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六節 親友から敵に 壱

1話書くのに一苦労、時間と知恵があればこの悩みなんて瞬時に消えるのに。

 交渉を断られ、手立てがなくなったサディストはある者の所へ行った。

「やはり協力して下さいますか、磯女さん」


「そりゃね。アイツ人間に媚売って、自分だけ助かろうとしたなんて・・・。妖怪として絶対に許せないことだよ!!」


なんと蓮華の親友、春子の元へ訪れていたのだ。悪魔らしくウソを並べ、見事に騙した。『蓮華は自分の命を守るために体を売り、火天女への虐殺から逃れた』、と。しかし、サディストが春子の元へ訪れたのはもう1つ理由がある。


「くははは、貴方がた磯女族は悪魔とのヤミ貿易で栄え、名門に成り上がった。その貿易相手の主の長兄の頼み、逆らえるワケないですよね♪」


サディストは磯女の闇の部分をネタに、交渉を成功させた。


「ではまず、軽く人間を10人程度葬ってください。それで飛びついて来るでしょう、あなたの元親友の蓮華さんは。恐らくあの妖刀を使える人間も、オマケでついてくるでしょうけど」


「別にいいさ。アイツを匿ってるあの野郎も殺るんだし」


春子は奥から、自分の妖刀を取り出し海へ出た。


「うふふふ、アイツらはこの連休にどこ行くかはわかってるんだ・・・。そこで殺人あったら、アイツらすっ飛んでくるだろうねぇ~」


 高校に入っての初連休、GWである。雄也と蓮華は2人で、横浜の中華街に来ていた。


「うわぁ~、杏仁豆腐でらうみゃ~」


「さっぱりしてるな~」


2人は中華街の全店の杏仁豆腐を、某星の戦士のごとく食べ歩いていた。少なくとも20件は回っている。そんなに食べて糖尿病にならないのだろうか・・・?そして2人はまた別の店に、ズカズカと入っていった。


