼びかけても答えてくれなかったけど、どこか具合悪いの?」

「い、いや、ちょっと考え事してただけ」

「そう。ならいいけど。じゃあ私の彼氏さん、頑張ってね♡」

綾女はニコッと笑い、俺の顔を見上げた。


あ、綾女の彼氏……

その響きは俺にとって刺激の強すぎるものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