表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

02.(皮算用)

「おはようございます」陰気な声がした。蛮族であるヤギヒゲが、期日の過ぎた案件を掲示板から剥がしていた。小柄で痩せぎすで、黒いちょびちょびの山羊髭を生やした若者である。


 あまり陽に当たらないこともあってか、肌は青白い。種族の異るファラリスからしても不健康に見えるが、元来がそういう土地の出身らしい。


 ヤギヒゲは、蛮族二人目のサンプルである。会館近くで行き倒れており、食事を与え、風呂に入れ、清潔な服そして寝床を与え、他の同族との交流含む一切の行動の自由を制限し、タダ同然で働かせている。魔族ギルドは非情なのだ。


 捕らえてから暫くの後、面談にて遠方に縁戚がいることが分かったので、無事であり、仕事にありつき、何一つ不便がないと認めた手紙を無理矢理書かせ、送り付けることまでした。


 返事がなかったことにベイブ・デイヴは憤慨したが(蛮族どもに仁義の理念を期待したのが間違いである)、「かえって良かったのでは」とのファラリスの言に、「そうかもな」と同意し、「お前に預ける」好きにせよ、と申し付けた。


 ファラリスはちょうど小間使いが欲しかったので、ありがたく貰い受けた。


 ヤギヒゲは、覇気なく陰気な性質だが、口答えすることなく、黙々と仕事をこなす。たまにポカをしでかすことはあるが、完璧であることはあくまで努力目標だ。そうだろう? 次から注意すればいいだけのことだ。


「ん?」

 ヤギヒゲが何か云ったが聞き取れなかった。「すまん、もう一度」

「スリーコーナーズでの賭け金は、過去最高になってるようです」

「そうか」


 ファラリスは満足げに頷く。三組の石竜人、つまりリザードマンたちが件の村へ出発したのは先日のことであった。「連中も腕に撫しておろう。今年はどこが勝つかな」


「さぁ……」どうでしょうねぇ、とヤギヒゲが力なく答える。ふっふっふ。ファラリスは穏やかに笑う。


 三つの領地に隣接する農村の、期限付き領有権を賭けた綱引きは、内外から人を集める、ある種の祭へと順調に発展している。


 どの組が勝とうとも、ギルドには一定の報酬が入ってくる。そして、リザードマンは、相手が誰であれ、仕事が何であれ、手心を加えるような真似は絶対にしない。彼らは特に誇り高い魔族なのだ。


「蛮族どもが殺し合わずに解決策を見出したのは良かったな」

「はぁ」

「ところで、ヤギヒゲ。先日の手紙は全て終えた筈だが」

「終わってます」

「報告が未だのようだが」

「本日中に」

「よし」

 それはとんでもないポカであった。


 現金輸送駅馬車の時刻表が貼り出された。難易度も低いことから若造たちが名乗りを上げ、意気揚々とホールから飛び出して行った。


 ところがである。時刻も標的も間違え、ポニー・エクスプレスを襲ってしまった。荷である郵便物は急遽集めたギルドメンバーで手分けし、配達するハメになった。


 戦利品の重さで気付けよ、とファラリスは深い溜め息を吐かずにはいられなかった。しかし最後の一通に至るまできちんと配達することができたことで良しとした。


 手紙が届かなかったら悲しいじゃん。それが火急のものとなればなおのこと。だが、ギルドとしては、つまらぬ出費を強いられたのはウマくない。保証金の積み立て? 使えば減るのは世の常だ。アア、何処かに金塊、落ちてないかなぁ。


 ファラリスは時折、俗っぽいことを考える。けっこう真剣に考える。皮算用も事細かにする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