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三節 遠方から友達

今回は別の意味でバトルです。

 荒川で猫又を退治した後、怪死事件はピッタリと止まった。世間では妖怪がやったのではないかという、大当たり過ぎる噂がしばらく流れた。雄也はこの噂で、蓮華が妖怪であることがバレてしまうことを恐れて蓮華を2,3日風邪という口実で学校を休ませた。


「危なかった、キミが妖怪だってバレたらボクらの生活を弾圧されかねないからな」


「もう噂は消えてるし、そろそろ学校へ行っても大丈夫なんじゃない?ワタシ」


蓮華は自分の普段の学校生活の凄まじさに、全くもって気付いていなかった。体育では100メートルを8秒で駆け抜け、美術では描いた絵が全国のコンクールで受賞し、挙句の果てには先生の代わりに日本史の授業をしているのだ。雄也はまだ蓮華が人間としての常識を、完全に理解していないと悟った。


ブー・・ブー・・


「ワタシのケータイ、誰からだろ」


「いつの間に買ったんだ!?」


蓮華は意外なところで人間味があった。オシャレは勿論、ケーキやチョコレートなどの甘いものが好きだった。その時の蓮華は、とても妖怪とは思えないくらい女子高生らしかった。


「もしもし、ああ!久しぶり!元気してた?」


電話は延々と続き、1時間半まで及んだ。この長電話も実に人間らしい行為アクションだ。


「誰から?」


春子はるこから。その子も妖怪で、古くからの知り合いなの。そうね~、江戸後期くらいからかな~」


やっぱり妖怪である。200年以上の間隔を『久しぶり』で片づけてしまうのだから。そんな芸当は、人間には不可能である。


「何の妖怪?」


「磯女」


雄也はゾクッとした。磯女は海の妖怪で、浜辺で人を襲う凶暴で狡猾な女妖怪だ。雄也は近い未来、女に取り殺されるのかなと、心の中でビクビクしていた。それ以前に、凶暴な妖怪に見合わない名前だった。


「その春子が今度こっちに来るって、電話してきたの。いいよね雄也」


「うん・・・わかったよ」


雄也は、せめて常識を心得てる妖怪ひとであってほしいと強く願った。

 6月のアタマ、ついに妖怪磯女はるこがやってきた。


「邪魔するよ」


春子は、ジーパンに黒いTシャツの姿をしていた。雰囲気からして冷静な性格のようだ。


「あ、これが雄也。『あの方』の子孫なの」


「『あの方』の?十三端風仙とみはじふうせん様のご子孫・・・。何というか、覇気がないね」


春子はどうやら、雄也の家系のことを詳しく知っているようだ。その後ろには、小さな影が映っていた。


「風仙様は立派な方だったよ、妖怪と人間の柵をあそこまで解いた方はいないからね。風仙様のおかげで、オイラたち妖怪はこうやって人間として人前に姿を現せるんだ」


「豆腐小僧か?バリエーションに富んでるなぁ」


雄也は心の底では、覇気がないって何だよと何度もぼやいていた。その時ぼやきがうっかり、口から出てしまった。


「覇気がないって?そこらのヤツと一緒にするなよ・・・」


「じゃ、この豆腐小僧へいたろうの豆腐を食ってみな。覇気があれば、食ってもカビなんか生えたりしないよ」


豆腐小僧の豆腐は、食べると体中にカビが生えるという超迷惑なお豆腐なのだ。ムキになった雄也は、その豆腐をまるごと1個飲み込んだ。


ポポポポッポン


案の定、カビが生えてしまい雄也は倒れた。それを見た三人は大笑いした。


「兵太郎、一発強いのかましてやりな・・・アハハハッ」


「うん・・わかっ、イヒヒ・・わかった」


パチーン!


豆腐小僧のカビ豆腐から免れる方法はただ一つ、豆腐小僧の平手ビンタを受けることだ。

 雄也はショックを隠せなかった。まさかまさか、豆腐を食べて倒れるなんて思ってもみなかったのだ。二人は家から出て行ったが、どんどん惨めになるばかりだった。


「気にすることないよ、あれは相当な覇気がないと食べれないんだし・・・」


「蓮華、今日は冷奴じゃなくて肉じゃががいいって母さんに言ってくれ」


夕飯には約束どおり肉じゃががあった。豆腐のことを一刻も早く忘れようと、ご飯を三杯も食べた。


ブー・・ブー・・


「また春子からだ」


『もしもし、ワタシねお台場に引越してきたんだ。だから週末くらいに遊びに行くから、その時はよろしくって、覇気のない子に伝えてちょうだい』


雄也の心労はピーク、そして春子の言葉は雄也の精神をへし折った。


「へ、へへ、覇気がないって~。へっへへ~」


「雄也!しっかりして!ごめん春子、切るわ!」


ブツン!


 しばらくして、雄也はゆっくりと起き上がった。そして蓮華は小声で言った。


「雄也、覇気が上がる方法教えよっか」


「おおお!!?ホントかぁあ!??」


雄也は俄然やる気になった。人間は音の波のごとく、テンションにムラがあるものだ。


「それはね・・・」


ガチャ・・・


「まさか・・・、そんな殺生な~・・・ウソン!」


体から血の気が消え、雄也は大根以上に白くなった。


「命を賭けて!ワタシの刀剣かたなから逃れてみなさい!!」


フォン、ヒュババッ


「逆に精神がゼロになるわ!バカが!」


蓮華はその一言でサタン状態になった。その刀剣の速さはもはや、音速の域に達していた。


「うおおおおおっ!!」


「どわぁあああっ!」


 一晩中続いた訓練も終わり、気付いたら陽が昇っていた。


「で、ワタシと兵太郎呼んでどーしたんだい?」


「雄也にもう一度、豆腐を食べさせてあげて」


蓮華は訓練後の棒人形のような雄也を叩き起こし、春子と兵太郎を呼んでいた。


「ま、また笑わせてもらうことになるけどね~」


雄也は渾身の力で、豆腐を一個食らい尽くした。すると、雄也の顔が笑顔になったではないか。春子と兵太郎は驚きを隠せず、言葉が出なかった。


「昨日はゲロマジだったけど、今日は格別に美味いよ~♪」


「どーよ、一晩中ワタシの刀剣かたなを避けてたんだよ。覇気が上がって当然じゃない」


覇気を上げる方法、それは命の危機である死線を何度も潜り抜けることだった。人間が妖刀を振りかざされまくり、妖怪が本気でくればまず命の危機には直面する。それを蓮華は利用したのだ。


「よし、腹もいっぱいだし学校へ行くぞぉ!」


「うん、それじゃまた今度ね春子、兵太郎くん」


勢いよく飛び出した二人を、春子と兵太郎はただただ見ていた。そして春子は、この腑抜けた時代にもああいうヤツがいるんだなと、強く感じた。





本日の妖怪

磯女...九州地方に多く伝承されている海の妖怪で、性格は凶暴で狡猾。見た目は絶世の美女であることが多く、見とれた男の生き血を吸い尽くす。


豆腐小僧...山の中や森の中で現れる、豆腐を持った子供の妖怪。見た目に騙されて豆腐を食べると、体中からカビが生えてきて大変な事になってしまう。稀に豆腐だけがちょこんと出ている事もあるらしい。

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