第五章
それから・・・
私たちは3ヶ月かけて
リューイの星・・・・
トゥールスに辿り着いた
青い星・・・
宇宙から見たトゥールスは
とても青くて・・・
その青さに
わたしは
豊かさを感じた・・・・・
深い緑と淡い緑が
いくつも折り重なりあうように
この星を包みながら・・・
青い海が
その木々を育む星・・・・
青は・・・海の青・・・
命を生む・・・水の青・・・・
その中心地の国・・・
トゥーリーに
私たちは
辿り着いた
トゥーリーは王政国家で
中心地に
真っ白な
城がそびえたち・・・
その白さを際立たせるように・・・・
緑が溢れている・・・・
町並み全体が城壁のように
白く・・・
目が眩むようで・・・・
そのたびに
青い空を
懐かしいような気持ちで
眺めたりした
ここに辿り着くまで
わたしは
色々なものを見た・・・・・・
星屑のさらさらと
落ちていく・・・・
宇宙の滝や
2つの太陽が
照らす・・・・
眠らない星・・・・
でも・・・・
一番やっぱり
印象に残っているのは・・・・
リューイのレース・・・・
リューイは
トゥールスに来るまでに
3つのレースに参加していた・・・・
ヒュードック・・・・
ヒュードックとは・・・
小型宇宙艇で行うレースのことなんだけど
その過酷さから
“死のレース”とも呼ばれている・・・・
各チェックポイントの承認を
すべて受け・・・・
一番早くゴールしたものが
勝利の栄光をつかむというもので・・・・
その間のルート選択は自由・・・
攻撃することも自由・・・・
ミサイルや
ビームでの攻撃
トラップ・・・・
なんでもあり・・・・
そのなかを・・・
リューイは・・・・
悠然と
勝ち続ける・・・!
リューイは・・・・
ミサイルやトラップでの
攻撃はしない・・・・
わたしは・・・・
『・・・攻撃した方が・・・いいんじゃないの・・?』
そう聞いたことがある・・・・
容赦のない攻撃をかいくぐり・・・
リューイが優勝した
その夜のこと・・・・
不安だった・・・
わかっていた・・・
リューイが
負けないことくらい・・・
・・・・・わかっていた・・・・・・
でも・・・・
不安だった・・・・
もし・・・
ミサイルの一つでも
積んでおけば・・・
飛んできた
回避できない
ミサイルを・・・
打ち落とすことくらい
できるから・・・・・
そう思う私に・・・
『俺は攻撃はしない・・・ミサイルやトラップも使わない・・』
リューイがさらりと答える・・・・・
『ただ・・・速く・・・誰よりも速く飛ぶだけ・・・』
『・・・・・・・』
『飛ぶことに全神経を集中させる・・・』
『・・・・・・・』
『・・・・飛ぶことのすべてが・・・俺の攻撃だから・・・!』
私に・・・何も・・・言わせない・・・強い・・・
・・・・・眼差し・・・・
このひとは
ちゃんと
見つめている・・・・
自分自身を・・・
見つめている・・・・・!
リューイが
信じている
リューイを・・・
私は・・・
信じよう・・・・・
ただ・・・
信じよう・・・・・
・・・・・信じよう・・・!・・・・・
それから・・・・
どこへ行っても・・・
リューイは
英雄のように・・・・・
ヒュードックは
今・・・
全宇宙で
熱狂的に行われている・・・
その無敗の王者のリューイは
どこの星へ行っても
英雄のように
もてはやされていた・・・・
でも・・・
本人は
そういうのは苦手らしくて・・・
『こういうところじゃないと・・・眠れないんだ・・・ごめんな・・』
いつも・・・
大会側が用意してくれている
最高級ランクのホテルから抜け出すと・・・
小さな宿屋へと
移ったりしていた・・・
レセプションやら
付き合いやら・・・
いろいろ細々としたことを
避けている・・・・
という意味も
あるのだろうけれど・・・
『ただ・・・飛びたいだけなんだ・・・!誰よりも速く・・!』
宇宙艇の話を始めると
リューイは瞳を輝かせる
栄光も
名誉も
地位も
財産も・・・
何もいらない・・・・
ただ・・・
飛び続けることのできる
場所が
欲しいだけ・・・・・
飛び続けられる
場所に
いたいだけ・・・・
リューイの
想いが伝わってくる・・・・
わたしは・・・・
リューイの話を
聞くうちに・・・・
リューイの・・・
ヒュードックに対する
想いが
少しずつ・・・・
伝わってきて・・・・・
まるで・・・・
リューイと
同じ気持ちで
宇宙を飛びまわってるような・・・・
そんな感覚で
レースを・・・・
いつしか・・・
リューイのレースを・・・・
見つめるようになっていた・・・!
海の上・・・・
街の中・・・・・
木々の間・・・・
角度を変え・・・進入・・!
スピードを変え・・・
少しずつ・・・上昇・・・・!
急降下・・・・
右へ大きく旋回・・・・・!
左へすぐ・・・切り返す・・!
加速・・・・減速・・・加速・・!!
リューイの・・・
リューイの・・・・・!
リズムが
伝わってくる・・・・!
リューイの
飛行感覚が・・・
眼に・・・
焼きつく・・!
ラインが・・・・見える・・・!!!!
