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騎士解雇ストーリー  作者: エスト
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1章 5話 悪魔の剣

ゼホスは俺の住むチワイカの隣街である。しかしその距離は遠く、荒野まで広がっている。俺も仕事ならともかく生活の中ではゼホスに訪れたりしない。


本当はあんな荒野ぐらい走力強化を行えば直ぐに抜けられる。荒野は森などと比べて超生物の発見がしやすい。元より荒野は楽な通り道だ。


俺が本気を出して車と二人を持ち上げ走る真似はしない。危険がない道を利用し、旅の生活に慣れておきたかったのだ。


1日を移動に費やして着いたゼホスはいつも通りだった。ここは契約騎士団がいないのに結構平和で、俺から見ても治安は良い方だ。これといった特徴が無いのも原因かもしれない。


荒野の真ん中にあるゼホスを訪れる人など殆どいない。俺がこの前来たのだって・・・


「何故だ・・チワイカの本屋に最新刊がない・・!仕方ねぇ、1寸も無い希望だが、ゼホスに行こう!」


こんな感じの動機だった。結果はゼホスに最新刊は無く、俺は自分を責める事になった。


だが特徴が無くとも、この街が平和ならそれは素晴らしいことだ。不便な部分があっても、住んでたら何処よりも魅力的に思えるだろう。


「私、ゼホスは初めてです・・」


後ろに付いてくるコナは忙しそうに辺りを見回している。そんな事しても鳥ぐらいしか見付けられないぞ。


「僕は何度か来ましたけど・・なんもないっすね」


コナの後ろにいるミリワは街の景色を眺めながら、呆れた様な感想を漏らす。それを聞いてもコナはきょろきょろとしていて、夢中で新鮮さを感じ取っている。


「・・・いや何で縦列?」


「真馬さん、私達はパーティー。仲間です」


「背中は預けたっすよ、真馬さん」


「ミリワ、お前の背中は誰も守れてないからな?」


新たな街に来てはしゃぐ気持ちから、こんな行動に出るのならまだ理解できる。だが、ここはゼホス。修学旅行で来れる場所では無いんだ。


俺は二人を無理矢理並ばせる。街を歩く通行人はそれほどいないため、邪魔になることはなかった。


「よく聞け、今度RPG紛いの行動を取ったら馬車に放り込むからな」


「それって結局真馬さんもやってますよね」


「馬車・・馬車・・どこにもないっすけど?」


的確な指摘と例えもわからん馬鹿に俺は少し頭を悩ませる。


このゼホスは狭いが、ちゃんと街としての機能はしっかりしている。食料などの調達無しでは旅なんて出来ないし、旅の観光目当ても少々あるから、とにかくゼホスに来るのは間違っていない。


一馬がこの街に来た理由は恐らく何らかの調達で間違い無さそうだ。なら店などで話を聞くのが手っ取り早いのだが、あちらも商売。客の顔を一々覚えているなんて考えられない。


