第10章
穏やかな日の光が
部屋に差し込み始めていた
私たちは
結局
一睡もできず・・・
赤い
赤い・・・
目のまま・・・
メリルは私の髪を整えてくれている・・
ハサミの音・・・
朝を呼ぶ
鳥の声・・・・
生まれたばかりの日の光は
なんだか・・・
優しすぎて・・・
その優しさに
涙が・・・
また
こみ上げようとするのを
必死で堪えていた・・・
『女はね。。。やっぱり女なのよね。。。』
メリルがわたしに語りかけながら・・・
『男になろうとしても、やっぱり女のままなのよ』
はさみの音
パサリと
髪が
落ちる音・・・
『もし戻りたくなったら、いつでも、普通の女に戻りなさい。。。』
優しく
髪を撫でるように
櫛でとかしながら・・・
『リューイはいつでもミリの幸せを望んでいたし・・・今も望んでいるわ。。。』
ゆっくりと
『ミリ・・・それがもし・・あなたが不幸になる生き方なのなら・・・いつでも戻りなさい・・』
ゆっくりと・・・
『幸せは何処にでもあるものだから・・・違う幸せに向かいなさい・・・』
『・・・・・・・』
『誰かのために・・幸せを放棄することほど・・周りを不幸にすることはないわ・・・』
メリルの手が私の肩の上で止まって・・・・
私は・・・ゆっくりとその手を握り締めると・・・
そのまま・・・
『メリル・・・ありがとう・・・でもね・・・』
そのまま・・・・
『わたし・・・今・・・何もできないことが一番苦しくて不幸なことなの・・・』
『・・・・・・・・・・・』
『リューイのために何にもできないことが辛くてたまらないの・・・』
『・・・・・・・・・・・』
『ただ・・・そばに行って・・・何ができるのかも・・・わからないけれど・・』
『・・・・・・・・・・・』
『少しでもそばに行ってね・・・何もできなくてもいいから・・・ただそばに行ってね・・・』
『・・・・・・・・・・・』
『そばに・・・行ってね・・・・』
メリルの涙が
私の手の上に落ちた・・・
温かい涙・・・・
その涙に・・・
私の心が・・・
堪えていた
涙と
想いが・・・
誘われるように
流れだした・・・・
『・・・・・・メリル・・・わたしね・・・もう・・・』
なにか・・・
リューイのためにしていないと・・・
今・・生きられそうにないの・・
前を向けるものがないとね・・
だから・・・
わたしには
必要なことなの・・
私と
リューイにとって
これは必要なこと・・・
それに・・・
リューイは
私の幸せのすべてだから
他には
私の幸せは
ないの・・・
どこにも
代わりになる
幸せなんか
ないの・・・
あのね・・・・
私は
唯一の
幸せを
見つけることができたの・・・
リューイという幸せ・・・
唯一の幸せを
見つけられることなんて
そうあることではないよね・・・
だから・・・私は・・・
『・・・だから・・わたし・・自分の幸せ・・取り戻してくる!』
私は
力いっぱい
メリルに微笑みかけた
この決意は
悲壮な決意
なんかじゃない・・・!
幸せを
取り戻すための・・
穏やかな
温かさに包まれた・・・
心のなかにある・・・
光の天地へ向かう・・・
第一歩・・・・
私は・・・・
その先に必ずあるはずの
幸せに満ちた
心の風景を
何度も
何度も
思い浮かべて・・・
メリルに
めいっぱい
微笑みかけたの・・・
メリルも・・
泣きながら・・・
微笑み返してくれて・・・・
いっそう
穏やかな日の光が
部屋に差し込んできて・・・・
メリルは私を
包み込むように
抱きしめると・・・
『ミリ・・・幸せを取り戻したなら・・いつでも・・帰ってらっしゃい・・』
私は・・・抱きしめられたまま・・
『あなたは・・・私の娘・・たった一人の娘だから・・・・』
そのまま・・・
『あのね・・私ね・・ほんと・・嬉しかったのよ・・・』
そのまま・・・
『・・いつかは結婚してこの家を出て行ってしまうと思っていたからね・・・あの子と結婚すると聞いてね・・・あぁ・・ずっと、これからも一緒にいられるんだ・・・って思ったらね・・』
『嬉しくてたまらなかったのよ・・』
顔を上げると・・・・
優しい
笑顔のメリルが・・・・
優しく
優しく泣いていて・・・・・・
『だから!絶対に戻ってくること!これが私とのたった一つの約束よ!』
わたしは大きく頷いて・・・
そのまましばらくメリルの胸で
ゆっくりと
泣かせてもらった・・・・
私は今・・・・
こんなに
穏やかに
泣かせてもらえる存在に
包まれて
生きているんだな・・・って思ったら・・・
涙が止まらなくなってしまった。。。。
どうして
人間って
こんなに
温かいんだろうね。。。。
一人でいたら
きっと
冷えて凍ってしまった
心も・・・
一瞬で
暖めてしまう・・・
・・・・・温かさ・・・・・
私ね・・・・
お父さんとお母さん、ピチと
別れたとき・・・
運命をひたすら
憎んだわ・・・
でもね・・・
今
思った・・・
私って
幸せものだ・・・・
私には
両親が・・・・
こんなに素敵な
両親がいる・・・・
戻れる場所が・・
待っていてくれる人がいる・・・・・・
メリルが手渡してくれた鏡の中には
新しい私が映っていて・・・
その鏡の中の私に
にっこりと微笑みかけると
『ありがとう』
様々な想いを込めて・・
メリルにそう告げた・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・
・・
その日から
私は・・・
とりあえず
走ることを
始めた・・・
メリルが貸してくれた
リューイの部屋の鍵・・・
開けると・・・
ほのかに
温かい空気・・・
懐かしさでいっぱいの空気が
漂っていて・・・・
沢山の本・・・
宇宙艇の本・・・
宇宙星系に関する本・・・・
その中に・・・
日記があって・・・・
練習メニューと
たくさんの星の地形が
細かく書き込まれていた・・・
私はその練習メニューのとおりに
トレーニングを開始した・・・
走る・・・
星降りの丘を・・
走る・・・
白い城壁の
町の中を・・・
走る・・・
リューイと見た
海辺を・・・
走る・・・
あの
朝・・・二人で歩いた
森の中を・・・
走る・・走る・・・・走る・・・・
でも・・・
近づけていない気がする・・・
一つも近づけていない気がする・・・・
走れば走るほど
遠のいていく気がする・・・
もっと
もっと
もっと・・・!
