001 プロローグ1
はじめまして。マイペース更新ですがよろしくお願いします。
私は歓喜していた。
喜びの感情が心臓から溢れ出し、震えとなって頭の先からつま先まで駆け巡る。
ぶるぶると揺らした身体を丸めるようにしてしゃがみ込み、感情を爆発させるように飛び跳ねた。
「自由だあああああああああああ!!!!!」
歓呼の叫びはどこまでも広がる青空を突き抜けて飛んでいく。
目の前に広がる草原が風に吹かれて大きく波打った。
なんて晴れやかな気分なんだろう! ようやく! ようやく一歩が踏み出せるんだ!
私の――魔術師への道の一歩が!
私、ヴィオレッタは転生者だ。
前世はどこにでもいる女子高生で、16歳のある日テンプレ通りトラックに轢かれて生涯を終え、これまたテンプレ通り神様とやらに剣と魔法のロマン溢れる世界に転生させられた。
ファンタジー世界に憧れていた私はそりゃもう喜んだ。小躍りした。
魔法を使うのが夢だったのだ。
好きな漫画やアニメに出てくる呪文はそらで言えるし、オリジナル呪文だって考えてたし、魔術関係の本を集めるのも趣味だった。あまりにものめり込み過ぎて家族を泣かしたこともある。今思い返しても死にたくなるな……まあ、死んだんだけど。
とにかく、何かの奇跡でファンタジーワールドに転生するようなことがあれば、何よりもまず魔法を使おうと決めていた。
浮かれていた。でも現実は厳しかった。ファンタジーなのに厳しかった。
まず、赤子になったと思ったら森の中だった。
しかも凶悪な魔物がひしめく第一級危険地帯だった。
そんな状況だと、意識があり前世の記憶を持つハイパーベビーでも赤子な時点でどうしようもない。バブバブ叫んで助けを求めるのが精いっぱい。首も座ってないのでハイハイもできやしない。
最初から魔法が使えるようなチート能力があればよかったんだけど、転生の際にチート特典はなかった。ちくせう。神様仕事してくれ。
魔物の群れに囲われつつあって転生直後なのに死を覚悟した私。
そんな時、森の中から超絶美女が現れた。
美しい黒髪を翻し悠然と歩んでくる彼女を、私は天使だと思った。登場した際に魔物たちを拳ひとつで血祭りにあげていたが、脳の処理が追い付きそうになかったので全力で見なかったことにした。
ひとまず命が助かったことに安堵した私は「このままこのお姉さまに育てられるのかな? 超キレイだしどこかの貴族様かも! 貴族の養子で魔法の英才教育とか受けられるかも!」とか呑気なことを考えていた。拳のみで魔物を血の海に沈める女がそんなわけないだろ。
女性は私を抱えて森の中へと引き返した。
嘘やろ……。
絶望しかけた私は、それでも森を突っ切った先に町があるのかもしれないと希望を捨てずにいた。
森の奥は山に続いていて、さらに凶暴な魔物がうじゃうじゃしていた。希望は捨てた。
私を抱えた美女はワンパンで魔物を肉片に変えながらドンドン山を登っていった。
もしかして私この人(?)に食われるんじゃあ……と戦々恐々してたら女性が私にしゃべりかけてきた。
「××××××?」
言葉がわからなかった。そりゃそうだ、異世界だもんね。
もう一度言っておくとチート特典はもらってない。もちろん翻訳機能も。なんでや。
でも、そのときの彼女はとても優しい笑みを浮かべており、スプラッタのあまり内心ドン引きしていた顔面真っ青な私をあやす様に喋りかけていたのだ。
その微笑みに、私は安心したんだ。
優し気な声色で私に喋りかけながら歩き続ける彼女だったが(その間も魔物は屠られ続けていた)、山の中腹辺りにある小屋の前で歩みを止めた。
そこは彼女の住処であり、同時に私が12歳になるまで住んでいた場所でもある。
そう、ここから私の二度目の人生が始まったのだ。
――地獄のはじまりである。