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点滅する信号と中央線の上の僕

掲載日:2026/05/16

趣味の夜散歩の話を書きました。

僕は夜が好きだ。

好き、という言葉では足りないかもしれない。夜になると、昼の世界がようやく静かに沈殿していく。騒音みたいに頭へ流れ込んでいた人の声、車の音、誰かの視線、期待、評価。その全部が、深夜になると水底へ沈む石みたいに動かなくなる。

僕が好きなのは、日付が変わった後の夜だ。

コンビニの白い光だけが浮いていて、車のエンジン音すら聞こえない時間。道路には誰もいない。信号機だけが律儀に赤と青を繰り返している。

そんな街では、道路の真ん中を歩ける。

昼なら絶対にしないことだった。

僕は昼間、優等生として生きている。

先生に褒められて、周りに合わせて、愛想よく笑って、真面目な人間を演じている。いや、演じるという表現すら曖昧だ。気づけばそれが自分になってしまっている。

けれど、真面目でいることは、ずっと背筋に力を入れ続けるようなものだ。

誰にも崩れているところを見せられない。小さな失敗ですら、自分の価値を削る気がしてしまう。

だから夜に歩く。

誰もいない横断歩道を、赤信号のまま渡る。

道路の中央線の上を、綱渡りみたいに歩く。

そんな小さな違反をするたびに、自分の中の「ちゃんとしなければならない」が少しだけ剥がれていく。

もちろん、悪いことだという自覚はある。

けれど夜の街は、それすら飲み込んでしまうほど静かだった。

そして何より、夜には視線がない。

人がいないから、というだけではない。たまに誰かとすれ違っても、暗闇の中では互いの顔なんてよく見えない。

昼の僕は、いつも誰かに見られている気がしていた。変なことをしていないか、嫌われていないか、期待を裏切っていないか。そんなことばかり考えて息苦しくなる。

でも夜は違う。

夜の僕は、名無しになれる。

街の輪郭がぼやけるみたいに、自分自身の形も曖昧になる。

優等生でもない。誰かの理想でもない。ただ静かな道路を歩いているだけの、一人の人間になれる。

深夜二時。

点滅する信号機の下で立ち止まり、冷えた空気を吸い込む。肺の奥まで透明になっていく気がした。

昼間にはまとまらなかった考えが、夜になると不思議と整理されていく。

将来のこと。友達のこと。自分が本当に好きなもの。嫌だった言葉。飲み込んだ本音。

夜は、心の机の上を静かに片付けてくれる。

結局、今夜も家を出る。

誰もいない道路の真ん中を。

世界から少しだけ許されたみたいな顔をして。

皆さんもぜひしてみてください。

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