1章 7話 進化する者達
目を覚ましたのは5時半。昨日の疲労感があっても起きる時間を変えない俺だが、この通り1時間も早く起きている。
原因は目の前に仁王立ちする男で、奴は畳み掛ける様に言葉を発した。
「さっ、ランニングっすよ!」
気合いの入ったミリワとは逆に、俺の身体は寝転がり、意識は働いているが混乱していた。
「真馬さん!昨晩はすみません!以上です!」
「えっ、えー?」
シリアスシーンを覚悟していた俺にとって、ミリワと改めて話すのは緊張以外の感情を向けられていなかった。なのにこんな締め方をするのか!?
「僕はもう過去について深く考えません!過去を未来に繋げる努力をするまでです!」
目が輝いてらぁ・・。
しかし、その考え方は助かる。いや、面白い!
「よっしゃ、ミリワ!今朝は2倍の距離を走るぜ!」
「そうこなくっちゃ!」
俺は扉を開け放ち、玄関へと向かった。慌てながら靴を履こうとしていると、リビングの扉が開いてコナが出てきた。
「2人も寝間着でランニングですか?酔狂ですね」
俺とミリワはお互いのコスチュームを眺め、不満を爆発させた。
「俺は未だしも何でお前は寝間着なんだよ!気合い入ってると思ったら格好以外か!?」
「なに自分だけ正当化してるんすか!気付かないそっちもでしょう!?一時のテンションに身を任すから恋愛経験が無いんですよ!」
「お前はなに生意気な事を言ってんだ!ってか、その話どこで聞いた!?」
「2人共止めてください・・」
コナがこちらを睨み付け、俺らは何故か手を挙げる。命を賭けるつもりは無いと、首を振って表した。
「私だって早く起こされたんです。朝早いので静かにしたらどうですか」
「「ご、ごめんなさい・・」」
思わず土下座しそうになるが、何とか堪える。尊厳が限界地点を突破しそうになり、崖っぷちにつま先立ち状態だ。
「っ、あれ。コナさん、痩せてませんか?」
「おいぃぃ!このタイミングのお世辞はお世辞と扱われないって教わってないのかぁぁ!」
「ミリワ君、女の子として礼を言います。真馬さんは背中に気を付けてください」
早起きのコナって恐い。覚えておかなくちゃ命に関わる。俺達の意思に関係なく。
俺は壁に背中を張り付かせ、コナを凝視した。
「痩せたというか・・やつれてるんじゃ?」
「・・・魔力の量に自信はあっても、魔術を連続して使いすぎました。ご飯食べれば治ります」
石のカーペットを作った後に直ぐ、コナは剣を浮遊させた。最後の最後まで魔術で俺のサポートをしてくれて・・頭が上がらない。
俺とミリワはコナに頭を下げ、着替えてからランニングに向かった。いつもの2倍の距離を走るから朝食は遅くても構わんと言ったら、やけに心配してきたが、ミリワが決めたと伝えたら許してくれた。
普段の距離でもミリワにはハードらしく、今朝は途中休憩の回数が多くなった。それでも最後まで走り抜き、ミリワも満足そうだ。
「なぁ、ミリワ。今度から肉体強化にも取り掛かろう」
「えっ、いいんすか?」
「・・・お前が決めろよ」
「・・・やります!」
「2人共、ご飯食べないんですか?あと、真馬さん。無責任な感じがしますよ」
「「・・・いただきます」」
今日は2倍の距離だったからか、俺の精神面が1つ大人になったからか。
「今日の飯はいつもより旨い気がする」
「・・・ありがとうです」
「お世辞はお世辞と扱われないかぁ・・」
俺は静かに茶碗を置き、ミリワの後頭部を殴った。