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四節 名所から自殺

今回は真剣なバトル、文字数も多めです。

 ある日、男は会社から解雇された。業績がいつも平均を下回っている、と言われたのだ。


「業績が平均下回ってる、なんてウソだよ。上の人間が、業績の数字を操作したんだ」


男は自分の部屋のパソコンを立ち上げ、あるサイトにアクセスした。


『楽して逝こう2011』


カタカタカタカタ・・・・・


『会社を上の人間の身勝手で、クビにされてしまいました。家族には逃げられ、親もいない。死にたいので楽に逝ける方法、教えて下さい』


男は自殺しようとしていた。男は苦しんで死ぬのはイヤだという理由で、自殺サイトにアクセスしていた。すると、誰かから返事がきた。


「え?・・・竜鬼s?」


『石川の御堂寺みどうじという所に、くびれ灯籠どうろうという古い灯籠があります。そこの灯籠の前にある物をおいて、土下座をする。こうすると必ず死にます。ウソではありません、他の方々もこの方法で皆逝きました。ある物はこちらで用意しておくので、アナタは御堂寺に行ってみて下さい』


男はこれにノり、石川県へ車を飛ばした。

 早朝5時、雄也は剣道の稽古をしていた。蓮華も稽古に付き合い、一緒に汗を流していた。


「はっ!」


ドスッ!


蓮華の強い突きが、雄也の脇腹に直撃した。いくら剣道が強くても相手が相手、妖怪には敵わないということだ。


「うう、あばら折ったかなコレ・・・」


「骨はそう簡単には折れないよ」


蓮華は汗いっぱいかいたその姿形なりで、雄也に手を差しのべた。当然のごとくと言っては難だが、見えてはいけないところまで透けており、雄也はその手を振り払った。


「おいおいおい!透けてるよ、2つの李が透けてるよ!」


蓮華は自分の道着が汗で透けているのに気付き、雄也に気取らせる間もなく・・・。


スパパァン


しばらくして雄也たちは、朝食を若干気まずい感じで摂っていた。


『いや~、最近多いですね。名所で自殺、なんて何考えてるか私にはわかりかねます』


「名所で自殺者続出、その背景にあるものとは!?、か」


『昨日は兼六園で5人が、今日の早朝にも石見銀山で2人が、しかも全員が首を吊っての自殺。これは一体どういうことなんでしょうか?妖怪研究家の入江栄太いりええいたさん』


「この人、妖怪だよ」


蓮華は入江の顔を見て、静かに言った。


「ちょっと見えにくいけど、妖怪の印、赤い卍のマークが首についてるでしょ?」


「あ、ホントだ。若干見えるな」


妖怪にはある掟がある。それは人間と交流する時、必ず妖怪とバレないように首に赤い卍の印をつけることだ。この印の力で妖気を消しているのだ。


「でも蓮華にはついてないぞ?」


「位の高い妖怪は自分で妖気を消せるから、あんなの要らないんだ」


蓮華はえっへんと、威張り気味に言った。


『ボクの見解からして、これは妖怪くびれ鬼の仕業でしょう。そいつは自殺した霊が妖怪化したものであり、取り憑かれると心がモヤモヤして死にたくなるんです。川や自殺名所によくいるので注意したほうがいいですよ?しかし、くびれ鬼はずっと昔に封印されたハズ・・・』


入江の言ったことは本当である。明治の終わり頃、加賀の国の民全員が蜂起しくびれ鬼に立ち向かい、死闘の末封印に成功したのだ。


『封印されたということは、悪い妖怪だったんですか?』


『悪いなんてものじゃないですよ、だって自分の身勝手で2000人以上を死に追いやった残虐無比な妖怪だったんですから』


「あ、もう学校行く時間じゃないか。行くよ蓮華」


2人は大急ぎで学校へ行く準備をした。

 その日の学校には情報の時間があった。と言っても自由時間みたいなもので、皆好き勝手にブログを見たり動画をみたりしていた。


カタカタカタカタカタカタ・・・・・・・ピッ


雄也の隣のたった一人を除いては。

 学校が終わり、稽古も終えた二人はカップルっぽく手を繋いで帰っていた。すると、ある一人の人間とすれ違った。


「あの人は同じクラスの、五機合馬いつはたおうまくん?」


「合馬のヤツ、こんな時間にどこ行くんだよ?」


嫌な胸騒ぎを感じた雄也は、蓮華にバレないように高畑の後を付いていくことにした。五機は駅のほうへ早足で向かっていた。


「170円、新宿か」


雄也は五機に続いて、新宿まで切符を買った。電車に揺られ、2,30分ほど経って駅に着いた。


「今度は中央線?しかも東京まで・・・」


この時既に8時を過ぎており、五機は友達などと待ち合わせをしている様子も無い。ますます胸騒ぎがしてきた雄也は、今の全財産をはたいてでも友達の動きを知りたくなった。


「幸いだが、いつもの心配性が役に立った。10万あれば大半どこでも行けるぞ」


 五機の後をそのまま付けていたら、いつの間にか石川県の御堂寺にいた。五機の目の前には灯籠と、牛の首があった。


「ある物って、牛の首かよ・・・。まぁいい、これで終わるんだ」


ザッ


五機は目の前で土下座をした。すると灯籠が勝手に動き出し、喋り始めたのだった。


「ヒヒヒ、アイツには感謝せなならんぜ。オレを封印から解くための方法、アイツが人間どもにブワーッと広めてくれんだからな」


「く、くびれ鬼!」


灯籠からくびれ鬼が出てきて、雄也は思わず叫んだ。その叫び声に、五機とくびれ鬼が気付いた。


「お?オマエも死にたいのか?否、そんな顔じゃなさそーだ」


くびれ鬼は死ぬ気など無い雄也に、さも邪魔者扱いする眼差しを効かせ妖刀を振り上げてきた。


「オレの邪魔すっと、ロクなことにはならんぜ~」


ザクッ!