走らないと・・・!
前へ
前へ
行きたい・・!
少しでも
近づきたい・・!
どうしたら
近づけるんだろう・・・
寝ている間にも・・・
食事をしている間にも・・・
走ってる間にも・・・
たった今も・・!
どんどん
遠のいている気がするの・・・
近づきたい・・!
近くに行きたい・・!
今すぐに
そばに行きたい・・!
でも・・・・
・・・・
・・
止まらない心のまま
夜になると私は・・・
寝る間も惜しんで
日記を読み続けていた・・・
なにか・・
何かがあればいいと・・・
ただ・・
読み続けながら・・・
ふと・・・
窓の外の
宇宙を
見つめる・・・
最近は
夜が好きになっていた・・・
だってね・・・
宇宙が見えるとね・・・
少しだけ・・
それでも
少しだけ・・・・・
リューイに
近づけた気がするの・・・
この広い宇宙のどこかにいる
リューイ・・・・
あなたがいる星を
目にすることができる
夜が・・・・
私は
好きなの・・・・・
あなたが
見上げている
宇宙に・・・・
トゥールスはありますか・・・?
静かにまた・・・
日記に
視線を戻す・・・
リューイの日記は
わたしの
涙で
ところどころ
にじんでて・・・
また
涙の痕・・・・
ふえてしまった・・・
手で・・・拭おうとした・・・
その時・・・!
・・・・・・・・!・・・・・・・・
《我が師 ファーナル氏の星ウィンディナルへ
訓練学校入学の際にお世話になって以来の再会・・
はたして覚えていてくれるのだろうか・・・?
今回の星リヒドニア攻略にはヒュードックの神と
言われた師の力は必要だろう・・・力になって
くれるとありがたいのだが・・・》
私の
身体中の血液が・・・
激しく
流れ出すのを感じる・・・
これだ・・・
探していたのは・・・・
わけもわからず
探していた答え・・・・
きっと
これだわ・・・!
私は
とても
朝を待てる
心境では
なくなってしまって・・・・
ドンドン!
『夜遅くごめんなさい!でも!メリル!起きて!!!おねがい!起きて!!』
メリルの部屋のドアを叩いていた・・・
しばらくすると
メリルが目をこすりながら
起きて来てくれて・・・
『どうしたの・・・?』
ジルも一緒に・・・
真夜中の酒場の中・・・
『聞きたいことがあるんだけど・・・このウィンディナルに私はいけないのかな?』
日記を手渡すと・・・
ジルは・・・
『・・・・あぁ・・・そういえば・・・思い出したよ・・・』
ジルは語りだした・・・・
ヒュードックの訓練生テスト合格のために
リューイも毎日
ミリのように
走り続けていたんだ
ただひたすらに
毎日
走り続けて・・・
そんな時に
一人の旅人が
うちの宿に来たんだ
長期・・・と言っても
一ヶ月ほどの滞在だったんだがな・・・
リューイから
[いろんなことを教えてもらってる]
って聞いて
そのお礼に
よくお酒をご馳走していたんだよ
酒好きの気さくな感じのする人でね・・・・
その時
[昔、ヒュードックのレーサーだった・・・あんまり強くはなかったけどね]
って聞いたことがある・・・・
その数ヵ月後・・・
リューイが
合格したことも
驚いたが・・・
その酒好きな旅人は・・
ヒュードックの世界では
神・・とまで崇められている
『伝説の男 ファーナルだったんだよ・・・』
私は思わず
ジルの言葉に
息を呑む・・・
運命の歯車が
カチッと
はまる
音がしたような気がした・・・
動き出す・・・運命・・・・
『紹介状を書けば・・・もしかしたら会うだけなら会えるかもしれない・・・』
ジルがそういうのと同時に
『行きたい・・・!わたし!そこに!行きたい・・・!』
そう口に出ていた・・・
・・・・・・・・・
次の日・・・
一睡もできずに私は
宇宙ステーションにいた・・・
まだ見ぬ星 ウィンディナル・・・
会えるかどうか・・・
そこにファーナル氏が
いるかどうかも
わからない・・・・
でも・・・!
わたしは
動き出した運命のまま
進むことにした
今は
運命に
非力な私は
流されている・・・
でも・・・!
私は
運命を
この手で
動かしてみせる・・!
たった一つの幸せを
取り戻すために・・・!
[11]へ続く・・・・・