五節 悪魔から交渉
学校からアップしておりま~す。
くびれ鬼が雄也たちに倒された後、御堂寺に来訪者が来ていた。灯籠は壊され、残っているのは荒地のみのこの場所に、その者はスーツ姿でいた。
「妖刀晒首、相手の戦意を絶つ絶望の魔剣。くははは、これで数は20個、他のヤツらを出し抜いて自慢できますね~。くははははははは・・・・」
その者はくびれ鬼の妖刀を拾い、誇らしげに高笑いした。
「今頃ヤツらは、人間どもの作った紛い物に手を出しているハズ。妖怪が作り使ってこその、妖刀なのに。やはり私が次世代なのでしょうか、ラルク様」
その者は妖刀晒首を持ち去っていった。
くびれ鬼の一件から、雄也たちは学校はおろか地元のヒーローになっていた。しかしそれは、1人の友達を殺人犯に仕立て上げてしまったという罪悪感が、2人の心を覆う結果となった。
「蓮華ちゃん、気にする事ないよ。五機くんを自分の罪に向き合わせてあげた、そんなのアタシにはできっこないわ」
クラスメイトが日々2人を励ましその結果、2人の心から罪悪感が僅かだが薄れていった。その時、学校で妙な噂が流れ始めていた。
「ねぇ、『いつまで交差点』って知ってる?」
「ああ知ってるさ、オレも部活帰りに交差点で聞いたぜ」
雄也は気になって、話していたクラスメイトに聞いた。
「人気の無い交差点を1人で通ると、どこからか声が聞こえてくるの。始めは小さいけど段々大きく低くなって、最後には鼓膜が消えるほどに大声で叫んで・・・。後ろを振り向くと化け物に
捕まえられて、あの世に連れてかれるの・・・・」
「もしかしてその声、いつまで!って言ってなかった?」
「え、何でわかるの?」
いつまで交差点という名前からしたら、簡単に想像がつく。
「そうか、そんじゃ行こうかなボクも。こういうの好きだし、蓮華も行く気満々みたいだしね」
雄也が指差すと、蓮華はバッグから白火花を取り出しブンブン振っていた。クラスメイトたちはオレもワタシもと、次々に行くと言い出した。行かないと殺される、という恐怖からたどり着いた答えだ。
「とりあえず、その交差点行くぞ~!」
放課後、1年5組全員が部活や習い事をフケって『いつまで交差点』の交差点のド真ん中に集結した。皆それぞれ、バットやラケットなど武器を所持していた。
「いつまで・・」
「「「「「うわぁ!」」」」」
本当に声が聞こえ、皆動揺した。雄也は気を保てと一喝する。
「いつまで、いつまで、いつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまでいつまで」
その声は段々大きく低くなり、最後には・・・。
「イツマデェエエエエッッ!!!!????」
あまりの声の大きさに、体がすくんだ。
「これは間違いない、妖怪以津真天よ」
以津真天は餓死し見捨てられた人間の怨みから生まれた、不吉で迷惑極まりない妖怪なのだ。
「皆避けろ!上から来るぞ!」
バサアァアッ
雄也の合図で皆横へ逃げたが、1人は転んで捕まってしまった。
「逃がすか!」
ズバァアアッ
以津真天は蓮華の一閃で、跡形もなく消えてクラスメイトは助かった。だが、蓮華の表情は暗かった。
「おかしいよ、以津真天は元は餓鬼道にいる妖怪。人間道に来るなんて何十年に1回あるかないか、それにかなり臆病な性格なのに・・・。こうも人を襲うなんて考えられないわ」
「イヤイヤ流石、名門火天女一族だぬぁ」
蓮華は後ろの声の主に、問答無用で切りつけた。が、その一太刀は簡単に止められた。
「ぐうぅ、熱い熱い。これか、サディストが言ってた白い炎の剣ってのはぁ」
身長2メートルはあろうか、その巨漢は蓮華の妖刀を知っていた。
「おっと名乗るのがまだだったぬぁ、オレは第67位悪魔のブリングどぅぁ。悪魔の中で今、高エネルギー体を集めるのが流行りでぬぁ。さっき言ったサディストはオレより格上、第13位悪魔なんだずぇ~~」
ブリングは蓮華の首を持ち上げ、締め上げた。要求はただ1つ、妖刀白火花を渡すこと。渡さなければこのまま絞め殺すつもりだ。
「うぅ・・絶対・・・渡さない・・・・から」
なら死ねと言わんばかりに、ブリングは蓮華の首を締め上げた。
「やめなさいブリング、その妖怪は味方ですよ」
パキン・・・
どこからともなく、声とスナップ音がした。と同時に、ブリングの手から蓮華の体が離れた。
「サディスト、余計なマネをぅ」
2人の傍の電柱に、赤い髪と瞳の男がいた。
「私が用があるのは、蓮華さんだけです。他の方々は少し眠ってもらいましょう」
パキン!
男がスナップを再び鳴らすと、雄也やブリングを含め全員が眠ってしまった。
「私たちは貴方がた妖怪と同じ、闇に追いやられた種族なのはご存知でしょう。そう、人間の身勝手によって。太古の地球には悪魔と妖怪、様々な動物がいました。その動物の中で進化し、誕生したのが人間です」
「一体何が言いたいの?」
蓮華は素朴な疑問をぶつけた。
「協力していただきたい、我々悪魔と貴方がた妖怪のために。とくに悲劇の火天女族には、私も怒りを感じています。人間と共に生きることを誓うが、人間の業に呑まれ絶滅に追い込まれた・・・。貴方も本当は人間を恨んでいるのではないのですか!?悲劇の火天女の最後の生き残りの、三島谷蓮華さん」
協力するということは、人間を滅ぼすということ。人間に、雄也の祖先に仕えていた蓮華は当然のごとくNOを突き付けた。
「風仙様も雄也も、ワタシたち妖怪を受け入れた!受け入れてくれる人がいる、それでいいじゃない!!」
男はため息をついて、後ろを向いた。
「仕方ありません、では帰らせていただきます。あ、自己紹介がまだでしたね。私は第13位悪魔、通称『冷血のサディスト』と言われています。どうぞお見知りおきを」
パキン
スナップを鳴らすと、眠っているブリングとサディストは煙のように消えた。
あの晩以降、以津真天はパッタリと姿を見せなくなった。元いた餓鬼道へ帰って行ったのだろう。
「なぁ雄也、剣道教えてくれよ!オマエ強いだろ?」
「蓮華ちゃん!アタシたちに剣道教えて~!!」
蓮華の勇志がかなりイケてたので、クラスの中では剣道ブームが巻き起こっていた。
本日の妖怪
以津真天...飢餓に苦しみ飢え死にした人が見捨てられた後の成れの果て。見捨てた人に付きまとい、「いつまで」と悲痛な叫びを上げる。鳥の姿がほとんどだが、まれに獣の以津真天もいる。
今回の悪魔
ブリング...第67位悪魔。怪力自慢の巨漢で、喋り方が独特。格上の悪魔にもタメ口で喋るため『無礼のブリング』と呼ばれている。
サディスト...第13位悪魔。自分で物事に手を出すのを嫌い、『冷血のサディスト』と呼ばれる貴族出身の悪魔でどんな相手にも敬語で話す。スナップしただけで複数を眠らせたり、相手の神経を操ることができる。