刀を間一髪避けた雄也だが破壊力は凄まじく、後ろの大樹を鮮やかに切り裂いた。くびれ鬼の刀の形は文化包丁に近かった。


「ヒヒヒ、動きはいいな。だが妖怪には敵うまい」


ブオゥン


雄也は居合いの衝撃で体が浮き、身動きがとれなくなった。


「オマエもオレの退屈しのぎのオモチャになりな!」


ガキィャン・・・


刹那、正義の白い炎が悪意に満ちた刃を弾いた。


「ヒヒヒ、これはこれは。悲劇の火天女様じゃねーの」


蓮華は雄也と同様に、バレないようにこっそり後をつけていた。


「五機くん、何でこんな場所で!こんなヤツなんかと会ってるの!?」


五機は口を開けなかった。が、その閉ざした門は一つの鍵で簡単に開いた。


「もしかして、あの事故か・・・」


「・・・!十三端、目敏めざてーぜテメエ。そうさ、あれだよあれ。事故ってされてあるが実際は違うのさ、だってオレが殺しちまったんだからな!!」


雄也は驚きを隠せなかった。2年前の中学の時、男子生徒が階段から落ちて亡くなった事故が、事故ではなく殺人だったのだ。しかもその犯人は今、自分の目の前にいる。


「あの時、オレとヤツは変なことで口論になって終いにゃ取っ組み合いになったんだ。そんで階段に差し掛かって、オレがヤツを思い切り突き飛ばして殺したんだ。勿論、すぐに自首しようと思ったんだが周りには誰もいないし・・・。見てみぬフリをしたのさ、オレは。だが後から徐々に罪悪感が、自己嫌悪ってヤツが、オレの心を覆ってきたんだ。そしたらもう2年、軽いハズねーし人生終わりだ。だから!ここでこのバケモンの力を借りて、楽に死ぬんだ!!!!」


「何言ってるんだ!五機!オマエ、それで罪を償ったとかそんなこと思ってるんじゃないだろうな!?そんなのは、大、大、大、大、大間違いだぞ!!」


雄也が一喝した。が、その叫びも五機には届かなかった。そしてそのスキにくびれ鬼が襲ってきた。


「ふん、これから死ぬヤツにそんな言葉は無意味だぜ!」


グシャァア・・


「う、ぐぁ・・・・」


なんと、くびれ鬼の凶刃を喰らったのは蓮華だった。大ダメージを受けても即反撃を試みるが、刀から炎が灯らなかった。


「オレの妖刀、晒首さらしくびは斬った相手の戦意を絶つ変り種でな。けどオマエの刀とは都合がとてつもなくいいみたいだがな、ヒヒヒ!」


蓮華は動けぬ体を強引に動かし、刀を咥えて雄也にすり寄ってきた。


「これ白火花じゃないか!ボクに、人間に妖刀が使いこなせるワケない!」


「大丈夫・・・。雄也なら・・・、闘志に満ちた今なら・・・使えるハズだか・・・ら」


弱々しく、だが確信を持った蓮華の瞳を見た雄也は、首を縦に振った。


「ヒヒヒ!人間に!妖刀が!使えるかよ!」


「うああああぁぁ!!」


ボオオオゥア!!


白火花に炎が灯り、幻想的な輝きを放った。くびれ鬼はそれを見て、ある感情を抱いた。恐怖と畏怖の2つである。


「切り裂け!白火花!」


ズドオオオォオン!!


「ぞ、ぞんなぁ~~~~ぅぅぅぅ」


雄也の信念を持った白い炎が、心無き悪を跡形もなく焼き切った。雄也は勝った喜びに浸る暇は無かった。


「待ってろ、救急車呼んでやる!」


「いいよ・・・、それより・・・刀貸して」


蓮華は刀を雄也から借りて、自分の傷に当てた。すると瞬時に、傷が治ってしまった。


「ふふっ、スゴイでしょ白火花これ


「それよりな、五機に言いたいことがあるんだ」


雄也は五機に、静かな怒りの眼差しを向けた。


「いいか、罪を償うってことはそんな綺麗ごとじゃないのはわかるよな。金なんかじゃ償えるワケないし、自分の命を捨てて償うことなんか、罪から逃げてる逃走中の犯罪者と変わらない。だったらどうすればいいと思う?」


「知るかよ!まさか被害者に人生捧げろって言うのかコラ!!」


五機は逆ギレして言い放った。


「いろんな方法はあるが、ボク的にはこれが一番じゃないのかなって思う。罪を償うには死ぬ事や多額の金じゃなくて、二度と罪を犯さないと心の底から誓って、凛とし、胸を張って生き抜くことじゃないかって、ボクは思うよ」


五機の目には、大粒の涙が溢れていた。

 翌朝、五機は石川県警に自首し逮捕された。罪は当然軽いものではなく、懲役20年の実刑判決を下された。しかし、五機はそれを快く受け入れた。


『えぇ、私も驚きでしたよ。まさか2年前の事故が、殺人事件だったとは』


それから1週間、テレビは五機のニュースで持ちきりだった。雄也と蓮華は、そのニュースでヒーローとして盛大に扱われた。しかし2人の心中はグチャグチャだった。




本日の妖怪

くびれ鬼...自殺した霊が妖怪化したもので、主に川にいる。取り憑かれると、心の中がモヤモヤして「本当に首を吊ってしまおうか」と思って本当に首を吊って死んでしまう。ちなみにくびれとは、首を吊る『くびる』と言う言葉からきている。

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