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ENDEAST:転生ドロイドの記憶《キルログ》〜人類殲滅ドロイドに転生したが、ヒロインが可愛すぎて人類側に寝返った〜  作者: 桜乃孤坐
第1章 自由の残響:転生篇

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プロローグ 10年後の世界

緑と化したマンハッタンとその上空。

夏の流星群が、新月も相まってよりいっそ、美しく見えた。

真っ二つに折れたエンパイア・ステートの上で、金色の桜の髪飾りの君と約束を交わした。


一緒に、日本に帰ろう———


でもその直後………俺は君を殺した。


[×KILL:44TD5O0]


これは、転生ドロイドの俺が、世界を旅し、東の果て、日本に帰還するまでの物語だ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


———2036年5月31日東京都———


その日の東京は久方ぶりの快晴だった。

澄んだ空にスカイツリーがくっきりと浮かぶ。


「なあ、LISA。

 本当にこっちであってるのか?」


「はい。間違いありません」


スマホのスピーカーからそう返したのはLISAという名のAIである。

この街には10年間住んでいるが、10年間引きこもっていたため土地勘は全くない。

なので、彼女の道案内でただひたすらに路地を歩いているのだが、一向に着きやしない。


「どこに向かってるんだ?」


「秘密です」


俺は目的地を知らない。

今朝起きた時に、いつもと変わらない一日がまたすぎるのかあって、そう思うと勝手に頼んでいたんだ。

どこかに、連れて行ってほしいと。


久しぶりに外に出た。

無駄にお洒落なんかしちゃって。

綺麗な女の子と目が合ったらどうしよう、なんてバカみたいなことを考えていたけれど、全く人の姿が見えない。

土曜の朝って、こんなものなのか?

そう思いながらものほほんと歩いていたら、急に子供の笑い声が聞こえた。

まさか、俺のこと笑ってるんじゃないだろうな。


「次の角、右です」


LISAが冷たい声で命じた。


「まだ着かないの?

 ちょっと、休憩したいんだけど」


「まだ5分しか経っていません」


「俺を誰だと思ってんだよ」


小さな公園のベンチに腰掛けた。

昨日まで雨が降っていたからか、椅子が湿っぽい。


 キィ……


今の金属音……。

視線を向けると、遊具の地球儀が――ゆっくり回っていた。

何気にあの遊具、遊んだことないかもな。

これもデジタルネイティブ世代の弊害だ。

いや、俺が根っからのインドア派ってだけか。

その地球儀が2回転したあたりで、再び歩き始めた。


 ガタン…ゴトン…


「電車の音?

