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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

久しぶりの三連休

作者: park_1254

 本当に本当に久しぶりの三連休。実家に戻ったら甥っ子の七五三に付き合わされた。

 それはまだいい。甥っ子は元気でよく動くから見ててほしい。それもまだいい。

 だが。

「待ちなさーーい!」

 この足の速さは聞いてない。境内を縦横無尽、やっと捕まえたと思っても、ふと目を離すともうあんなところにいる。

 肩で息をして膝に手をつく。重い足をそれでも振り出そうとしたとき、ふわりとなにかがまとわり付いた。

「お困りじゃな?じゃな?わらわが手を貸してやろうか。遊び一回と引き換えじゃ!」

 馴染んだ声と、見慣れた雪色の浴衣姿。ニコニコして私の周りをぐるぐるしないでほしい。

「…あーもうハイハイお願いします」

「心得た!」

 さあっと風が吹くと、いつの間にか甥っ子は親に手を引かれていた。

 勝手に走っちゃだめじゃないと怒る母親に、でもしろい着物の子が…と言う。こどもの言うことはいつも脈絡がない。

 そんな子いないでしょ、もう手離しちゃだめだからね――。

「…白い着物ぉ…?」

 じろりと隣のちびに目をやると、わざとらしく目をあさっての方向へ泳がせている。

「お前かーーー!!」

「きゃあーーーはははは!!」

 ふすまを開ければ尋常じゃなく広い畳座敷。その奥ぅーのふすまにあいつがぴょこぴょこしてる。

「理緒、理緒! わらわはここじゃぞ!」

「こんのぉ…やってること変わんないじゃないの!」

 縦長の座敷を横切ってふすまを開ければ、そこにも広ーい宴会座敷…と、跳ねるちび。

 走って走って開けても開けてもあいつは座敷の奥の奥だ。

「こういうときは…」

 ぐるりと振り向いた後ろのふすま。

「ここだぁっ!」

「うひゃあ!」

 開ければ飛び出す白浴衣。見事にばっふんと受け止めた。

「観念しなさい!」

「ひゃーっ! つかまってしもうたぁーはははは!」

 お腹に顔をぐりぐりしてくるのは本当に相変わらずだ。

「久しいのぅ、理緒! わらわはちょっとだけさびしかったぞ!」

「…そうな、仕事しててね…」

 こんなセリフを吐く年になったのか。一応、若手社員ではあるのだが。

「さびしくて怒ってやろうと思ったに、理緒に()うたら忘れてしもうた!」

 いっぱいの笑顔につられて破顔する。そうだ、笑うってこうだっけ。するりと浴衣が腕を抜け、

 そばの大石に腰掛けた。つま先で水面をちゃぷちゃぷしている。隣に座ると、川のきらきらがよく見えた。

「…理緒、もう泣かんか?」

 さっきとは違う、曇った顔だ。あいまいに答えると、冷たい風がそよいだ。

「わらわはなんでもお見通しじゃ。…これのことも」

 左の手首を撫でられる。ぎくりと体がこわばった。

「…初めてここで会うた時、理緒は『いたい』や『こわい』から、逃げてわらわに会うたのじゃ。

 小さい理緒にもできたのじゃ。いまの理緒には何故できん? どうして自分をいたくする?」

 答えられない…。立ちあがったちびは、私の頭を抱きかかえた。

「わらわとて、早う理緒とは遊びたい。じゃが、理緒は駆けてはならんのじゃ。

 足で歩いて、うんと年をとって、遊ぶ約束はそれからじゃ」

 なにも話していないのに、伝わってしまう。伝わってくる。

「わらわはいつでもそばにおる。…また一緒に遊ぼうぞ」


 ――大好きじゃぞ、理緒。


「理緒ーー! すまーーん!!」

 聞きなれた声で目が覚めた。イタタ…。おでこに石灯篭の跡がついてる。

「連れて来といて置いてくなんて、本当に最低だよな! 俺も嫁さんもなんで気付かないのか…」

「…いいよ別に。たぶん兄ちゃんのせいじゃない」

「お、おう…?」

「挨拶してくわ。車で待ってて。…あと私、会社辞めるから」

「あ!?おう!? …そうか、まあ、母さんも安心するよ」

「…は?」

 電話の声がいつも死にそうだったらしい。そうか。


 がらんがらん。会釈してから二礼二拍手。心配かけたね、おわびになにか持ってこようかと

 問いかけた。返事はなにも聞こえなかった。

 代わりに、あまぁーいものが脳裏に浮かんでは消えていく。思わず笑みがわいてきた。

(そこは…)

 油揚げじゃないのか、とは聞かないでおいた。

今回の着想を得た曲は Ryu☆ Sakura Mirageです。

影のある文章になりましたが、曲は底抜けハイテンションですのでご安心を。

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