七節 親友から敵に 弐
学校からまた投稿。
GW中に中華街へ行った2人を待っていたのは、磯女による連続殺人だった。それを止めるべく、兵太郎も呼び磯女の根城へ向かったが、幻術にかかり分断されてしまった。雄也は機転を利かせて磯女の部下を倒すが、蓮華と兵太郎は磯女との闘いで絶望の淵に立たされていた。
「うふふ、ワタシの妖術『水玉籠』は相手を妖気に満ちた水に閉じ込める術。磯女族に伝わる、水妖殺しの術さ。海で最強と謳われるのは、この術のおかげと言ってもいいくらいだよ」
人と妖怪は、体のつくりが酷似している。つまり、2分以上酸素を得ないでいると妖怪も酸欠で死んでしまうのだ。
「もう10分は経ってる、とっくに酸欠で逝っちゃってんだろ・・・」
磯女は術を解き、2人に近づいた。
ガシッ・・
かろうじて意識があった蓮華は、弱った体の力を振り絞って磯女の足にしがみ付いた。
「気絶してしまえば、脳は保存される状態になって酸欠になるってことはないんだから・・・!」
「この阿婆擦れェ!一族を殺してでも生き延びたオマエに、妖怪を名乗る資格なんてないんだよ!!」
ドガッ
磯女は蓮華を前へ蹴飛ばし、刀を奪った。
「春子、アンタ何吹き込まれた・・・の?」
しばらくして、兵太郎も目を覚ました。
「春子、それは断じて違うぜ。火天女一族が滅亡したのは確かに、人間の業が招いたことだ。でも蓮華の母君は、それを察知して自分たちのたった1人の娘を逃がしたんだ。風仙様と自分の間に生まれた、半妖の蓮華をな!」
「な、蓮華が半妖!?風仙様の記録には書かれてなかったよ!?」
書かれていなくて当然である。当時、人間と妖怪は共存派と反共存派に分かれていた。もし半妖が生まれたと知れてしまったら、反共存派の手に墜ちる危険が出る。それを悟った十三端風仙は、記録に蓮華を成したことを残さなかったのだ。この事実に驚いたのは、当の本人だった。
「ワタシ、半妖だったの・・・?でも何で、兵太郎くんが知ってるの?」
「オマエの母君の日記を見ちまった、悪気は無かったんだが。小さいときに悪戯で、日記をこっそり見たんだ。それには蓮華の成長の記録が、ぎっしり書かれていたよ。徐々に半妖の匂いがしてきた、早く私の血を、妖怪の血を飲ませなければって・・・。その矢先に人間が虐殺始めやがったってワケさ」
春子はここにきて、自分が騙されていたことに気付いた。が、状況は精神を後へ引けないところまでいってしまっていた。
「うぁあああっ!!」
妖力が完全に解放され、本性である半魚人の姿を現した。より美しく、より禍々しくなった磯女は2人に襲い掛かった。
「きええぇぇっ!」
バギイィィ・・・
「・・・?・・・ゆ、雄也!?」
空前絶後、磯女の拳が蓮華に当たる直前に雄也が前に飛び出し、その一撃の全てをまともに喰らったのだ。そしてさっきの鈍い音は、雄也の腕が砕けた音だった。
「何度喰らっても慣れないな、骨折ってのは。幸い右は無事だ」
雄也はさきほどの戦利品、しらみゆうれんの妖刀を片腕で担ぐように持った。
「ふん!ワタシの妖刀海鳴の力を見るがいい!!」
磯女は刀を一振りした。すると轟音が響きわたり、水の塊がドッと中に押し寄せた。
「ちぃ、海流をこの中へ行くよう仕掛けやがった」
兵太郎は2人を抱えて、退水の術を唱えた。退水の術は一定時間、水の中をまるで鳥が空を飛ぶかの如く速く動けるようになる術だ。
「退水などと小賢しいマネを!」