ギィ~~~ッ


「すいませ~ん、2名杏仁豆腐2つ・・・ってあれ?」


その店は電気が付いて、営業中の看板も立っているのに中には誰もいない。2人は奥でスープやらを作っているのだろうと思い、席に座った。


ギイイッ


店のドアから1人の男が入ってきた。が、その様子はかなり衰弱していて今にも倒れそうだった。


「この人のエプロンに書いてある勇満亭って、この店の名前じゃないか!」


「店員さん?店長さん?もうどっちでもいいわ!何があったんですか!?」


蓮華が男に触れた瞬間、男は跡形も無くなった。跡には白い粉が残った。


「おい、これ塩だぞ。聞くのも難だが、これどんな妖怪がやったんだ?」


雄也は白い粉を嘗め、蓮華に尋ねた。蓮華は小声でローテンションに答えた。


「磯女の仕業・・・、恐らく春子だと思う」


雄也は青ざめた。今まで一緒にダベった者が殺人を犯したのだ。蓮華は雄也以上にショックが大きかった。


「妖怪って心変わりが激しい種族なんだ、とくにワタシたち女の妖怪はね。少しきっかけができてしまえば、誰でも殺れるんだよ」


「・・・!海に行くぞ、春子はそこにいるハズだ!」


雄也は蓮華を引っ張り、九十九里浜へ連れて来た。神奈川の有名な海に関係あるものと言えば、江ノ島や九十九里浜である。とりあえず雄也は海に潜ろうとした。


「ダメ、磯女は海の妖怪の中でも上位の強さなんだよ。そんなのと海で闘り合ったら、雄也勝てるワケないでしょ?待ってて、今兵太郎くん呼ぶから」


プルルルル・・・・


蓮華はケータイで兵太郎を呼んだ。


「春子が・・・。仕方ない、この薬飲んでくれ」


兵太郎は懐から丸薬を取り出した。その丸薬には小さい文字で、海と刻まれていた。


「何10年振りだろ、この『海雪の白玉』を飲むのは・・・。あ、第二次世界大戦以来だ」


ゴクッ


3人は勢いよく海へ飛び込んだ。その泳ぎっぷりは魚でしかも、全く息苦しさが感じなかったのだ。


「あはは、気持ちいい!さすが兵太郎くん、すごい薬だよ」


「ホント驚きだ、と言ってもそううかうかしてられないみたいだぞ」


雄也が指差した先には、磯女の手下たちがうじゃうじゃいた。フワフワした感じからして、妖怪しらみゆうれんの大軍だろう。


「気をつけな、オイラのこの薬は海の中で回遊魚に近い状態にする薬だ。回遊魚はずっと死ぬまで泳ぎ続ける魚、動きが止まったら海の中で海葬あげなきゃいけなくなるから!」


ギュウゥウン


雄也は2人の手を持ち、強引に大軍の中を突き進んだ。


「雄也すご~い!泳ぐの得意なんだね!」


蓮華の褒め言葉と眩い笑顔に、雄也は頬をポッと赤くした。


「おやおや、相手は妖怪だぜ~?なに赤くしてんのさ」


「ニヤニヤするな、気持ち悪い」


 3人は磯女の根城と思われる、海底洞窟を見つけた。その中は何ともおどろおどろしい雰囲気が充満していて、今にも何者かが襲ってきそうな場所だった。


ピチャ・・


「!?」


雄也は背後の水音に気付いたが、後ろには誰もいなかった。


「雄也、どうしたの・・・?まさか・・・幻術!?」


蓮華は雄也が幻術にかかったことを確信した。そして、幻術をかけた張本人を躍起になって探し始めた。かけられた雄也も幻術だと気付くのには、あまり時間を要しなかった。


「くそ、今日は武器がない。一応空手や柔道はかじってるけど、あれらは基本裸足でするもんだから屋外じゃ力を発揮しづらい・・・。周りは尽きぬ海水、ここは化け物の根城。逃げる選択肢は消えたワケだよ・・・な!!」


ヒュオオッ


雄也は背後からの攻撃を間一髪かわした。落ちた髪の毛が、そのギリギリさを物語る。


「あんたもしらみゆうれんか?にしては随分形が整ってるじゃないか」


「オレはもともと大名の息子でな、特別に磯女様の術で人の形をとらせてもらっているのさ」


しらみゆうれんは端正な顔立ちと、戦争の傷跡が数多くある生々しい肉体をしていた。


「こんな小僧を斬らねばいかんとは、現世いまも怖い時代だな」


「そう易々斬られる男には育ってないぞ!」


ガシィイッ


雄也は瞬時にしらみゆうれんの懐に飛び込み、柔道の寝技『袈裟固め』をかけた。その威力は凄まじく、脇を締めたらしらみゆうれんの手から刀が離れた。


「むぐぉ・・・、何て小僧だ」


「このまま気絶させてもいいんだけど、どうする?」


しらみゆうれんは雄也の言葉に、妖怪ナメんなと鼻で笑った。


モワモワ~~


その瞬間、周囲が白い靄で覆われた。靄が消えた後、状況はとんでもないことになっていた。


「ウソだろ・・・?靄に化ける能力なんて、さっきのヤツらは持ってなかったのに」


「ははん、一応強化されてるからこういう術も使えるってだけだよ」


なんと地べたについていたのは、雄也だった。しらみゆうれんは雄也の言ったとおり、靄に化けて雄也の不意を突いたのだ。見事に関節がまってるので、微動だにできない。


「そう言えば、アンタの御主人様大丈夫か?仲間に弱点教えたから、もう倒しちゃってるんじゃないかなぁ~~??」


雄也はハッタリとは呼べない、まさにバカとしか言い様がない言葉を放った。こんな言葉に引っかかるバカはいないと、雄也は思ったのだが・・・。


「なっ、オマエ自分を囮にして!」


パッ・・・ドスッ


しらみゆうれんが手を離した途端、手刀で一発。雄也は心の中でバカだな~と、侮辱を込めて思った。


「う~ん、幻術は解けないか。春子を早く止めないと、ここで死んでしまう・・・。蓮華に兵太郎、春子を止めてくれ・・・!」


 雄也とはぐれた2人は、春子と激戦を繰り広げていた。が、その戦況は悲惨なものだった。


ゴボボボ・・・・


「うふふっ、海でワタシに喧嘩を売る時点で敗北決定だよ」







本日の妖怪

しらみゆうれん...海の妖怪、というより海で亡くなった人の幽霊。靄のような姿をしており、船などに絡み付いて動きを止めるなどの悪戯をする。

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