キモバカップルとそれに巻き込まれる平凡(モブ)
BLではないですが、ちょっとそういう表現になってしまうところがあります。
不快に思われる方がいらしたら申し訳ありません。
「ああ、いつまでも君とこうしていたい」
う。
ゾワッ。
「そんなの無理だよぉ~。もうすぐ予鈴が鳴っちゃうもん~~」
うひ~。
ゾワゾワッ。
「そうだな。じゃあ笑顔で見送ってほしい、一香ちゃん」
「いいよ。いってらっしゃ~い」
ああ、もう無理!
目の前で繰り広げられる毎日おなじみとなりつつある光景に鳥肌がたつ。
一言一言言われるたびに、だんだん鳥肌の出る範囲が増えている気がするのはおそらく気のせいではない。
今日は腕と首と足。
本物の鳥さんもびっくりなほど、見事な鳥肌。これは1時間目の授業が始まるまで治まらないだろう。
腕を擦りつつ、その光景を見ていた。いや、見ざるを得ないのだ。
時刻は8時10分。
ちらほらと登校する生徒たちが通り過ぎていく校門でそれは毎朝起こる。
まぁ、何だ。一言で言えばバカップルの朝の別れだ。
名残惜しそうに男は女に見つめあったまま話しかける。
女はそんな男を愛おしそうに見つめ、笑顔で見送る。
これだけなら普通のバカップルだ。まあちょっとウザいが微笑ましいと思える。
しかしここに問題が1つ。
なぜか女はいつも平凡顔の女子の腕に自分の腕をからめているのだ。相手の男ではなく。
たまに手を恋人つなぎしていることもあるが、それも平凡顔の女子とだ。相手の男と接触している姿は見られない。
男が触れようとすると避ける。
でも見つめ合う視線は恋人のそれだ。
美男美女のカップルだったから、最初のころは野次馬も多かった。特に平凡顔の女は一体何者だという興味が。
最近じゃその数も減った。
毎日毎日同じことを見せつけられてもねぇ。
私も素通りして教室にむかいたい。正直バカップルの朝の別れになんて興味もない。
悲しいことに美女に腕をつかまれている平凡顔の女が私なので、それができない。
私を無視して繰り広げられる光景に鳥肌がいつも出ます。
朝から私のライフゲージを瀕死に持っていかないでください。
私の顔色、今大丈夫ですか。砂とか吐きそうです……(汗)
どうも。初めまして。私バカップルに絶賛巻き込まれ中の平凡顔女子高生、山下二湖です。
奥二重の目の大きさはふつう、小鼻でちょっと下唇がぽってりしている。
パーツ自体は悪くないのに全部がそろうとなんだか普通ね。と言われること早16年。
自分が美形でないのは物心ついたときから知っています。
頭はちょっとだけ賢くて、運動能力平均。部活動には所属していなくて、HR委員をやっています。
バカップルの男は私の通う高校の生徒会長。ノンフレームの眼鏡がよく似合う理系男子。
オタク系なら良かったが、残念なことにイケメンだ。切れ長の瞳、スッと整った鼻筋、薄い唇。
クールビューティーとクラスメイトが騒いでいるのを聞いたことがあるけど、クールビューティーなら自分のこと格好良いなんて意識しないんじゃないの?って言いたい。
彼はこの高校始まって以来の天才と言われるほど、賢い。テストの結果は常に学年トップ。そしてスポーツ万能。容姿はさっき述べたから省略。
女子が涎出すくらいの好物件である。
そして彼もそれを理解しており、鼻にかけている。誤植ではない。鼻にかけているのだ。ここ、鼻にかけないが正しいよね。
『女は俺に寄って来る者だ』と言っていたときはマジこいつ頭沸いてんじゃないのって思った。
あれですか。馬鹿と天才は紙一重ってやつですか。頭脳指数は高くても人間偏差値は低いと思いますよ。
大体さ、本当に賢いならうちの高校(偏差値50後半から60前半。そこそこ賢い)より上狙えたんじゃないの?