磯女は海上に上がろうとしている兵太郎を、鬼の形相で追いかけた。蓮華も術を唱え、磯女を撒こうとした。
「炎光紅眼!!」
カァアッ
「しまっ、この術は・・・!」
蓮華の使った術、炎光紅眼は磯女の使った幻術と原理は同じである。しかし、磯女のは音で相手をハメるもので大して強くないが、今回は視界で相手をハメるものなので幻術の力が強いのだ。
磯女はまんまと幻術にハマり、幻術の世界を彷徨っていた。
「ううっ、アイツら・・・!こんな場所、さっさと出てやる!」
しばらくして、磯女の目の前で突然強い光が発生した。そこには蓮華たちとの日々が映っていた。
『やったぁ!どうよこの羽織、カワイイでしょ!?』
『そう?ワタシの方が綺麗だって』
これは春子の昔の記憶、自分たちの作った羽織を互いに自慢した時のシーンだ。
「そう言えばあの後、兵太郎が泥を悪戯で投げ付けて羽織が台無しになったんだっけ」
そして今度はお祭りでの1シーン。
『金魚上手くとれないよ~』
『貸してみな、行くよ~・・・それっ』
金魚を上手くとれない蓮華に代わって、店の金魚を全部とった記憶。
「こうして見ると、蓮華が半妖だって、人間の血が流れてるんだってわかる気がする。お祭りとか、そういうの好きだったもんな」
春子は自分も気づかぬうちに、涙を流していた。
「今更かもしれない、でもやっぱ間違ってるよな・・・ワタシ」
春子は元の姿に戻った。その姿は可憐で、さっきまで暴れていた怪物にはとても見えなかった。
「ごめん蓮華、ごめん・・・」
「「「いいよ」」」
3人は友の過ちを快く許した。もし自分でも、そうしただろうから。
「ハイハイ、そんな感動シーンは要らないですから、死ね」
サディストは一行の背後をとり、手下の悪魔に攻撃を指示した。
「グギャアアアアッ」
「何だあの悪魔!?ってか悪魔じみた獣はぁ!?」
その悪魔は獅子のような容姿で、青い鎧を全身に付けていた。位が3桁以下の悪魔は言葉を発さず、上位の悪魔に使役されるのがほとんどなのだ。
「第211位悪魔ドゥボロゥ、水中戦では無類の強さを誇ります」
サディストは場をドゥボロゥに任せ、スナップして瞬時に消えた。
「あのさ、これで何とかなんないか?」
雄也は懐から、さっきの刀を取り出した。雄也は剥き出しの顔面に刀を刺せば、一撃で倒せるのではと考えた。しかし、ここは海。自分の息も長く持たない。雄也は残り少ない時間の中で悩んだ。
「それならいい手があるよ、貸しな」
春子は刀を闇雲に遠くへ放り投げた。
「オマエ勝手に!」
雄也は怒るが、春子は続ける。しかし、春子の作戦は自身の刀を活かした見事なものだった。
「妖刀海鳴!『大波天落刃』!」
春子の妖刀は海の流れを支配する。つまりさっきの刀を、相手の急所に当てることも容易なのだ。
ズドッ!
「グギャァアア・・・」
ドゥボロゥは顔面に刃が当たり、煙のように消えた。そして一行は陸に上がった。
春子は陸に上がった後、ずっと黙り込んでいた。
「春子・・・」
「なに・・・?」
周りもどんよりとした空気だった。しかしこの場面を兵太郎がぶっ壊した。
「おいおい、ここら辺にメイド喫茶があるんだとよ!おおお!?女子はコスプレおKてあんぜ~」
「「誰が行くか!」」
ゴン!
こうして、皆いつも通りの空気に戻った。
今回の悪魔
ドゥボロゥ...獣型の下級悪魔。基本的に位が3桁の悪魔は、上位の悪魔に使役される。サディストが持つ30体の悪魔の1つであり、水の中を速く泳ぐ事ができる。