EP:1 調子が変です。
「お姉ちゃーん、起きなさーい!」
お姉ちゃんは寝起きが悪い。
ほっとくとお昼まで寝てることもある。
今日もなかなか起きない。
土曜日の午前十時。
今日はアーケードゲームの大会に行くって言ってたのに……受付終わっちゃう。
お姉ちゃん、今日の大会楽しみにしてたのに。
「うー、まだ眠いー……」
「大会二時からだよ?早く行かないと……」
大会会場まで一時間はかかる。
お昼食べたり練習する時間も考えたら、十一時には出ないといけない。
「わかった……今何時?」
「もうすぐ十時半だよ」
十分ほど盛った。こうでもしないと起きてくれそうにないから。
「わかった……美里も薫も十分で支度してて」
お姉ちゃんの支度に十分かかるのね……
「わかった。薫ー!準備しなさーい!」
「はーい!」
そこから一時間。
大会会場のゲームセンターに着いたのは、正午。
お姉ちゃん、真剣な顔してる。
音楽にあわせてボタンを叩く、いわゆる“音ゲー”の大会。どれだけ正確に叩けたかで競う……らしい。
わたしは大会に参加しないけど……
やはり大会の参加者なのか、凄腕のプレイヤーさんたちが数人いる。
お姉ちゃんと薫はエントリーして、お昼ご飯に外に出ていた。
もうそろそろ戻ってくるかな……
大会は二曲制。
台が二台あるから、二人同時にプレイする。
今回の参加者は八人。
くじ引きの結果、一曲目はお姉ちゃんは三回目、薫は最後のペアに。
一曲目はポップなラブソング。
今二回目のペアを見てる。
やっぱりすごい……捌きにくそうな連打もノーミスで捌いてる。
次はお姉ちゃんの番だ。音ゲーよくやってるお姉ちゃんならあれくらい余裕だろう。
……
……?
お姉ちゃんミス連発!?
えっ、これ、お姉ちゃん大丈夫なの!?
ミス連発の遅れを取り戻せず曲終了。
まさか昨日のことをまだ引きずってる!?
お姉ちゃん涙目。
薫のペアが始まった。
……薫はもとから下手くそなの?お姉ちゃんよりひどい。
結果、お姉ちゃんは下から二番目、薫は最下位だった。
って大丈夫なの!?次フルコンボ取っても優勝できるのかギリギリだよ!?
二曲目は順位が下の人から順番。
つまり、お姉ちゃんと薫が一番最初!
二曲目の曲はダンスミュージックっぽい。
大丈夫かな……
……全然大丈夫じゃない!
二人とも連打でつまずいてる!
ダメじゃん!
これ、お姉ちゃんいつもの調子出てないよね!?これが実力じゃないでしょ!?
そしてそのまま、終わった。
結局、お姉ちゃんと薫が下位独走していた。
帰り、薫が手洗いに行ってる間に聞いてみた。
「お姉ちゃん、大丈夫なの?わたしでもしないミスしてたけど……」
「……正直言って、まだ本調子には戻ってない。フラれるのって、精神的にくるからさ」
「……」
「フラれるってわかってる相手だったから、仕方ないけどね。心配させてごめんよ」
……お姉ちゃん、どんな相手を好きになったんだろう。
決して器量が悪いわけじゃない。スレンダーな体型に憧れる人も多いんだろう。
少し頭が弱い(というより、変わってる?)からか馬鹿っぽく見えるけど……
まさかそのせいでフラれた?
なんて、聞けるわけもなく。
薫が手洗いから出てくるのを待って、帰路についた。
大丈夫、明日にはきっと本調子に戻ってるって心に言い聞かせながら。