LOG.08 夜明けの不協和音
「こちらグリムバート。
リバプールへマンハッタン上空より通達。
9月3日大西洋ポーツマス沖で6機の軍艦と戦闘。
調査団員27名が死亡」
「本日、午前5時頃、ボストン東部、
コプリープレイスにてドロイド軍と交戦、
及び転生者を名乗るE4ドロイドに接触、保護しました」
「その後、18時頃、ニューヨーク州マンハッタン、
グランド・セントラル駅にてボストンの生存者1000人を確認」
「帰国不可のため、以降、
ボストンの生存者の保護を最優先として、
任務を続行します」
「こちらアッシュフォード」
「……エリオットか?」
リバプールから応答したのは、
少年のような高い声だった。
「はい、ジョシュさん。ルナは無事ですか?」
「無事だ。リバプールの方は問題ないか?」
「こっちは平気ですよ。
相変わらず、保守派の連中はうるさいですけど。
それより転生者をなのるデルタタイプってどういうことですか?」
「ああ、まだ不明なことだらけでな、なんと説明したらいいか」
「メモリー回路のバグとかですか?」
「いや、それが自分は日本人だって言い張るんだ」
「それは興味深いですね。
絶対持ち帰ってくださいよ」
「わかってる。お前が好きそうな案件だからな」
「本当ですよ。
それで、帰国不可と言っていましたけど、
見通しはついてるんですよね?
いつ頃帰ってきますか?1週間後?」
「ああ、それもなんと言ったらいいか、
船が見当たらなくて。
全く見通しがつかないんだ」
「はあ!?」
急に濁声で話し始めた。
「ふざけないでくださいよ!!
こちとら三徹して交信を待ってたんですよ!!」
「さっきまでそんな素振り見せてなかったじゃないか」
「それは…!!
ルナ!ルナを呼んで!!
声を聞かせてくださいよー!!」
「今眠っているから無理だ」
「そんな!昼間から何寝かせてんですか!!」
「そっちもまだ夕方だろ。研究は?」
「ぐっ.....!それは…」
「こっちは任せて、お前はお前の仕事をしろ。いいな…」
「あ、待ってください」
「なんだ?」
「気をつけてください、敵は機械だけだとは限らない……」
「…」
「無事を祈ります」
ツ————
リバプールとの交信を終了し、
ジョシュは曇った空を見上げた。
一方その頃、カルは3階のシェフのいないレストランで
インスタントスープを飲んでいた。
「お兄ちゃん!それかっこいいね」
6歳の少年レオが、
カルの上着の内ポケットに隠した拳銃を見ながら言った。
それはジョシュからくすねて隠し持っていたものだ。
「馬鹿!でかい声出すな。
絶対に触るなよ。
おもちゃじゃないんだからな」
カルは慌ててジャケットの合わせを閉じた。
「きゃっははっ!」
レオは笑って逃げていったが、
それを支柱に隠れながらクリスがのぞいていた。
「おい、カル!
食べ終わったら行くぞ!」
ジョシュは屋上から降りてきたようだ。
「はいはい、今行く!」
「早くしろ」
ジョシュはクリスのことを怪しんでいるようだ。
横目でチラチラ彼女の方を見るが、
彼女もそれに気づき逃げるように7歳の少年を連れて立ち去る。
「よし行くぞ!」
カルが食べ終わると、急かすように連れ去る。
どうやら少し怒っているようだ。
階段を登っている途中、
ジョシュは立ち止まってカルの方へ振り返った。
「なあ、カル。明日のことなんだが。
お前はここに残っていろ」
「は?なんで!俺だって戦える」
「お前には危険すぎる」
「でも…」
「生きて帰るんだろ!!なら大人しくしてろ!!」
カルは呆然と立ち尽くし、
離れていく大きな背中を目で追った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2046年9月7日午前3時00分
ああ、もう朝の3時?9時間も寝てたのか。
残エネルギー17%
エネルギーが増えている。
そうか、眠るといいのか。
ジョシュが息をしているのか心配なほど静かに寝ている。
こういう厳ついおっさんは、
でっかいイビキをかくイメージなのだが、意外だな。
「おはよう!よく眠れた?」
ルナが濡れた髪をタオルで拭きながらやってきた。
シャワーを浴びてきたのか。
なんというか、その…エロい。
「今、変なこと考えたでしょ」
「考えてないよ!」
本当にごめんなさい。
俺は心の中で呟いた。
「あれ?カルは?」
「そういえばいないね」
ルナがジョシュの元に近づいて彼を起こした。
「ん?なんだ?」
「カル知らない?」
「ああ、あいつはちびっこと一緒にいるんじゃないか?