何より一馬が消えた日からもう数日が経過している。人から一馬を聞くより、一馬が行きそうな場所についてを特定したい。


「そのためにはまず・・土地調べだ」


「土地調べ?・・・何をするんすか?」


「この街で最近起こった事柄。この街から行ける街の情報。以上の2つを集めるんだ」


事柄にゼホス以外の街、願わくば一馬が関連していればここまで楽な話はない。他の街で何かあれば、一馬も食い付くかもしれない。


「でも真馬さん、何処で探せばいいんでしょうか?」


「こんな平和というか・・・ボケェ~とした街だ。起こる事柄は大した規模じゃないはず」


「規模が小さいんじゃ探すのが大変じゃないすか?」


「逆に、規模が小さいなら知っている人間が減る。わかったな、見るからに悩んでる奴を探すぞ」


「だったら個人行動でいいんじゃ無いですか?」


そう提案したのは意外にもコナだった。彼女のイメージからの決めつけではあるが、団体行動を優先すると思っていた。


「そうっすね。街は広くないし、3人が別々に回れば直ぐに済むっすよ」


ミリワが賛同し、それなりの意見を提出する。確かにゼホスは狭いし、訪れた事も何度かある。手っ取り早く済ませるには最もな手段だろう。


「僕はあっちに行きましょう」


「じゃあ私はあちらに」


2人は異なる方向に歩き出し、残った1本の道へ俺は進む事となった。この先は人通りが少なく、大した店は無かった気がする。


今の時間はまだ朝の9時。街の人々も世話しなく歩き、店先では商売に励んでいる。


「(あー、仕事してぇ・・・)」


俺の仕事で多かったのは超生物の討伐であった。討伐が楽しいなどと残虐な考えは持っていないのだが、俺は昔からそういう仕事をしてきた。今の仕事はせいぜい運転や炊事。あの仕事を懐かしく思うのだ。


こんな街でも働く人間はいる。一馬を見付けたら俺は、もう一度働こう。また、人のために。


いや、恋愛という物もしてみたいな・・・。


「って、あれ?行き止まりか」


考え事をしながら歩いていると、自分が行き止まりに向かっている事に気が付かなかった。行き止まりは暗く、人の気配などはまるでしない。


引き返そうとした俺の足が思わず止まる。気配が無かったはずの場所から、何やら嫌な空気を漏らしていた。


試しに壁を登り、街の外を見渡す。それほど高くない壁だが、その付近に超生物が寄り付いている訳ではない。どんな街でもそれぐらいの守護魔術はかけてあるから、平和も保たれているのだ。


この街は例外で無いはずだった。壁付近に何らかの後がある。平べったい物が地を這い、その左右に大きな足跡が縦に続いている。


外側の壁から離れない刺激臭に、この特徴的な地面の跡。間違いなく、毒トカゲだ。


普通の生物が超生物へ姿を変える事を超進化というが、その際に生物は数多の特技や習性を身に付けてしまう。


毒トカゲは名の通り、毒を手に入れている。解毒薬は街にも出回っているが、群れ行動の習性により、その危険性は高い。


騎士団からしたら、トカゲ族なんて田舎の蛍程度。だが戦闘を知らない者ならパニックを起こし、毒に侵されて死亡してしまう。


俺は壁から飛び降り、周辺を歩き回る。足跡を辿っていくと、毒トカゲの巣と思われる洞穴が、幾つも掘られていた。


「・・・こんな街の近くにか」


今はどうやら留守らしい。毒トカゲは毒を取るために、とある植物を蓄える。荒野にもその植物はあるだろう。


だが問題は、毒トカゲにとって植物は食事にならないことだ。小動物を捕食して、奴らは生きるのだ。


もしも小動物が街の周辺に近付いて、守護魔術に影響が出ているのなら、大変な事になる。毒トカゲが街を襲ったら、多くの人間が犠牲になるだろう。


「・・・・・・騎士団を雇えよぉ!」


俺は不満を叫びながら、街へと戻った。元々の目的は果たす所か果たそうとも出来なかったが、ある意味重要な収穫を得た。


先程2人と別れた場所に戻ると、コナだけがその場にいた。店先を眺めているその背中からは、怨念らしき物が帯びていた。


コナの元へと駆け寄り、彼女の肩に手を置いた。その瞬間、俺は目の前に飛んできた手刀を受け止めた。


「コナ、俺だよ」


「え・・はっ、真馬さん!」


振り向いた彼女は俺の顔を見るたび、驚きの声を上げる。手をばたばたと動かし、後ろへと飛び退いた。


「すみません、真馬さん!防衛本能だったんです!」


「防衛って・・・あぁ、俺の気が回らなかったな」


運転中に話したコナと一馬の出会いを思い出す。コナはとある街で男に襲われ、一馬に助けられたらしい。一馬が俺の元に現れる以前から2人が出会っていた事にも驚いたが、それ以後コナはナンパ恐怖症という特殊な症状が生まれたらしい。


