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ENDEAST:転生ドロイドの記憶《キルログ》  作者: 桜乃孤坐
第1章 自由の残響:転生篇

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LOG.20 5年間の軌跡

あの後、いろいろあった。

いろいろというのは、本当にいろいろだ。

まあ順番に話そう。


ホープ誕生から1週間後。

夜明け前のマンハッタンで大規模な軍事作戦が行われた。

その内容は、安全を確保するために、街に住み着いているE2ドロイドを殲滅するというもの。

夜露で湿ったアスファルトの上を、奴らの青い血で塗りつぶしていった。

結果的にこの作戦は、死傷者0人、推定総討伐数2000体強の大成功。

思いの外うまくいったので逆に怖かった。

こういうのは大抵、何か良くないことが起きる時の前兆だ。


そう警戒していたのがバカみたいに、物事は順調に進んでいった。

俺たちは居住区を拡大することに成功したのだ。

今ではクイーンズとブルックリンで合わせて1000人の人間が平和に暮らしている。


これには、ジョシュの活躍が必要不可欠だった。

彼は街一つを丸ごと囲むほどの巨大なバリケードを張り、奴らが近づけないようにした。

このバリケードに触れると、青い血液が硬直して身動きが取れなくなる。

第2話、第12話で登場したグレネードと同じ原理らしい。


俺とルナ、カル、ジョシュ、そしてホープはクイーンズに引っ越した。

比較的住めそうな家を勝手に整備ししたのだが、かなり大変だった。

何せ、10年間誰も住んでいないボロ屋だ。

埃やネズミがもう、ひどくって。

特に、死んだ水道とガスコンロを復旧させるのが一番難しかった。


でも、そうして出来上がった家は、俺たちにとって憩いの場所となった。

夜、蝋燭の小さな光の中でホープが寝息を立てると、それだけで「今日も生き延びた」と思えた。

世界が壊れてることを、一瞬だけ忘れられる。


街が出来上がって行く一方で、脱出の糸口を見つけ出した。

それは、自分たちで船を作る、というシンプルなもの。

生き残りの中に、造船の知識がある人なんていなかったので、設計図は俺が描いた。

1日で参考書30冊分を読み込み、出力することができたからだ。


その甲斐あって、次第にみんなは俺を仲間だと認め出してくれた。

前世では考えられないほど、人との関わりが増えて行く中、ふと、彼らと本物の言葉で話したいと思い始めた。


それで、俺は翻訳機能を外し、ルナから生の英語を教わった。

記憶定着率100%のメモリーのおかげで、1ヶ月足らずで習得できたのだが、個人的には、先生が優秀だったからなんじゃないかなと思っている。

そう言うと、ルナは少し照れて、もうほんと、バカクソ可愛い。


可愛いと言えば、ホープもだ。

みるみる成長して行くこの子を見ると、柄にもなく頑張ろうと思えてくる。

これが、絆されると言うことなのだろう。

泣き声ひとつで全員が動き、笑っただけで全員が救われる。

世界が終わっても、赤ん坊は世界の中心だ。


それは、彼女を取り巻く多くの人に伝染していった。

特に、カル。

自分で進んでオムツを変えたり、ミルクを与えたり、もうすっかりお兄ちゃんだ。

身長も少しずつ伸びていき……いや全然少しずつじゃねえな。

いつの間にか、180cmまで伸びていた。

成長期半端ない。


目まぐるしく成長していくホープらとは対照的に、ベンは酒に溺れてしまった。

愛する妻を、エミリーを失い、すっかり廃人と化してしまったのだ。

酒瓶が転がるクイーンズのボロアパート一室で一人、焦点の合わない目でどこかを見つめていた。

ボストンのリーダーだった彼は、今や街の厄介者だ。

俺はひしひしとその責任を感じていた。


ベンに代わってリーダーになったのはデボンだ。

彼は、ジョシュと二人三脚で街の発展に貢献した。

食糧不足、インフラ整備、教育現場の復旧とさまざまな問題を解決していく傍、造船の方にも積極的に参加してくれた。

とりあえず、そこら街中の電車をかき集め、解体し組み立てて入っているものの……完成がいつになることか。


俺の仕事は船造りともう一つ。

東側の警備だ。

カルにジョシュ、それとお坊さんのジンと、スナイパーのベクター。

男5人組で毎晩夜遅くまで巡回していたが、結局一度も敵が来ることはなかった。


消化不良の俺とカルは、仕事終わりにジョッシュに剣の稽古をつけてもらった。


「プログラムに頼るな!

 自分の目で見て、頭で考えろ!」


それがジョシュの口癖だ。

特訓の甲斐あって、俺の剣の腕前は上達していった。

でも、一対一では負けないものの、俺よりもカルの方が成長速度は早かった。

まじ、成長期半端ない。


ある日の夜のこと。

俺がホープを抱き抱えた時だ。


「パパ……」


一度だけ、たった一度だけ、ホープが俺をそう呼んだ。

めちゃくちゃ嬉しかった。

ルナのことはずっとママと呼んでいたし……。

でも、実の父であるはずのベンの心境、自分が人間ではないこと、リバプールに行った時に俺の処分がどうなるか、それを考えれば、複雑だ。


最近、ルナやベンもこのことで言い争うようになった。

俺はいつも、ドアの前でその声を盗み着いていた。


「今のリバプールに自由なんてない。

 このまま戻れば、きっと……」


「お前の気持ちはわかる。

 でも本当に一緒にいたいなら、認めさせるべきだ」


この会話から、リバプールの状況がなんとなくわかる。

人間は決してドロイドを受け入れやしない。

ドロイドが人間を受け入れないのと同じように……。


俺たち5人の歪な家族の日常は、あっという間に過ぎ去っていった。


———2051年8月13日ニューヨーク———


この日、この場所で、運命の歯車は動き出す。

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