『リューイ!行けぇぇぇぇッ・・・!』
心の声が
大きく・・・
溢れ出す・・・・!!!
リューイ
すごいよ・・・・!
リューイの
走りは・・・・
私の心に
いろんなものを
描き出させるの・・・・!
リューイ・・・
わたしに
こんな気持ちを
味合せてくれて・・・
ありがとう・・・
ありがとう・・・・・
・・・・・・ありがとう・・・・・・
わたしは
ヒュードックの試合に対する不安より・・・
リューイが・・・
宇宙を自由に
今・・・
飛びまわることができるという
喜びを
ただ
感じるようになっていた・・・
リューイが
描き出す
様々な
想いに
夢中になっていた・・・
ただ・・・
一つだけ・・・
リューイが
わからなくなる事が
あって・・・・
必ず
新しい星に着くと・・・
その日一日・・・
姿を消す・・・
『ごめんな・・・・ちょっと行って来るから・・・』
理由を
わたしは
あえて
聞かなかった・・・・・
ただ・・・
必ず・・・
悲しそうな顔をして
リューイは
戻ってきて・・・・
その
悲しそうな
瞳が・・・
気になって・・・・
わたしには
何かできないのだろうか・・・・・
そればかりを・・・・
考えるようになっていた・・・・
わたしが
何かする前に・・・
リューイは
いつものリューイに
戻ってて・・・・
『腹減ったな・・・・!なんか食いに行くか!』
と、ふんわり微笑んだりする。。。
言いたくないことは・・・
聞かないでおこう・・・
もし・・・
言いたくなったら・・・
その時は
いくらでも聞こう・・・・
そう・・思っていた・・・・
リューイの
悲しみの理由が
わかったのは・・・
トゥーリーに暮らし始めて
3ヵ月後のことだった。。。
『ここだ!着いたぞ!』
リューイとトゥーリーの街をしばらく歩くと
小さな宿屋の前に着いた・・・
ちいさな宿屋・・・一階は酒場で・・・
中に入ると・・・
酒の香りと・・にぎやかな声・・・
『・・・ただいま・・・!』
リューイが声をかけると・・・
店のなかのすべての人々と一斉に目が合う・・・
皆・・・・
優しく
温かな・・・・
・・・・・・瞳・・・・・・・
『こっちが・・・おやじで・・こっちがおふくろ!』
カウンター越しに
挨拶するのは
ふんわりと微笑を浮かべる
老夫婦・・・・
わたしは
お辞儀をすると・・・
『これで足りるかな・・・・?』
重そうな麻袋を・・・
リューイは二人に手渡した・・・・
『こいつ、ミリって言うんだ!俺がいない間ここに泊めてやってくれないかな・・?』
手渡された麻袋から・・・金属音がする・・
なかを開くと・・顔を見合わせて・・・
そして・・・・
袋を
リューイに・・・
つき返す・・・・・!
『こんなものは受け取れない・・!』
『・・・それじゃ・・・足りないのか・・・?』
『・・・いや・・これだけあれば・・・一生だってここに宿泊できるだろうよ・・』
『・・なら・・・!』
『リューイ・・お前は・・わしらの息子だ・・・血は繋がっていなくても・・間違いなくな・・・』
リューイは・・・
ひとつ息をつき・・・・・
にこやかな微笑みを浮かべ・・・
『じゃあ!やっぱり受け取ってもらわないとな!』
袋を手渡し・・・
『親子の間で遠慮は無用だ!』
ふんわりと微笑んだ
リューイは
私にも微笑みかけてくれて・・・
老夫婦はしばらく
麻袋を
見つめていた・・・・
そして・・・
顔を見合わせると・・・
『・・・・・じゃあ・・・遠慮なくいただくことにするよ・・・』
麻袋を握り締め・・・老夫婦は微笑んだ・・・
『私のことはジルと呼べばいい。。。こいつはメリルと呼びなさい・・お嬢さん』
穏やかな口調で語りかけられて・・・
『お嬢さんではなくて・・・ミリと呼んで下さい・・・!よろしくお願いします!』
わたしも微笑んだ
並々と酒の入ったジョッキを手に持ち
ふらふらとした足取りで
体格のいい男がリューイに近づくと・・・
『なんだ・・・・彼女連れて帰ってきたのかと思ったら・・こんなチビちゃん連れて帰ってきたのかい?お前ならそこら中の星に帰りを待ってる女がいると思うがな・・?』
笑いながらそう言った・・
その言葉が・・・
少し・・・
わたしの胸を
チクリとさせる・・・・・
『・・・さあな!・・・・』
リューイは
微笑みながら
さらりと答える・・・・
その夜は・・・・
楽しくて
楽しくて
仕方がなかった・・・
砕けた
飾り気のない
ざっくばらんな人々・・・
ありのままに
笑い
まっすぐに
瞳を
交わす・・・
わたしは・・・・
わたしは
昔から
この場所に・・・・
もしかしたら
ずっと
居たのかもしれない・・・・
そんな錯覚が起きるほど・・・
穏やかな気持ちで・・・
わたしは
この星が・・・
この星の人々が・・・・
その夜のうちに大好きになってしまった・・!
そして・・・・
それから
三ヵ月後・・・・
私は
ふとしたことから
リューイの過去を知ることになった・・・・・
[六]へ続く・・・・