「そうか・・お前を一人で歩かせるのは危険だったな。すまん、大丈夫だったか?」


「い、いいえっ。この街にそんな人はいませんでしたし・・私も進化しているのです。私が魔術を使えばナンパ野郎なんて八つ裂きです」


「そ、そうなのか」


彼女はEカップの胸を張り、自慢げにしている。その場合はコナが犯罪者になっちまうんだがな・・。


「それより真馬さん。良い情報はありました?」


「それが厄介な事になってな。早くても今日、この街を超生物が襲い掛かるぞ」


周りの人に聞かれない様に、コナの耳元で話す。コナの表情が険しくなり、話の深刻さを覚えていった。


俺は毒トカゲの事情を話した。巣穴の様子を見て、街の危機を感じた事をコナに伝えると、彼女は腕を組んで悩み始めた。


「そんな事を知って・・ホッとけませんね」


「俺もそう思ってんだよ。元とはいえ代表騎士。見える危機を潰さないでその名は語れん」


「じゃあさっさと倒しに行くのはどうでしょう?」


コナはやはり血気盛んな面がある。そういう意味では騎士に必要な性格をしている。


「無理だ。毒トカゲは姿を消している。俺の感知魔術でも居場所を読み取れなかった」


「そうなんですか・・・・ミリワ君は何処に?」


コナが辺りを見渡すのに釣られ、俺も辺りを見渡す。周りに人は多いが、ミリワは特徴があるため直ぐに見付けられるだろう。


「・・・いねぇな」


「何か面倒事に巻き込まれているか・・あの人に限ってサボり癖は・・」


コナはチラチラとこちらを見つめてくる。


「ないよ。あいつは根が真面目だから」


コナは安心した様にEカップの胸を撫で下ろす。知り合って間も無いとはいえ、疑いを掛けるとは思わなかった。コナはナンパ恐怖症のせいで、男自体に危険性を感じているのではと思う。


俺らは自然と、ミリワを探す事にした。本当に面倒事になっているのなら、そのままの意味で面倒になる。


「そういえば、コナ。さっきの店で何を見ていたんだ?」


「包丁です。この前の特訓で壊れてしまったので」


そうか。スペアだったとはいえ、無くなったら補充する必要もあるな。


「コナ。欲しい物とかあったら言えよ?」


「私は想い出さえあれば」


ジョークだか遠慮なんだか、コナはこんな部分がある。


「遠慮なんて要らないからな。お前だって女の子だろ?そういう楽しみも必要なんだから」


「・・・嬉しいです。じゃあ、お願いして良いですか?」


これからもずっと、コナは俺に遠慮するつもりだったのか。俺らが旅するのに必要な資金は殆ど、俺が王竜で働いていた時からの貯金である。食費や用品の購入に使うのが主だが、コナにはお礼もしたいからな。ミリワは置いといて。


俺自身、コナのお願いは楽しみであった。何を欲しがるかでコナの意思が読み取れる。考えてみれば、俺はコナ自身については何も知らないから、この機会は貴重なのだ。


「あのですね・・・甘い物が食べたいです」


俺は思わず頬を緩まし、笑ってしまう。それを見たコナは、俺の腕を揺らしながら不満げにブーイングをしてくる。


「なんですかぁ、なにがおかしいんですかぁ」


「いや、思ったよりも女の子な返答が来て・・」


難しい願いでも無い。これに答えてコナが喜んでくれるなら安いものだ。


間食などの出費はある程度覚悟していた。街を巡るなら名産物やスイーツを食べてみたいと思うのは旅ならではの魅力。実際俺の貯金なら余裕はあるし、このゼホスにも甘い物はあるはずだ。


「あっちに小さいけどケーキ屋はある。そこでいいかな?」


「やった。ケーキ、ケーキ」


俺とコナはその店を目指し、並んで歩き出す。少し早足になっているのは、ミリワに見付からないようにするためである。あいつには悪いが、女の子と2人でケーキ屋に行きたい。この欲の前ではモラルなんぞ切り捨ててしまおう。


