表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第七章

[七]


『だけどね・・・13歳になると・・・リューイはある決心をしたの・・・』

メリルは遠くを見つめると・・・


『人間は勝手なものね・・・幸せを願いながら・・・』



『結局は自分の幸せを優先させてしてしまう。。。。』



『そんなことに・・その時気づいたわ・・・』



静かにまた語り始めた・・・


13歳になって・・・

ある決意を

あの子の口から聞いたとき・・・・


私は・・・・

自分を抑えることができなくなってしまったの・・・・


それは・・・・


ジルとあの子と私で・・・・

海に行ったとき・・・・・


季節外れの海は

白く霞がかかってて・・・

幻想的で・・・


その海を見ながら

リューイは自分の想いを

語りだしたの・・・


『・・・・やりたいことが・・・あるんだ・・・・』


なんでも・・・

あの子の思い通りになることなら

なんでも・・・・

させてあげたいと

思ってたわ・・・・


『なんだい・・?』

ジルは穏やかに聞いたの・・・


『・・・・言ってもいいの・・・?』


『いいわよ・・・言ってみなさいな』

私もそう答えたわ・・・・


あの子

下唇を噛んで

空を見上げると・・・・


大きくひとつ・・・

息をして・・・・


『ヒュードックの選手になりたいんだ!』


力強くそう言ったの・・・・


あの子のやりたいようにさせるのが

あの子の幸せ・・・・


そうわかっていたのにね・・・・


心がいうことをきかないの・・・・・


ヒュードックといえば・・・

死に限りなく近い競技・・・・


そんな危険なものに参加させたくない・・・!


そんな感情より・・・


ただ・・・・


離れたくなかったのよね・・・


子離れができなかったの・・・・・


私は・・・


『絶対許しません!』

そればかりを繰り返していたわ・・・・・


それでも・・・・


あの子は

夢に向かって・・・

進むことをやめなかった・・・・


ヒュードックのレーサーになるためには

年一回・・・・

門下生になるための試験があるんだけど・・・

合格率は約1万分の1・・・・


受かるわけはないのに・・・


受かってしまった後の・・・・


あの子が墜落してゆく場面ばかり

頭に浮かんできてね・・・・・・


それから・・・

ほとんど

あの子と話をしない日々が続いたの・・・・


そんな時・・・

ジルに言われたの・・・


あの子がどうして・・・・

ヒュードックの選手になりたいのかを・・・・



『また・・・・泣いているのかい・・・?』

ベットで背を向けてる私に・・・・

ジルが声をかけてくれたの・・・


軽く・・・

振り向きもせず

頷くと・・・・・・


ジルはそのまま話し始めたわ・・・・


『あの子がなんで・・・ヒュードックの選手になりたいのか・・・気持ちがわかるかい・・・?』


私は黙っていたわ。。。。。


『あの子が言うには・・・・・』


“ジルとメリルのこと本当の親だと思ってるよ”


“でもね・・・僕、知りたいんだ!”


“僕がどこから来たのか知りたいんだ!”


“ヒュードックの選手になれば、どこの星にも行けるだろ?”


“星間通行許可証・・・あれがほしいんだ!”


『わかるかい・・・?メリル・・・リューイは・・自分のルーツを知りたいんだ・・・』


私は涙を拭いながら向き直ると・・・ジルに問いかけたの・・・・・

『ルーツ・・・?』


『リューイは・・・自分がこれからどこへ向かうのか知っている・・・でも、自分がどこから来たのか知らないんだ・・』


『・・・・・・・・・』


『自分を知らない・・・本当の自分を・・・』


『・・・・・・・・・』


『本当の自分がなんなのか・・・知ってる人間なんてそうはいないと思うんだがね・・・』


『・・・・・・・・・』


“ジル・・・僕は、僕のルーツを知らないんだ・・・”


“僕の出発点・・・・”


“だから・・・僕は見てみたいんだ・・・僕が始まった場所・・・”


“このままでは・・・僕は・・・何も・・・・始まれない・・・”


“僕はどうしてここにいるのか知りたいんだ・・・”


“生きている意味を知りたいんだ・・・”


           


          

          “生きていく・・意味を・・知りたいんだ・・!・”





『あの子は懸命に自分探しの旅に出ようとしているんだよ・・・』


『・・・・・・・・・・・』


『あの子の・・・幸せはなんだろうね・・・メリルならわかってるだろ・・・?』


私はわかっていた・・・

頭では・・・・

何が

あの子の

幸せなのか・・・・


あの子は

生きたいように

生きられない日々を

送っていた子。。。。。


そして・・・・


私は願ったわ・・・・


あの子が

思うがままに

生きられるように・・・・・


でも・・・・!


頭では理解していても

心がいうことをきかないの・・!