あえて、うちの高校へ来たってことは確信犯でしょ。モテるための。
あーやだやだ。本当いや。こんな奴が生徒会長、生徒の模範ってため息出るよ。上に立つものだからって上から目線が許されるわけじゃないよ。
私はこの生徒会長が大嫌いだ。
彼女が自分が触れるのを嫌がって、私に腕を絡ませているのを見せつけられているからライバル視されて意地悪とか嫌味とか言われるけど、私もこいつが大っ嫌いなので逆相思相愛だよね。
お相手は学年は同じだけど、隣の高校へ通っているため、校門前で別れなければいけない。
うちの高校と姉妹校でもあるこの高校、実は県下一の進学校。偏差値は70超えている。
この人はその高校でも上位の成績。最高学府への進学も夢じゃないほど。
会長の賢いレベルってこの人以下じゃないの。
制服がない高校であるため、Tシャツにジーパンとラフな格好をしている。でもこういうラフな格好こそスタイルが良くないと着こなせない。
生徒会長の気持ち悪い発言(思い出すだけで鳥肌出るんですけど)にも笑顔で対応している。
こんな唯我独尊野郎と付き合うなんて物好きなのか。女神なのか。はたまた聖女なのか。まぁ、どれも違うかな。
笑顔で生徒会長に手を振って見送ったあと、舌打ちが聞こえた。
「本当気持ち悪いな、あいつ」
さきほどの高い声ではない、低くてハスキーな声。これがこの方の地声だ。
あいつこと、生徒会長が校門へ消えていくのをみて、ぼそりと呟いた声の主に言いたい。
それはあなたもだよ。一香ちゃん。
生徒会長の恋のお相手である一香ちゃんは、本名山下 一香。私の兄である。
姉ではない。
正真正銘の兄である。
名前もさることながら、見た目も華奢で童顔で女顔で確かに女に見えなくはない。むしろパッと見は女である。それも10人が10人美人と答えるくらいの美形な女顔だ。
アーモンド形の瞳に三日月のような弧を描いた唇。ちょっと長めのショートカットの黒髪はサラサラだ。
同じ親から生まれたのに、何で一香ちゃんは美形で私は平凡なのだろう。
いくら女みたいに見える一香ちゃんでも話せば声は低いし、手は骨ばっている。服を脱げば引き締まった肉体をお持ちである。
女なんて言えば、陰でボコボコにされるって聞いたことがある。
私は一香ちゃんのこと、女の子だと思ったことはないのでボコボコにされたことはないけれど。(むしろ幼稚園まで一緒にお風呂に入っていて自分と違うとわかっているのに女の子と思うほうがおかしい。)
「あーあんな奴に愛想振りまくとかきついな。ニコ、笑ってお兄ちゃん大好きって言って」
一香ちゃんはさっきまで会長に見せていた笑顔ではない爽やかなスマイルで私に言う。
あの笑顔は営業用らしい。よくよく見ていると目が笑っていないのだ。
スマイルの眩しさで流されそうになるが、今言いましたことはちょっと流せそうにないですけど。
「…………」
黙っていれば、子犬のような目で見てくる。視線がつきささる。
罪悪感とともに、腕に巻きついた一香ちゃんの腕がかなり力強くなる。
「……イチカチャン、ダイスキ」
「ああ、ニコ!やっぱりお前が一番だよ!!」
かなり棒読みだったにも関わらず、一香ちゃんは口元を緩ませ嬉しそうに微笑うと私を抱きしめた。
ここ、校門前なんですけど。
両高校に通う生徒たちに見られるんですけど!
はたから見たら、女同士で抱き合っているように見えるからやめて。
私が生徒会長の彼女を奪ったみたいに言われ、レズの疑いをかけられ、彼氏ができるのが遠ざかるからやめて!
ここで捕捉をしておくと一香ちゃんは男色家ではない。ノーマルの健全な男子高校生だ。
そして度を越えたシスコンである。
平凡顔の妹のどこが良いのかさっぱりだが、朝の登校は一香ちゃんと一緒。手をつながされる。つながないと腕を絡められ、逃げられないように捕獲される。
本当は同じ高校に進学してほしかったのだが、私の学力では無理だったため、百歩譲って隣の高校への進学で許された。
隣といえども高校は別なのでひどく安堵した。
小学校・中学校は休み時間になると一香ちゃんが現れ、休み時間が終わるまで片時も離れないのだ。
ずっと私の髪をなでたり、手を握ったりしてくる。
恋人でもやらないようないちゃつきをするのだ。
何でそこまで構うのかわからない。4つ下の妹、三那にはそんなこと全くしない。むしろ口すら利かないのに。
平凡顔の妹を哀れに思って大切に扱ってくれているのか。だとしたら嬉しいけれど、「好きだよ」とか言わないよね。額にキスとかしないよね!!
高校生になって一緒にいられる時間が減ったからか、一香ちゃんは登下校でスキンシップを図る。
そして、私の服を勝手に着るようになった。
兄とサイズが対して変わらないのも悲しいが、私が着るより似合っているのが一番悲しい。
この間、お気に入りの薄黄色のストールを一香ちゃんが身に着けていたときは「一香ちゃん、私のもの勝手に身に着けないで!」と怒鳴ってしまった。
そのあと、「ニコのものを身に着けていたら、離れててもニコがそばにいるような気がするんだ」と笑顔で言われ、ドン引きした。
身内でも気持ち悪い。
いつか好きな人ができたときその人にストーカー行為に及ぶのではないと心配だ。
一香ちゃんは高校が離れた私が、自分の目が届かないところで悪い虫に捕まるのをひどく心配していた。
こんな平凡顔に執着するような人は兄弟以外いないと思うんだけど。
そこに一香ちゃんを女だと勘違いした生徒会長が現れたから、駒にされちゃうよね。
『あなたが好きです。付き合ってください!』
『付き合ってもいいけど、条件があるの。ニコに悪い虫がつかないように見張ってもらえるかしら?』
男だと伏せ、条件をつき付け付き合うに至ったのだ。
男と付き合ってでも私の恋路は邪魔するんですね(涙)
男と付き合うことなんかしなくても私のような平凡顔は彼氏できませんから。安心していいのに。
生徒会長もこのときばかりは可哀想だと思ったけど、私のことをあからさまに見下してきやがるので、可哀想とも思わなくなった。
むしろ女を見る目がない(本当にない)残念な奴だと心の中で笑っている。
いつか本当のことにあのクソ生徒会長が気づいたとき、思いっきり笑ってやるのだ。
それがいつになるかはわからないけれど…………。
私の毎朝の憂鬱は当分続くのだろうなぁと思いつつ、一香ちゃんを振り切って校門へダッシュした。
読んでいただきありがとうございます。
書きたいと思っていたテーマで書いた話があまりにも面白くならなかったので、前に書いた話を載せてみました。
ちょっと息抜きです。