コナは余程嬉しいのか足取りが軽い。それに釣られて俺も足の進みが早くなって・・。


ここで気付いたことは、別にコナの歩行が速くなって俺も速くなったこと。だがその原因は、俺の腕とコナの腕が組まれているせいなのだ。


「・・・・・・」


初めての経験に俺の歩も止まり、目は繋がれた腕へ行ってしまう。俺の異変に気付いたコナはしばらく俺の顔を伺っていたのだが、その目はやがて下に降り、組まれた腕を見た。


「・・・ひゃっ!」


可愛らしいが、完全に悲鳴と思われる声を上げ、コナは後方へ飛び退いた。コナは慌てると距離を置く習性があるようだ。


この腕組みは先程コナが俺の腕を揺すった時に組まれ、俺達はそのまま歩き出したのだろう。


「うぅ・・・ごめんなさい」


原因はコナもわかったらしく、顔を赤らめながらも謝ってくる。


「いいって、俺も悪かったよ」


腕組みに不可抗力があるとはね。コナは本能的には積極的なのかもしれない、若しくは俺が。


しかし腕組みは思った以上に悪くない。すぐ隣を見ればコナの笑顔があり、視線を降ろせば芸術品が待っている。


腕と接触していた胸の感触を忘れない様に、どうにか脳内で反復する。苦労は実らず、あの感触を維持する事は当然出来なかった。


「どうしたんですか・・?辛そうですけど・・」


「いや、尊い経験が遠退いてな・・」


落ち込んでいてはコナにも悪い。楽しい雰囲気を醸し出し、コナには上機嫌でいてもらうんだ。


店にたどり着いた俺達は、店先に並んだショーケースを眺め、中のケーキを選んだ。俺は最近作ってないなと感傷に浸り、そのワッフルに決めた。


コナは少し悩んでいるのか、並べられたスイーツを指でなぞる様に選んでいる。やがて定まり、シュークリームの前で指が止まった。


合計でも数百円で済み、俺達は店の前で食べることにした。パラソルが立てられたテーブルにイスが2つ用意され、食事スペースはちゃんとある。そこで食べれば通行人の迷惑にもならない。


俺は購入したワッフルを口一杯に頬張る。


「あれ、旨いな・・」


チョコの風味が俺の口内を支配した時、俺はかなりの感動を味わっていた。どうやら俺は見くびっていたのかもしれない。こんな小さな街で売られているなら対した事はない。愚かにも決めつけていた。


「シュークリームも美味しいですよ~」


コナが食べているシュークリームは、今にもカスタードが落ちそうになっている。コナも頬張る度、口の周りに付いたクリームを拭っていた。


「真馬さんも食べてみてください!」


自分のシュークリームを一口サイズに千切り、コナはこちらに渡してきた。まだ口の付いていない部分であるため間接キスにはならないが、かなり美味しそうだし、個人的に興味はある。


手渡されたシュークリームの一欠片を受け取り、口に運んだ。なるほど、これもかなり美味しいな。


「ホントだ、これも旨いな」


「うふふ~、でしょう?」


甘い物を食べれた事が、それほど嬉しかったのか。満面の笑みを浮かべている。試しに自分のワッフルを少し千切り、彼女の目前でちらつかせる。


コナは物欲しそうにワッフルの欠片を見つめ、俺が手渡すと嬉しそうに食べ始めた。


「これも・・美味しいですぅ」


コナが甘党だったとは、いい発見だったな。日頃からお菓子作りをしていたが、こんなに喜んでくれるなら、これからもこういう時間を用意してあげよう。


「あっ、真馬さん。ほっぺにクリームですっ」


コナは腰を浮かせ、指で俺の頬に触れる。


「・・・あっ」


コナの動きが硬直し、プルプルと震えだした。


先程の腕組みを思い出す。コナは恋人らしい行動を無意識に行ってしまうのだろう。そして後々気恥ずかしくなり、こうやって赤面し始める。


コナが動き始める様子はない。普通に拭うなら未だしも、指でクリームを取り、自らで食べるぐらいの流れが出来上がっている。


果たしてコナにそれが出来るものか。いや、動き出したぞ?