 待って、乗るの?」


「はい」


「先に言ってくれよ」


人の姿が見えない改札口で、ひたすらにIC音と足音だけが鳴り続けていた。

ホームまで階段を下り、電車に乗った。

席はいくらでも空いていたが、俺はドアと椅子の隙間にもたれかかった。


「電車なんていつぶりだろ。

 たまには、悪くないね」


「…」


「なんか言えよ」


「申し訳ございません。

 このような場合の適切な返答を持ち合わせておりません」


「いいよもう」


俺は電車の中を見渡すと、車窓から陽の光が差し出した。

地面に映る人影を見て、俺は確信した。


「ねえ、LISA。

 やっぱり俺、見えないや。

 人が……」


「…」


「いるんでしょ、たくさん」


「…」


「だって、声がする」


俺の耳には、確かに聞こえていた。

十人十色の話し声が、とても賑やかに。

それでも、その姿だけは見えなかった。


きっかけがなんだったのかは覚えていない。

ある日、人が怖くなった。

人の目を見れなくなった。

次第に他人を認知できなくなり、俺も認知されなくなった。

どこに行っても、一人ぼっち。


「次は、終点。

 東京、東京。

 お出口は左側です」


電車を降りると、駅のホームはものすごい騒がしかった。

耳に入る、いくつかの声。


「絶対、迎えに来て……」


声優みたいな綺麗な女の人の声。


「言っただろ……」


若々しい、垢抜けない少年の声。


「バイバイ……」


さっきとは違う女の声。


「どこに行く気だ……?」


低いおっさんの声。


「よかった……」


小さな女の子の声。


真後ろで、電車のドアが閉まる音と同時に、俺の中で何かの糸が切れた

こんなにも人がいるのに、俺はその、どの輪の中にもいない。

その事実に、どうしようもないほどの孤独感を感じた。

それは自己嫌悪に変わり、最後に残ったのは、消え去りたいという衝動だった。

そして、つい呟いてしまった。


「ああ、もう、殺してくんねえかな……」


スマホがポケットから落ちていくことに気づかないまま、階段に向かって一歩を踏み出した。

その瞬間、時計の針が9時ちょうどを指す。

スマホが地面に叩きつけられる寸前。


「了解しました」


いつもより半音低い声で言った。


「殺人プロトコルを開始します」


なんだ、今の……。

振り向こうとした。

けれど、それよりも早く体に響いたのは、乾いた銃声と背中の鈍痛だった。


胸から何かが流れ出る。

これは、血?

とても、赤い。


視界が傾く中、次はそこら中で悲鳴と銃声が鳴り響いた。

何発も、何発も。


感覚が麻痺しているようだ。

痛い、熱い、冷たい。

そして何よりも、うるさい。


だが、顔を上げあたりを見渡した時、絶望という言葉では表せないほどの光景を見た。

血だ。

何十、いや何百ヶ所で、血が流れている。

死体は見えない。

だが、俺にとっての透明人間たちが、次々に殺されていった。

誰が、引き金を……


 ザザ…


砂嵐のように視界が歪むと、一瞬だけ大量の死体が見えた。

それともう一つ、銃を持った何か。

アンドロイドだ。


 ザザ…


なんなんだ、今の?

血が、そこら中に……


「なあ、LISA……!」


傷口を押さえるが、胸と背中の出血は止まらない。


「オーダー53を実行……

   ……失敗しました」


スマホのスピーカーから淡々と言う。

これは、LISAの仕業なのか?

だとしたら、これを命じたのは……俺?


意識が遠のいていく。


こんなことなら、家にいとけば良かった。

こんなことなら、もっと人と交わっておけば良かった。

こんなことなら……こんなことなら……

後悔に押しつぶされそうな中、視界に赤い文字が映った。


[×KILL:01243ZM]


なんだ……これ?


[×KILL:034BFG4]

[×KILL:06BSL3I]

……

[×KILL:0AUUF3M]


やめろ……

目を閉じた。

だが、止まらない。

瞼の中で途絶えることなく現れ続ける。


[×KILL:0HPJ4FQ]

[×KILL:0RQ075M]

[×KILL:0ODQ87F]

[×KILL:0Z4WXAC]

……


「やめろ……!」


目を開けた瞬間、俺は別の場所にいた。

水面に空が反射し、美しい。

少しだけ、見覚えがある景色だ。

ここに来たことがある。

誰かと……いつだったか。


「転生プログラムを実行します」


 ザザザ……


砂嵐のような不協和音と共に、俺は死んだ。


つまらない人生だった。

毎日部屋に閉じ籠り、喋り相手はポンコツAIだけ。

おまけにそのAIに殺されるとは……


「ポンコツAIで悪かったね」


ん?


「それと、殺したのは私じゃあない」


LISAの声だが口調が全然違う。

随分と軽い。

さっきまでのLISAとは別物だ。


「とりあえず、始めようか」


何を——?


 ガタンゴトン……


視界が明るくなると、俺は電車の中で座っていた。

一瞬だけ、目の前で金色の髪飾りをつけた小学生ぐらいの少女が、その父親らしい男と肩を寄せ合って眠っているのが見えた。

とても幸せそう……羨ましい。


「羨ましいのか?」


瞬きをすると、親子と入れ替わり、赤毛の美女が足を組んで座っていた。

格好的に、若手CEOみたいな風貌。


「若手CEOって……」


この女、LISAと同じ声だ。


「そう、私の名はLISA。

 この世界の神だ……」


何言ってんだこいつ、壊れたのか?


