第八話:勇者のコストと都市計画
魔王城の城壁が、黄金の爆光と共に消滅した。
「悪の根源、魔王よ! 世界をリセットしに来たぞ!」
現れたのは、レベルカンストの暴力を誇る『剛力の勇者』と、清廉な瞳で理想を説く『聖潔の勇者』。 彼らは魔王の手からコントローラーを叩き落とし、その首元に聖剣を突きつけた。
「この淀んだ世界を、我らの光で一度無に帰す。それが救済だ!」
魔王が愛機(ゲーム機)の破壊に呆然とする中、蓮は無造作にモニターの残骸を踏み越え、二人の前に立った。
「……失礼。まずは『不法侵入』及び『器物損壊』の現行犯として、氏名と転生識別番号を伺います。あ、鑑定書も提示してくださいね」
「どけ、役人! 救済に法など関係ない!」 剛力の勇者が、蓮を消し飛ばそうと聖剣を振り下ろす。だが――。
「――『翻訳不全』。広域法務執行」
蓮がバインダーを掲げた瞬間、勇者の脳内に、次元を越えた「4K画質の地獄」が強制ロードされた。
勇者が見たのは、魔王の死ではない。 日本に住む自分の両親の元に届く、『異世界損害賠償・連帯保証人督促状』の山。 息子が異世界で暴れたせいで、実家が差し押さえられ、父親が過労で倒れ、母親が「あの子がご迷惑を……」と近所に頭を下げる生々しい映像。 右下には、刻一刻と増えていく【延滞利息:年率18%】の赤い数字。
「……っ!? な、なんだ、この映像は……! やめろ、母さんに触るなッ!!」 最強を誇った勇者が、剣を放り出し、子供のように頭を抱えて蹲った。
「あなたの破壊一回で、実家の土地が二坪ずつ消えていく計算です。……さて、次の方」
蓮は、もう一人の理想派勇者に冷徹な視線を向けた。
「大義、ですか。あなたの放ったその『聖なる光』。発生した余剰魔力により、近隣の農作物は全滅、絶滅危惧種の森の精霊は3万匹が消滅しました。これは統計学上、『救済』ではなく『無差別テロ』に分類されます」
「な……テロだと!? 私は世界を美しくするために――」
「美しくしたいなら、まずはあなたが垂れ流した『魔力残滓』の産廃処理費用、金貨五千万枚を計上してください。『無計画な善意』ほど、この世界にコストを強いるゴミはありません」
理想派の勇者は、蓮が突きつけた「二酸化炭素排出量」と「賠償額」のグラフを前に、膝から崩れ落ちた。 最強のチートも、蓮が握る「社会のルール」という名の現実の前では、ただの不良債権でしかなかった。
「……ベルさん。彼らを拘束。管理局の強制送還待機所へ。魔王様のモニター代は、彼らの『一生分の労働賃金』から天引きしておいてください」
「は、はいっ! 九条さん、今日も魔王より悪魔ですね……!」
【後書き】
はい、天界の発送課です! 九条くん、ついに「次元を超えた集金」まで始めちゃいましたね。 これ、私たち運営もびっくりですよ。実家の親御さんに請求書を送るなんて、どんな禁呪よりも効き目があるに決まってます。
それにしても、「聖なる光」の産廃処理費用……。 あれ、天界でも実は問題になってて、処理場がいっぱいなんですよね。九条くんがこうして「数字」で厳しく管理してくれると、こっちの事務作業も捗ります。
次回、ついに「魔王城の更生施設化」が完了。 勇者たちがふんどしを洗う代わりに、真面目に内職に励むシュールな光景が見られるのでしょうか? お楽しみに!