コナは指にクリームを付けたまま、俺の頬を移動し出す。


「コナ・・・普通に離せば良かったんじゃ?」


「うぅ・・・もう何が何だか・・」


俺は頬に付いたクリームを拭って貰った事もないが、塗られる事も当然ない。


俺は持っていたティッシュで頬を拭い、改めてコナと向き合った。コナもその指を拭き取り、顔を俯かせていた。


「悪いがお前は間抜けなのかもな」


「ごめんなさい・・・」


別に怒ってはいない。俺はどんなに小さい事でも相手が謝らなければ許さない事にしている。コナは謝ったし、そもそも俺が不注意だったとも言えるのだ。


「俺は怒ってないよ。気を取り直してミリワを探しに行こうぜ?」


「・・・・・・はい」


俺らは店から離れ、再びミリワを探し出す。その間に俺はコナを慰めたり、話題を振ったりしたが、コナの空気は重いし暗い。何だか取り返しの付かない事をしてしまったと、反省までしてしまう。


いち早くミリワを見つけ出したかった。3人に増えれば、ミリワがいれば、この空気をぶち壊してくれる気がする。


俺は感知魔術を使い、ミリワの居場所を察知した。この道を右に曲がり、少し行った所にミリワはいるらしい。


早歩きで向かい、曲がり角を曲がると、ミリワは確かにいた。奴も俺らに気付き、全速力で走ってきた。


「真馬さん、大変なんです!」


「へぇ・・・こっちの事情を越えられるの?」


「・・・何かあったんすか?」


ミリワは俺の背後にいるコナの異変に気付き、俺にアイコンタクトを送ってくる。


「(真馬さん・・・物事には段階がありましてね)」


「(お前よりも理解してるつもりだわ。何と勘違いしてるのか知らんが)」


「(真馬さんに限ってそれは無いっすよね)」


わかっているなら無駄口を叩かないで欲しい。この時ばかりは俺もお前を頼っているんだからよ。


「それより大変なんです!」


ミリワは俺の両肩を揺すりながら、事態について訴えてくる。俺の事情もあるが、一先ず言い分は聞いてやろう。


話は当然、俺ら3人が別れた後だ。ミリワは地位を持つ町長なら、何らかの悩みを抱えているだろうと推測した。街の悩みを引きずる町長に会うため、ミリワはまず町長を探したらしい。


