第六章
『そんなことまでしなくてもいいのに・・・
いつもわるいわね・・・』
わたしは・・・・
お客さん扱いされるのは
どうも苦手で・・・・
自然と店の手伝いを
するようになっていた・・・
酒場での皿洗い・・・・
客室のベッドメーキング・・・
苦にはならなかった・・・
なにか・・・・
きっと
なにか・・・
人の役にたちたくて
仕方がなかったんだと思う・・・
誰かとの繋がりを
常に・・・・
求めていたんだと思う・・・・
部屋に一人でいる・・・・
それより・・・
こうやって
店の手伝いをしながら・・・・
誰かと・・・・
関わりあうことの方が・・・
私は嬉しかった・・・
だから・・・
その日も
洗ったばかりのコップを磨きながら・・・・
『一息つきましょうか・・・?』
にこやかにメリルが
冷たい飲み物と果物を盛った皿を
テーブルに用意すると
わたしに声をかけてくれた
わたしは
そのまま
メリルのほうへ・・・・
そして・・・腰掛ける
『綺麗・・・・・・』
見たことのない果物・・・
どんな味なんだろう・・?
メリルは微笑みながら・・・・
『これは、トゥーリーの名産なのよ。とっても美味しいから
食べてみなさいな』
ジルもゆっくりと席に着く・・・
『ほぉ・・・・もう、パンシャの季節なのか・・・』
嬉しそうに果物に手を伸ばす・・・
『パンシャ・・・・?』
私がそう言うと・・・・
『これのことよ。これは・・・1年のうち2ヶ月ほどしか
食べられないの』
メリルが私にパンシャをとってくれた・・・
一口・・・・
甘酸っぱさが
口の中に広がる・・・・
『パンシャの季節になると・・・あの子が来たときのことを・・やっぱり思い出しちゃうわね・・・』
メリルがパンシャを見つめながらふんわりと微笑む
『リューイはね・・・』
メリルが静かに語り始めた・・・・
リューイはね・・・
私たちの子供ではないの・・・
私たちは
子宝に恵まれなくてね・・・
このまま二人だけで
生きていくんだろうねって
よくジルと話していたものよ・・・
あの日の夜も・・・
やっぱり
パンシャをこんな風に
ジルと食べていてね・・・・
その時・・・
店に
転がり込むように
一人の男の子が・・・
突然・・・
入ってきたの・・・・
その男の子は・・・・
『・・・・・すいません・・・・』
そう呟くと
ひどく震えていてね・・・
怯えてるようなんだけど・・・
目だけ
強い感じがしてね・・・・
それが
すごく
印象的だったわ・・・・
とりあえず・・・
落ち着くように
席に座らせて
パンシャを・・・
『どうぞ・・・お食べなさい・・・』
って手渡したら・・・・
じっと
見つめたまま・・・
そのうち・・・
ぼろっと
大きな涙が一粒落ちて・・
『・・・・・美味しい・・・・』
そう呟きながら・・・
あの子は
泣きながら
食べていたわ・・・
小さな手で
涙を拭いながら・・・・
・・・泣きながら・・・・食べていたわ・・・・
何がこの子にあったのか
その時は
何も知らなかったの・・・
ただ・・・・
この子に
何かしてあげなくては・・・
ジルと私は
そればかり
その時
考えていたの・・・・
次の日・・・
この子の身に
何が起きていたのか
わかることになったんだけど・・・・
その時の
衝撃を
今も忘れられないわ・・・・
『失礼する!』
一人の男が・・・
店の中に入ってきたの・・・
どこまでも
冷たい・・・・
目をした・・・
・・・・・男・・・・・・
軍人か・・・
ハンターか・・・
なにか・・・・
血に飢えた獣のような感覚を
その男は
静けさの中に持っていて・・・・
『どうかしました・・・?』
私は自然と
身構えてしまったわ・・・・
『連邦保安局のものだが・・・幼い男の子がこの店に
昨日の夜・・入っていったのを見かけたものがいるのだが・・
知らないかね?』
威圧的なものの言い方をする人で・・・
私は・・・・
ゆっくりと・・・
あの子が
まだ
目を覚まさないことを願いながら・・・
『・・・知りません・・・・』
そう
答えたの・・・
『・・・・嘘の証言をすると後で、連邦保安会議にかけられることを・・知らないわけではないな・・?』
男は
すべてを
見抜いてるとでもいいたいように・・
私の顔を・・・
まじまじと・・・
覗き込んできて・・・
その時・・・!
驚いたわ・・・・・・・
このジルが
あの子の手を引いて
勢いよく
裏口から出て行ったの・・・!