ジルは静かに・・・

『・・・・あの子は・・私たちが何を言っても・・・いつかは旅たつよ・・』


『・・・・・・・・・・』


『なら・・・・いつでも戻ってこられるように・・・優しく送り出すことが・・・私たちのできることなんじゃないのかい・・・?』


『・・・・・・・・・』


『いつか戻りたくなるような別れをすることだけが・・・今できることなのじゃないのかい・・・?』


そうは聞いても・・・

心を頭のほうに近づけるのは・・・

難しくて・・・



その間にも・・・・



あの子は・・・・・・・



どんどん・・・・・・・・・



私たちから・・・・・・・・・・・



離れて行ったわ・・・・・・・・・・・



信じられないことに

史上最年少の若さで

門下生に合格。。。。。


史上最速の訓練期間で・・・

ヒュードックのプロレーサーに

なってしまったの。。。。。。。


史上最年少・・・・

15歳での

デビュー戦・・・


見に行きたくなかったわ・・・


ただ・・・・

怖くて・・・・

見えていないのに

見えるの・・・・


あの子が

墜落していく姿が・・・

見えるの・・・・


でも・・・・


あの子は

この一戦で・・・・


私はおろか・・・・

すべての人の考えを

変えてしまったの・・・


あの子に対する・・・考え・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・


レースが始まって・・・

10分も経っていなかったわね・・・・

屋外観覧席に私とジルはいたんだけど・・・・


突然・・・


突風とともに・・・


視界が・・・

真っ白になって・・・・


よく目を凝らすと・・・

小さな砂が舞っていたの・・・・・


始め・・・砂嵐が通り過ぎているのかと

思ったわ・・・


動きたいけれど・・・・

周りが見えないから・・・・

どこにも

行けなくて・・・・


そのまま・・・

不安になりながら・・・

砂嵐がやむのを待っていると・・・・



アナウンスが入ったの。。。。。


[ただいま・・・連邦宇宙局から連絡が入りました・・・・この大量の砂は

・・今から5分ほど前に突如爆発した惑星ルーサーの欠片だそうです・・]


[視界は極めて悪く・・・・今回のレースは・・・中止の方向で・・今検討中です・・・もうしばらく・・お待ちください・・・]


真っ白な砂の世界・・・・


先ほどまで

見えていた

海も山も空も・・・・何も見えないの・・・・


あの子はどうなってるの・・・?

あの子は無事なの・・・?


繰り返し

繰り返し

墜落シーンが

頭によぎるの・・・・


卒倒しそうな私の肩を・・・・


ゆっくりと

抱えると・・・


ジルは

私を・・・・


屋内観覧席に連れて行ってくれたわ・・・・・


祈っていた・・・・

ただ

ひたすらに・・・・


あの子の

無事だけを・・・・


祈ってた・・・・・


泣きながら

祈ってたの・・・・・


ただ

ひたすらに・・・・・





             ・・・・・・・・祈ってたの・・・・・・・






その時・・・


チャイムが鳴ったの・・・・



明らかに

場違いな・・・

明るい音の・・・・






             ・・・・・・・・チャイム・・・・・・





思わず・・・

顔を上げて

スクリーンに目をやると・・・・・




あの子の機体が映っていたの・・・!


多くのレーサーが

リタイヤする中・・・・


あの子は飛んでいたの・・・!


             



           ・・・・ただ一人・・・飛んでいたの・・・・




諦めることなく・・・


あの子は

飛ぶことを

やめなかったの・・・・・・


ひたすら

飛んでいたの・・・・


飛ぶことを

まるで

楽しんでいるように・・・・


その後も・・・・

チェックポイントを

次々と

通過していくんだけど・・・・・


あの子・・・

どのチェックポイントでも

嬉しそうに笑ってるの・・・・


こんな視界の悪い宇宙を

嬉しそうに飛んでいるのよ・・・・!


なんだか

あの子の

そんな顔みたら・・・

泣きながら・・・・微笑んでたわ・・・・・



すべての人の目が

釘付けになっていたわ・・・・




何もない

白い

世界の中に・・・

突如

現れる・・・・







             ・・・・・赤い機体・・・!・・・・・







皆が言葉を失って・・・


ただ

見つめていたの・・・・


リタイヤ

墜落・・・・


普通に飛べるはずのない

真っ白い世界の中を・・・・


あの子だけは

悠々と・・・


チェックポイントを

過ぎていく・・・・


皆が

一心に

見つめていたわ・・・


この

奇跡のような

リューイの飛行を・・・・


幻を見ているような感覚を

持ちながら・・・・



そして・・・・・


悠然と・・・






           ・・・・・・・ゴール・・・・・・・・




屋内観覧席にいる

すべての人が・・・


その時・・・・


歓声を

あげたのを

覚えているわ・・・・・!


レースなんて

もう

関係なかった・・・・


ただ

飛び続ける

リューイの姿に・・・


皆・・・心奪われてしまったのね・・・・・



そして・・・・


その後・・・・

発表されたゴールタイムに

すべての人々が

驚いたわ・・・・


そのタイムは・・・・・


通常の

ヒュードックの試合・・・

それもトップクラスの優勝者が叩き出すタイムに

極めて近いものだったから・・・・・


そのデビュー戦の話は・・・・

瞬く間に

全宇宙に広がって・・・・


この一戦だけで

リューイの名は全宇宙に轟いてしまったのよ・・・・・



リューイは

そのデビュー戦以降・・・・・





     ・・・・・・・・・無敗・・・・・・・・・・




今では全宇宙の宇宙艇乗りの英雄になっている。。。。。




『あの子は・・・自分を縛り続けていた・・あの目のおかげで・・・・』


『・・・・・・・・・・・・・・』


『今・・・自由に宇宙を飛び回ることが出来ているの・・・・』


メリルは微笑みながら・・・・



『不思議ね・・・あの子の不幸の源だった目が・・・あの子の幸福を今・・・作り出してるのだから・・・』


そう言うと・・・・


『そうそう・・・今はわたし・・・ヒュードックのレーサ・リューイの一番のファンよ』


メリルはゆっくりと私に微笑みかけた・・・・



[八]へ続く・・・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