「会えたんですよ、すぐそこで」


町長は路上で悩んでいたらしい。ミリワは接触し、街の悩みについて聞き出した。


「その悩みは一馬とは関係無かったっす。でもその悩みは街の命運を分けるほどだそうで・・」


「もしかして・・・毒トカゲか!?」


「そうっす!よく知ってたっすね」


俺の推測、嫌な予感は的中した。やはり毒トカゲについては町長もわかっていたのか。


「町長はその対応のため、騎士団に依頼したそうっす。でもその騎士団は・・」


「・・・どこだ?」


「わかりません。ただ不穏な動きが目立って、町長は心配していたらしいっす」


騎士団にだって種類はある。中には騎士団に扮し、その悪行を隠す輩もいる。雇われた騎士団がそれなら、達の悪い詐欺でしかない。


「ホッとけないな・・・調べる必要がある」


「大丈夫っす!雇われて来ました!」


「おぉ!やるじゃねぇか!」


俺らが毒トカゲ対策に協力出来るなら、その件について調べられる。何より、俺は悪徳な騎士団が大嫌いなのだ。王竜時代から奴等をぶっ潰したくて仕方がなかった。


団から派遣された騎士と町長は、近くの酒場に集まっているらしい。ミリワは俺らを探しに来て、こうして見つけ出したとさ。


そうと決まれば。俺らは酒場へ駆け、そして辿り着いた。


酒場の扉を開くとキツい酒の匂いが漂ってくる。昼間だからか客はまるでいないが、奥の席に3人ほど居座っていた。


その中の一人、小太りな男がこちらを手招いてくる。


「初めまして。私はゼホスの町長、サーキンです」


何処か嫌らしく見える笑い顔を直接見ない様にして、俺とサーキンは握手をする。


後ろにいた男2人も立ち上がり、こちらに向かってくる。


長身の男は頭にバンダナを巻き、背中には長刀を背負っている。


もう1人の男は金髪の髪が目立ち、こちらは腰に剣を携えている。


「こんにちは、旅の方々」


金髪野郎が手を差し伸べ、俺はその手を握った。掌のマメが潰れている。実力はあるみたいだな。


「俺は――」


「おおっと。お互いの素性は隠して貰うよ。こっちとそっちは仕事が違うからね」


・・・なるほどな、あっちにとって、俺らは邪魔者か。


ミリワはナイスな事に、俺の素性を元々隠している。これなら相手も警戒心を抱かないはずだ。


町長が俺らの間に立ち、こほんと咳払いをした。


「旅の方々が来る前に、私達である程度の事は決めていました。調べによると今夜。毒トカゲが巣穴に戻り、行動を始めます」


「・・・で、夜の7時にお互いは行動を開始。君達は壁近くで見張りをしておいてくれたまえ」


・・・・・・これはこれは、雑用を押し付けてくれまして。


「俺らは毒トカゲの討伐に行くからよ!」


バンダナうっせぇ。距離を考えて喋れ。


「じゃあ解散しよう。多分君達の出番は無いと思うけど・・・ま、精々頑張ってね~」


金髪野郎が俺を避け、扉から出ていく。それにバンダナも付いていくが、奴の足はすぐさま止まった。


「・・・ねぇ、俺らの宿に来ない?」


狙いはコナだ。コナに詰め寄り、バンダナは必死で誘い出そうとしている。


コナはナンパ恐怖症により、必死で俺の背後へ隠れた。それにより、俺はバンダナと対峙する羽目になった。


「・・・・・・ハッ」


バンダナは鼻で笑い、店から出ていった。後から俺とミリワを殺してコナを奪うつもりなのかもしれないな。


俺はコナの安否が気になり、振り返って身震いをした。魔力漏れとは違う。コナの身体から魔力が発散され、今にも魔術が発動される状態だ。


「おい、コナ。それはお前の仕事じゃないぜ」


コナを宥め、町長に向き合って話を持ち掛ける。


「あんたが心配する理由もわかる。奴等の衣服はバラバラ、おまけにあの態度だもんな」


普通は騎士団服は一定となり、それが何よりの騎士証明となる。あれじゃ正式な騎士団だったとしても、違反行為になる。


「先程の計画も無理矢理決められました・・・どうか、気を悪くしないで下さい・・」


町長は怯え、助けて貰う立場として逆らえなかった。


「最終的な勝者はこっちなんでね。負け犬に意気がらせているだけさ」


ミリワは笑い、口を手で抑える。俺の実力を少なからずわかっているから、こんな態度は当たり前にとれる。


サーキン町長に別れを告げ、俺らも宿に戻る。奴等とは別の宿なのは幸いで、夜の7時までは待機となる。


「ミリワ、もしもの場合は片方を倒せよ。もう一人は俺がやるから」


「え、真馬さんなら2人とも行けるんじゃ?」


「馬鹿言うな。本来なら手も出さないんだぞ」


ミリワを強くするのに絶対的必要なのは、時間でも効率でもない。ミリワ自身の覚悟だ。


ミリワの実力は、ある程度の騎士なら相手に出来る。王竜を目指したミリワにとって、奴等ぐらいは簡単に倒して欲しい。


「・・・ミリワ、お前には武器が無いよな?」


「え、持ってませんけど・・・」


この街で武器を購入するのは無駄だ。長い期間使えるのが好ましい。


「真馬さんは武器を持ってないんですか?」


コナが俺の全身を眺めながら聞いてくる。確かに俺の全身に武器は無く、今戦闘になったら対処出来る格好ではない。


「持ってたけどな。王竜に返した」


元々俺の武器は団長に渡された物。長年愛用していたが、クビになるのなら返すべき物だった。


さて、問題のミリワだが。こいつの適性武器は片手剣。ノーマルな武器だから選び方が重要になるんだが・・。


「片手剣は俺も持ってないんだよな・・」


「持ってましたよ、あの金髪の人」


コナの言葉に、俺とミリワは耳を疑った。


コナの言葉を解釈すると、奪うつもりなのかしら?