普段
そんなことする人じゃないから・・・
驚いたわ・・・
でも・・・
外にも
保安局員がいて・・・・
あっさり
つかまってしまったんだけどね・・・・
嘘の証言をした・・ということと
あの子の逃走中の行動を知りたい・・・とのことで
そのまま私たちも
連邦保安局に連行されたの・・・
そこで・・・・
『どういうことですか?どうして嘘の証言を・・・』
男は静かに語りかけてきたわ
ジルと私は・・・・
応接間に通されていて・・・
先ほどの男とは別の・・・
威圧感のない穏やかそうな男が
私たちの前に座っていたの・・・・
『なにか・・・あの子は悪いことでもしたのですか・・?』
私は静かな口調でそう答えたわ
私の瞳をしばらく見つめると・・・
男は・・・・
目をそらして・・・
ひとつ息をついて・・・
『わかりました・・・・あの子のことを話しましょう・・・・』
そう言ったの。。。。。
『数年前に・・・この国の近海に未確認の飛行物体が 墜落した話は覚えていますか・・?』
ジルと私は
お互い顔を見合わせると
頷いたわ・・・・
『あの飛行物体に乗っていたのが・・・あの子です』
『・・・・・・・!・・・・・・』
『普通ならそのまま・・・・保護施設に移送されるのですがね・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・』
『あの子を保護した時・・・・皆が驚いたのです・・・あの子の目の色に・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・』
『今はカラーコンタクトをつけているので普通の子供と変わりませんが・・・見たときは驚きましたよ・・・』
『・・・・・・・・・・・・・』
『あんな目の色をした人間に・・・私たちは出会ったことが・・ありませんでしたからね・・・』
『・・・・・・・・・・・・・』
『これがあの子の本当の姿です・・・・・』
そう言って・・・・・
差し出された・・・・・
一枚の・・・
写真には・・・・・
燃えるような
赤い色・・・
血のような・・・・
深くて・・・
赤い目の色をした
あの子の姿が
映っていたの・・・・・
『人間は愚かなものです・・・・一人の幸福よりも・・・大多数の知的好奇心を埋めるために・・・』
『・・・・・・・・・・・』
『・・・今、彼は・・・・生かされているのですから・・・・・』
不思議ね・・・・
あの子の本当の姿を見ても
なにひとつ
怖いとは思わなかったわ・・・・・
ただ・・・・
涙が
溢れていたの・・・・
あの子のために・・・
涙をボロボロこぼして・・・・
パンシャを『美味しい・・』って
食べていた
あの子のために・・・
何かしてあげたくても
できない自分が
もどかしくてね・・・
涙が止まらなくなってしまったの。。。。。
それでも
懸命に
あの子のために
何かできないか・・・・
そればかり
考えていたら・・・・・
そしたら・・・・
『やはり・・・あなたがたに話してよかった・・!』
その言葉にパッと顔を上げると・・・・
男が優しく微笑んでいてね。。。。
『人間は誰一人・・誰かの意思どおりに生きるものではないと私は思っています・・・・』
力強い口調で・・・
『必ずあの子にも・・誰でもない・・あの子自身のための人生を生きられるように・・』
『私はあの子のために尽力していきたいと思っております・・・』
『・・・・・・・・・・』
『・・・・だから・・・・あの子が自分自身の力で歩き出したら・・・・・』
『・・・・・・・・・・』
『また会ってもらえないでしょうか・・・話をしてもらえないでしょうか・・・』
『・・ただ・・・心に触れさせてもらえないでしょうか・・・・』
私とジルは大きく頷いたわ
私は
また・・・・
涙がボロっと落ちてしまってね
こんな風に思ってくれている人が
保安局内部にもいてくれることが
嬉しくてね・・・・・
その日から
ずっと・・・
ジルとは・・・・
私たち
可笑しいのよ
あの子が
自分の子供になったわけでもないのに
あの子の話ばかりしてたの
あの子が来たら
あの部屋をあの子にあげよう
あそこの森に虫を取りにいこう
あの大樹の・・・あの花はもう見ごろだね・・・
あれを見に行こうか・・・
星祭りの季節だから・・・
タオルケットをもって
星降りの丘で夜通し星の話をしようか・・・
こんな美味しいもの
食べたことあるかな・・・・
メリルは料理がいっとう
うまいから
ここに来たらそれだけで
宇宙一幸せだろうな・・・・・
そんなことばかり
ジルも話していてね・・・・
それから・・・
約一年後・・・・
・・・・・願いは・・・届いたの・・!・・・・
あの子が
連邦保安局から解放されて・・・・・
あの日の・・・・
保安局員の男の人の後押しと・・・・
それと・・・・
あの子・・・
一度きりしか
会っていない
私たちのことを・・・
覚えていたの・・・!!!
私たちのところへ・・・来たい・・?
そう聞くと・・・
大きく頷いて・・・
『・・・また・・パンシャ・・・・・食べたい・・!・・』
って。。。
メリルは瞳に涙をためて満面の笑みを浮かべていた。。。。
[七]へ続く・・・・・