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プロローグ
プロローグ
『それ』は、ひどく飢えていた。
『それ』は同族の標準的なサイズを、遙かに凌駕していたが、成長は止まる気配さえなく、手当たり次第に食べる物全てを、自らの肉体に換えていた。
『それ』はオウムの様な、鋭く強固な嘴を持っている上に、強力な毒を使う事が出来たので、巨大に成長した今では、『それ』の住む世界に於いて、事実上無敵であった。
『それ』は、体色や体表や体型を自在に変化させ、獲物の目を欺く事が可能だった。
温かさを好む『それ』にとって、冬は厳しい季節であった。
同族は尽く死滅したが、巨大化した『それ』は冬を生き延び、経験を積み知恵を蓄えた。
同族ならば、子孫を宿す季節が来ても、『それ』は未だ未成熟である事を運命付けられているのか、ただただ成長を続けた。
しかし、ついに『それ』にも転機が訪れた。
『それ』は慎重に移動を始めた。
『それ』を呼ぶ声を目指して。
故郷の方へ。