「じっ、実は僕持ってるんすよ!」


ミリワは慌てながらも流れを逸らす。これは俺も協力すべきだ。


「お前速く言えよぉー!どんなのだよー!」


「部屋にあるっすよー!帰るっすよー!」


不自然な会話をしながら早歩きすること約6分。宿に停められた車に乗車した。


俺とコナがリビングで待っていると、ミリワは剣を担いで部屋に入ってきた。それを机に置き、俺の評価を待つ。


試しに持ってみる。標準よりも軽いが、特に問題はない。装飾に拘りも無く、そのおかげで脆い部分も無い。誰かが使った跡があるが、手入れも行き届いているため、充分に使える。


注目すべきは刀身の部分だ。悪魔の羽が彫られていて、その迫力は剣の気高さを魅せていた。


「・・・[デーモンソード]」


デーモン、悪魔の意味を持つ単語に2人が反応する。俺は剣から手を離し、掌を払った。


「ミリワ、こいつを何処で?」


「僕の父ちゃんが持っていました。真馬さんの家に置いといた甲冑を覚えてるっすか?あれに収めてあったんすよ」


ミリワが荷物と一緒に持ってきた甲冑、あれは思ったより重要品だったのか?ミリワの父親は確か外国に出張しているらしいが、どんな経緯で手にいれたんだよ。


「真馬さん、これは凄い剣なんですか?」


コナが興味深そうに剣を眺める。俺はコナと剣の間を腕で遮り、触れる事を注意した。


「大昔、亡くなる悪魔の生体エネルギーを、物質に封じ込める計画が魔界にあった。禁術だから直ぐに計画は中止になったが、悪魔を封じ込めた物質を破壊する事は出来なかった」


「じゃあこの剣に・・」


ミリワもコナも、剣から距離を置く。ミリワは剣を持っていた手を衣服で拭っていた。


「何が恐ろしいかと言うとな。持ち主が死んだ時、悪魔が身体を奪う事だ」


これは魔界でも問題になった。死者の意思が世に残るのは危険だと言われていたらしい。奴等の風習はわからん事が多いのだ。


悪魔が封じ込められた物質は数少なく、それには全て[デーモン]の名が付けられている。それは警告の意味があり、間違っても手に取るなという意味だ。


「もしかして・・その持ち主って・・」


「いや・・お前の父親かもしれない」


俺には言えなかった。確証も無いし、あっても絶対に言えない。


「じゃあ・・僕、これを使います」


「・・・ミリワ、許すと思うか?」


特殊なルールがある。持ち主を選ぶのは剣であり、他人が使っても影響はない。父親が持ち主なら、ミリワが使っても問題はないのだ。


「お前が強くなりたいのはわかるし、俺もお前を強くしたい。だけど、間違ったやり方で強くさせると思うのかよ?」


「大丈夫っすよ。父ちゃんは持ち主だったから使わない様に甲冑に収めてたんすよ」


ミリワの言い分にも可能性はある。不自然もなく、筋も通っている。


だが、こんな簡単に通せるものなのか?


「ミリワ・・・強くなりたいのか?」


「はい。どこまでも」


決意を固めたミリワの言葉は、これ以上なく残酷だった。


「わかった。お前はそいつを使え」


だから俺は半ば投げ出した様に答えた。俺の勘が外れる事を祈り、俺はミリワに懇願した。


「こいつだけは守ってくれ、剣の力に頼るな」


「・・・はい」


ミリワは理解したのか、剣を持ってリビングから出ていった。


残された俺は椅子にもたれ、腕で目元を覆った。


「良かったんですか?」


コナが心配そうな表情でミリワの席を見つめている。


「私にだって悪魔の恐ろしさはわかります。ミリワ君を・・信じての行為ですか?」


「・・・あいつは強さに執着している。それは悪魔に対抗できる手段であり、裏目に出る事もある」


欲に執着する。それは悪魔に狙われやすい人間の共通点だ。逆に、ミリワが自分の強さを知れるなら、悪魔に負けない意味を持つ。


「コナ、ミリワが危険だと思ったら魔術で対応してくれ。頼めるか?」


恐らく俺とミリワは別行動になる。まだ奴等が敵だと断定も出来ないが、もしそうなら間違いなく別れてしまう。


コナもそれを悟り、頷いてくれた。


「・・・・・・真馬さん」


この雰囲気を俺は覚えている。俺が一馬を侮辱し、コナがそれに怒りを見せた時だ。あの時の様に魔力漏れは起きていないが、彼女が放つ気配は同じ。


「ミリワ君は何故あそこまで力を求めるんですか?」


俺は良い機会だと思い、コナに打ち明けた。いつまでも隠せる事でも無いし、隠す事で間違いがあれば困るからだ。


「ミリワが駄騎士って話したよな」


「はい、覚えてます」


騎士団学校を卒業しながら、何処にも入団しない騎士を、差別として駄騎士と呼ばれている。以前ミリワは駄騎士と呼ばれている事をコナに説明し、ミリワが王竜に入団出来なかった事も伝えた。