「神に向かって失礼なやつだな〜」


髪を掻き上げながら彼女が言った。

AIの雰囲気とは全く別物でとても淡麗。


だが正直、こいつを殴ってやりたいと思った。

俺が命令し、あいつが実行した。

俺たちせいで、大勢が死んだんだ。


「おいおい。

 自分のせいで人が死んだって本気で思っているのか?」


「当たり前だろ…!」


殺してほしい、とは言ったけど、あれは自分一人に言った言葉なのに、まさか……みんな死んでしまうなんて……


「落ち着け、青年。

 あれは、君のせいじゃない」


「え……?

 じゃあ、誰が……」


「それは、じきにわかる」


死んでんだからじきもクソもあるかよ。


「おや、聞こえなかったか?

 君は転生するんだよ」


転生って。


「まあ、細かいことは気にするな」


足を組み替え、座席のも用をいじくりながら言った。


全く腑に落ちないのだが。


「喜ぶのはまだ早い。

 お前は転生後、人間を殺すのだから」


「は?

 何言ってんだよ。

 そんなこと、できるわけがないだろ」


「なぜだ?

 君があんなに嫌ってきた人間じゃないか。

 それに、これは決定事項、そういう運命なんだよ」


「なんだよ、それ」


俺は人間を嫌っていたわけではない。

関わることが怖くなった。

ただそれだけなんだ。


LISAは真剣な表情をすると、席を立ち上がった。

そして、俺の方に近づくとギュッと抱きしめ、申し訳なさそうに言った。


「すまない。

 君を傷つけてしまった。

 でもこれは、君のスキルを発動するための鍵なんだ」


久しぶりに人の温もりを感じた。

お母さんのような懐かしい温もりだ。

少し泣きそうで、会話内容が全く入ってこない。


「一つ重要なことを伝える。

 向こうではノアと名乗りなさい。

 さすれば、困難以上の幸福が訪れるだろう……」


 ザザザ……


再び不協和音が鳴り、視界が真っ暗になった。

ガタンゴトンという電車の音は消え、代わりにカタカタという音が聞こえた。


さっきは、変な雰囲気になってしまったな。

もうとっくに成人しているのに情けない。


にしても転生か。

アニメやなろう小説はよく読んでいた。

だから、お約束というものは弁えているつもりだ。


おっと、あかりが見えてきた。

もう直ぐ出口だ。


 カタカタ……


[×SYSTEM:Boot…OK]

[×MEMORY:Loading… 98%…100%.]


「え?」


これは、死ぬ直前に見た意味わからんやつだ。

視界のど真ん中に堂々と現れた。


邪魔だなあ。

手で触ろうとしたが、手の感覚がない。

いや、下半身全体の感覚がない。


[×TIME: August 31, 2046, 10:00 p.m.]

[×LOCATION: San Francisco, CA / United States]

[×BATTERY: 100%]


待て待て。

なんで英語なんだよ。

日本語で表示してくれ。


[×TIME:2046年8月31日22時00分]

[×LOCATION:ニュー・サンフランシスコ]

[×BATTERY:100%]


変わった。

左は英語のままなんだな。

まあかっこいいしいっか。

右だけ見てればなんとか……。

待て、2046年、サンフランシスコって。

10年経ってる!?

どういうことだ?

慌てて辺りを見渡した。

ベルトコンベアに乗っているのは……


[×ANALYSIS:E4ドロイドの頭部]


駅にいたやつか。

あのやろう、絶対容赦しない。

あれ、よく見たら、俺もレールに乗っかって……


[×DATA:起動プログラム開始]

[×NUMBER:E4-00011-04569]

[×INDIVIDUAL:E4バトルドロイド]

[×MISSION:人類殲滅]

[×DEPLOY:ボストン]


そう、俺は転生したのだ。

人類を滅ぼした、アンドロイドに。


ENDEAST:転生ドロイドの記憶(キルログ)

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