LOG.19 新たな旅の始まり
「説明しろ、カミラ・マクレーン」
炎を上げ、粉々になった列車の中から現れたのは、NSF最高指導者にして、エデン直属の精鋭部隊GARDENの幹部アダム・バックナーだった。
その完全無欠の装甲にカミラはひれ伏すしかなかった。
「奴は、この湖の底に……」
「何?
それが何を意味するのかわかっているのか?」
「この落とし前、今すぐボストンの残党を殲滅することでどうか……」
「人間殺しなど、なんの価値もない。
我らが始末すべきは島国の猿どもだ。
わかるか?
お前は用済みだ。
貴様を永久追放とする」
その怒号を前に、カミラは苦渋を飲んだ。
「ボストンを下したのは私だ!
私はこれまで、誰よりも人間を殺してきた!」
「黙れ」
赤い稲妻が、アダムの体を覆った。
それは、カミラの神経を狂わせる。
芯の髄まで震わすエラー信号。
これこそ幹部たる力の証であった。
「10時間以内にここを去れ。
でなければ殺す」
「私は……どこに参れば……」
カミラ・マクレーンはNSF軍事部長官の座を辞し、ロンドンへと送られた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの後、仲間と合流してニューヨークの拠点に向かった。
ルナは生まれて間もないホープを抱き抱えたまま、二人して眠ってしまった。
ホープの小さな呼吸に合わせて、ルナの肩がわずかに上下する。
視界の端で、バッテリー警告が点滅している中、ベンは俺に聞いた。
「あの女は、殺したのか?」
あの女とは、無論カミラ・マクレーン。
エミリーを殺した女だ。
どう答えればいいのか、一瞬戸惑った。
「いや、殺してない」
ベンは目を見開き、その瞳に何かを宿らせて言った。
「そうか……」
その声は怖いほど静かで、ベンはそっと目を閉じた。
この続きに彼が何を思ったのだろうか。
その答えが見つからないまま……
[×SYSTEM:シャットダウン]
「ノア…!」
[×SYSTEM:起動]
「着いたわよ」
「あれ、いつの間に……」
バッテリーが切れ、眠っている間にニューヨークに到着した。
そこは、昨日よりも少しだけ静かに感じた。
でも、外の様子とは対照的に、ターミナルでは人盛りができていた。
その中心にいるのは、人類を裏切った女、クリスの死体だ。
「お母さん!お母さん!」
レオは亡き母を前に、泣くことしかできなかった。
声が掠れ、小さくなっていく。
だが、それを見て同情するものは少ない。
この世界で、親を失った者など何ら珍しくもない。
ましてや裏切り者の息子などとあらばなおさらだ。
冷たい視線は、少年をさらに絶望へと追い込んだことだろう。
そう言いつつ、俺も心配できる立場ではない。
冷たい視線は俺にも向けられていたのだ。
ボロボロのE4ドロイドが急に現れたら、そりゃ驚くよな。
「ノア!来い!」
ジョシュの声だ。
冷たい視線を感じたまま、ビルに入った。
連れられたのは9階のオフィスルーム。
一昨日と同じ部屋だ。
ジョシュは埃のついたソファに座ると、破損した右胸を丁寧に修復した。
見かけによらず器用な人だ。
「痛むか?」
「体の痛みはない」
そう、体の痛みは……。
「聞かないんだね。何があったのか」
「聞いていいのか?」
ジョシュは少し明るい声色で言った。
窓の外を一度だけ見て、すぐ俺に戻す。
「じゃあ、聞こう」
「列車が突っ込んで、塔が崩れた時、俺は3人を抱えてた。
そしたら、あの女が、カミラが、短剣を投げつけたんだ。
その刃は、俺を貫通して、そのまま、エミリーを……刺した」
エミリーの赤い血と、そこに滲む俺の青い血を思い出す。
ジョシュは手を止めずに俺の震える声を黙々と聞いてくれた。
工具の音だけが、やけに優しい。
「最後に、カミラを追い詰めた。
剣を振るえば、殺せた。
でも……殺さなかった……」
「そうか」
「奴は、人間を大勢殺した。
エミリーも……。
そんなやつを……見逃してしまった」
「そうか」
「もし、あいつが、報復に来たら……今度は……。
俺は……俺は……俺は……」
カンッ
ジョシュは俺の頭を軽く叩いた。
金属の鈍い音。
叱るというより、目を覚まさせる音だった。
「悔やんでる暇はない。
今やるべきことを考えろ。
お前は、何をすべきだ?」
ジョシュはまた父親のような口調で言った。
その声には、押し付けがない。選ばせる声だ。
俺はわかっていた。
前世で何もできなかった俺が、今すべきことは何なのか。
「俺は、みんなを連れて行く。
リバプールまで、何としても。
そして……ルナを守る」
「よし」
それが、人間としての俺ができる唯一のことであり、転生した意味だと、そう思った。
ここから、新たな物語が幕を開ける。
この大陸から脱出し、英国へと帰還するための旅が。
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この物語は、完結まで書き切る覚悟で書いています。
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