あいつはここに残すから、ゆっくり寝かせてやれ。
それより2時間後に出発だぞ。準備はできてるのか?」
ジョシュは不機嫌なのか少し怒号混じりの声で言った。
「髪を乾かしたら終わり。
カルとなんかあった?」
「何で?」
「怒ってる」
「別に。怒ってない」
「ならいいけど」
助手の心拍数が上がっている。
やっぱり怒ってるのかな。
これから命懸けの旅に出るっていうのに、この空気はあまり良くないな。
こういう時どうやって場を盛り上げればいいものか。
そう思っていたが、ジョシュもルナも黙々と自分の準備を始めた。
やっぱり気のせいだったかな。
心拍数が高いのは朝だからかな。
準備を終え、階段で下の階まで降りた。
規則的な足音が3つ、重なることなく無限に広がる窓ガラスに反響する。
エントランスを出て、4本のエスカレーターを降り、グランドセントラルのメイン・コンコースに着いた。
中心にある4面時計の周りにベンとエミリーら他十数人が集まっていた。
「来てくれてありがとう」
「おせえぞおっさん」
ジョシュとベンが男の握手を交わす中、一人しゃがんでいる少年が声をかけた。
そう、カルだ。
「残ってろって言っただろ」
「この先も、あんたたちの足手纏いになるのはごめんだ。
だから、戦えることを証明する!行かせてくれ!」
ジョシュはしかめっ面でカルを睨んだ。
「彼、昨日から眠らずにここで待っていたみたいだよ。
行かせてあげたら」
そう背中を押したのはエミリーだった。
ジョシュは少し迷った顔をした。
それは近所の口うるさいおっさんの顔ではなく、思春期の息子を持つ父親のような顔だ。
「はあ。わかった。ただし一つだけ条件だ」
カルは息を飲んで次の言葉を待った。
「道中は寝ていろ。
寝不足は注意力を低下させる」
「わかった」
「よし」
カルは目を輝かせてジョシュを見上げ、ジョシュは微笑んでカルの頭を撫でた。
エミリーにも笑顔が見えた。
女の勘というやつだろうか。
カルが無事に帰ってくると確信しているような顔だ。
でもそれと同時にどこか不安そうな顔もしていた。
クマがびっしり。
ベンのことが心配であまり眠れなかったのだろう。
話している間に数人の傭兵が集まり準備が整った。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ベンとエミリーが手を繋ぎ、行ってきますのキスをする中、他の人員は地下鉄の線路を進み始めていた。
ベンは手を離し、それに続いたのだった。
エミリーは笑顔で愛する夫の背中を見送る。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
[×MEMORY:44TD1PS]
ヒルズの方へ戻ろうとしたその時、
事務用の「STAFF ONLY」と書かれた、
ドアに入っていく人影が見えた。
私はその人影を追った。
入り組んだ薄暗い地下の道を抜けた。
光が見え、その方向に進むと、そこにいたのはクリスと……
「奴らはどこに向かった?」
氷のような冷たい声が響いた。
軍服に身を包み、冷徹な瞳で地図を見下ろす女。
NSF軍事部局長カミラ・マクレーンだ。