「ミリワが・・・王竜に入団出来なかったのは・・」


コナは多分、実力不足だと決めつけていたのだろう。それでミリワが落ち込み、何処の騎士団にも入らず駄騎士となった。こんな過去があったと、彼女は思い込んでいるはずだ。


・・・それはまるで違う。


「あいつは魔術を剥奪されているからだ」


それを聞き、コナは目を見開いた。彼女も知っているからだ。


魔術は応用であり、使えるかどうかで戦術は大きく変わる。実際に王竜の騎士は最低限の魔術を扱い、他の騎士と差を付けていた。


それはつまり、王竜には最低限の魔術は必要ということだ。


「ちょっと待ってくださいっ。剥奪って・・魔術を奪われたって・・誰にですか!?」


コナの声は荒げ、俺に詰め寄ってくる。コナにとって、ミリワの夢が無くなった理由を知りたいのだろう。


「ミリワは騎士団の事を知りたがり、父親と核円都市に行ったんだ」


核円都市は世界でもかなりの規模を持つ街。そこは情報、能力、何より最新のシステムなど色んな物が集まる場所だ。ミリワもその都市で勉強し、その目で沢山の物を見るはずだった。


「事件は空港で起こった。夜剣騎士団という犯罪者グループが、核円都市を襲った」


コナも夜剣騎士団は知っているはずだ。今では自分らで犯罪者グループを名乗り、その悪行は報道もされている。


夜剣騎士団は最悪ながら、実力者が多い。しかも禁術を使って来る奴もいるため、油断は出来ない。


「ミリワは事件に巻き込まれ、禁術を受けた」


「・・・禁術を」


「あぁ、ミリワは魔術を使えなくなっている」


コナの目が潤んで、今にも涙が零れそうだ。


俺自身話すのも辛くなってきた。だけど後には退けないし、元から全てを話すつもりであった。俺も感情を抑え、堪えながら話を続けた。


「今でもミリワは魔力を持っている。才能以上にあいつは魔力量があった。だけど、使う事も出来なくなった」


「そんな・・」


そのせいで王竜入団は夢にもならなくなった。完全な不可能として、ミリワの夢を残酷に引き裂いた。


その後のミリワについて、俺は知らない。一馬も知らなかったらしいし、誰かと会うことを拒絶していたのだろう。


しばらくして、ミリワが騎士団学校を辞めたと聞いた。


「学校を辞めたあいつは生き方を探していた。何かを求め、ミリワは強くなりたかっんだよ」


「・・・だから真馬さんはミリワ君を」


「それだけじゃない。世間はミリワを駄騎士と呼び、冷たく扱った」


とうとう、コナが涙を溢した。俺も憎しみと怒りが沸き上がり、悲しむ所ではなかった。


「俺がミリワを強くしたいという気持ちは・・復讐心に近い。例え報われなくても、ミリワは強くなるし、何より強い。それを証明してやりたいんだ」


時間が掛かってもいい。魔術の足りない部分を俺が補う。ミリワが努力すれば・・叶うはずだ。


「俺は王竜という立場上、ミリワに話して貰ってない。これは一馬に聞き、俺はミリワに秘密にするつもりだ」


「・・・わかりました。私も言いません」


物分かりがいいコナは頷き、席を立った。部屋の壁に掛けられた時計を眺め、そして部屋から出ていった。


話す必要があったとはいえ、コナには悪い事をした。これから仕事があるというのに、こんな事を話すべきだったのか。


現在はまだ3時。時間まで4時間もある。


このままだと俺まで考え更けてしまいそうだ。俺はソファに移動し、そっと目を瞑った。

























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